青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_20_ 限界

「疲れたな...」

ひのきは部屋へ戻ろうとしたが、あまりの眠気に誘われる様に人気のない談話室に吸い込まれる様に入ると、そのまま窓際の椅子に腰をかけた。

今迄はちょっと治安の悪い地域の警察のような感じだった仕事が、最近は戦時下の軍隊化している。


この変化の予兆は丁度極東コンビと呼ばれているユリとなずなが来る少し前だから2ヶ月半ほど前、豪州支部が壊滅した頃から始まっていた。

レッドムーンが現れてから300年の均衡が確実に崩されてきている。

どんどん強くなる敵、激化する戦闘に耐えるため、今迄は誰も気にしなかった共鳴率という言葉がここにきて急に注目されてきた。

レッドムーンに造られた魔導生物や強化人間イヴィルに対抗しうる唯一の武器であるブレスドアームス。

それはクリスタルが選んだクリスタルと共鳴できる人間、ジャスティスのみが使える武器だ。

それ自体充分強力な武器ではあるが、それでもさらに共鳴率があがってくると、本来は各々に合わせた固定の形をしている武器の形を確認できている限りで3段階まで変える事ができ、その形態によって使える技の種類も変わってくる。

きっかけはひのきだった。

他のジャスティスがみな出払っていて出動できるのは近接系のひのき、遠隔のユリ、治癒系のなずなの3人きり。

決して悪い構成ではない、むしろ良い構成と言っても良い方だったが、いかんせん敵が多すぎて通常戦闘だと他の二人にも負担がかかると考え、使用後の負担が大きすぎて7年間封印していた第三段階羅刹モードを使った。

禁じ技だっただけにその効果はすさまじく、それを禁じ技とした使用後の負担もなずなの治癒能力で著しく軽減された。

さらに極東コンビも二人ともそれぞれかなりお役立ちな第二段階の能力の持ち主だっという事がその戦いで判明したため、この第二段階以降の能力が一気に注目を浴びる事になった。

未だそれを使う本人達にすら共鳴率を上げる方法はわからず、まだ第二段階に目覚めていない残りの面々の共鳴率を上げる事が、今後激化する戦いの準備として急務となった。

しかし様々な修練を試している間だからといって敵は待ってはくれない。

それどころか日々出没回数は増えて行く。

必然的に...すでにその方面の修練が必要ないひのきと極東コンビ、通称日系トリオの出動回数が鬼の様な勢いで増えて行く。

近場から遠距離まで、続けて回り連戦する事も増える。

まず一番体力のないなずながダウンする。

それでも敵は待ってはくれない。

ゆえにイヴィルが一人以下の時はなずなを休ませてユリと二人で回る。

時には連戦の時になずなを車に残したまま戦い、次の戦場へという風になる事も。


朝には絶対に基地内にいたいというユリのたっての希望もあって、可能な限り午後~早朝の時間内で回る。

生活は限りなく不規則。移動は車で運転もひのきだ。
これではさすがに鍛えているひのきでもばてる。

それでも今日、明日は10日ぶりの休日のはずだった。

今日明日だけは敵が出現しても他ジャスティス全員使ってでも対処してくれるという事なのでゆっくりできる。

やりたい事...というよりやらなければならない事がたくさんあった。

まず最優先がなずな。

日本から中国、ロシア東半分までという広範囲を中~遠距離ジャスティスのユリと治癒系のなずなの二人だけで長年受け持って来たというだけあって、二人とも本部のジャスティスでは考えられない激務を当たり前にこなしていく。

しかし今回は本当に限界をはるかこえている。
笑顔で任務をこなしながら熱を出して倒れる事数回。

「大丈夫だから」
としか言わないが大丈夫なわけがない。

まずは無理にでもなずなを医務室へ連れて行ってレンに精密検査させて、シザーになずなの分だけでも勤務状況の改善をさせないと、いつか過労死する。

もちろん自分の最初の...そして最後のつもりの可愛い彼女なわけだから、二人で一緒にゆっくり過ごしたいなどという欲求もなくはないが、とりあえず休ませる事が優先だ。

それが終わったらフェイロンを交えて一度シザーと他の共鳴率の状態と、今後の戦闘修練の方針を話し合わないと、このままだと自分達3人がもたない。

シザーがことさら自分に無理な欲求をぶつけてくるのは今に始まった事ではないが、今回は度を超えている。

しかも自分だけではない。ユリが比較的タフなのは救いだが、自分ですらきついのだ。

こんな生活があと1ヶ月も続いたら確実になずな、ユリ、自分の順番でつぶれる事うけあいだ。

さらにそれが終わったら自分も一度レンの健康チェックを受けたい。
体が資本だ。ユリにももちろん勧めないと。

それで余裕があれば基本鍛錬も一通りきちんとしておきたいし...。

とりあえずここで少し休んだらまずはなずなをレンの所へ連れて行こう。

ひのきはそのまま意識を手放した。



「...タマ~、好きなんさ~」
ボソボソっと聞こえる声。

「そういう事は俺じゃなくて本人に言え!」
心底疲れきって熟睡していたせいか、人がこんなに近くにきていた事にすらきづかなかった。
不覚...という気持ちもあって不機嫌に声の主に言う。

それでも数少ないプライベートでもつきあいのある友人だ、話くらいはきいてやる。

自分の彼女とすごす時間すらないのに、何が楽しくて他人の恋の心配をしてやらないといけないのやら。
ユリの事が好きらしいというのはうすうす気付いていたが、何もこんな時に...と眠さ、面倒くささが若干優勢。

しかしその相手も実は本人達以外知らないが自分の親戚筋。
しかも...その非常に縁が深い3つの家の中心となる家の頭領として育てられていた事が身内の面倒は見てやらないとと言う変な義務感をわきおこすからやっかいだ。

自分達が親戚な事、名前の由来など、ホップがある程度満足するまで答えてやった後、適度な所で寝たふりをして追い払い、しかしきちんとユリの方にも教えた内容とともに少し優しくしてやれ!と、ちゃっちゃとくっつくならくっつけという思いを思い切りこめてメールをしておく。

これ以上面倒ごとが増えるなんて冗談じゃない!
だが悔しい事に以前ユリに指摘されたようにそれを本当に見限れるようには育ってないのだ。

おかげですっかり目が覚めてしまった。
そこでしかたなしに次の予定に移る。

なずなを医務室に連れて行こうと、ひのきは談話室を出て5区に向かった。

しかしノックをしてもなずなは出ない。

疲れて寝ているのか、まさか中で倒れたりとかしてないよな?と、若干心配になってもらっていた合鍵で中に入るが部屋にいない。

即また部屋を出て鍵をかけると隣のジャスミンの部屋をノック。

自分と一緒でもなく部屋でもなければ一緒にいる可能性が高い。
ところがこちらも不発。

しかたない、携帯で、と、電話に手をかけたところで電話がなる。

「はい、ひのき」
と出るとまさに探していた相手の声が。

「タカっ、あのね...きゃっ!」
あわてたような彼女の声と途切れる会話。

(...わああ...姫ちゃん、それやめてっ!)
(...なにをするんですかっ、返して下さいっ...)

争うような様子が受話器の向こうでかすかに聞こえて電話が切れる。


ひのきは即、攻撃特化アームスの跳躍力をフル始動で3区へ向かった。もちろんアームスは発動させて...そしてブレイン本部についた。

ブレイン全体が緊張に凍り付く。

「おい...なずなをどこにやった?」
まっすぐ本部長のデスクまでいくと、ひのきはチャキっとシザーに刀をつきつけた。

「あれ?おはようひのき君。姫ちゃんは今日はここに来てないよ」
シザーはにこやかに言う。

あくまで言わない意思表示だろう。
ひのきは一瞬の沈黙のあと、笑みをうかべた。

「教える気ある奴はここにはいねえって事だよな。
もういい。毎日毎日休みもなしに働いた挙げ句大切なあたりを平気でふみにじられちゃ、世界の平和なんてもう知ったこっちゃねえよ、こっちも」

ひのきの言葉にシザーの笑顔も凍り付く。

「どいつもこいつもみんな死んじまえっ!...変形、羅刹!!」
いきなりひのきは羅刹を発動させた。

衝撃で細々した物や書類が吹き飛ばされてそこら中を舞い散り、窓ガラスにヒビが入る。

「む、向こうの部屋ですっ!!!」
何人かがそこであわてて立ち上がって隣の録音室をさす。

「だ、そうだが?」
ひのきは羅刹の発動を解いてギロっとシザーをにらみつけた。

「みんな...言っちゃだめじゃないか」

張り付いた笑顔のまま言うシザーに

「だって命は惜しいですもん」
という面々。

すでに数人が立って隣の部屋に行き、なずなを連れてくる。

「タカッ...」
走りよってくるなずなをひのきは抱きしめて言った。

「大丈夫か?何もされてないな?」
「うん。電話とりあげられて閉じ込められただけ。
だからみんなに乱暴はしないでね?」

室内の惨状を見回して、少し心配そうに言うなずなに、ひのきはうなづく。

「ああ、なずなが何も危害加えられてないならいい」

「部長...姫にだけは手を出したらまじやばいっすよ。今後絶対に止めて下さい。
まじブレイン本部どころか下手したらブルースター本部ごと壊滅させられますっ」

後ろでブレイン本部主任スターチスが泣きながら書類を拾い集めている。

「う~ん…でも追求されるとそれはそれで…ユリ君とホップ君も怖いし…」
と、シザーは衝撃で落ちて割れたカップの破片をやっぱり集めながら言った。

「で?いったいどうしたんだ?」
ひのきの問いになずなはチラっとシザーを振り返る。

「えと...ね、さっきたまたまジャスミンとユリちゃんが戦闘服で走っていくの目撃したから後つけたら駐車場でホップさんも合流してどこか出かけたの。
で、いつもみたいにジャスティスの呼び出しの放送もなかったからどうしたのかと思ってシザーさんに聞きに来たら教えてくれなくて...だからね、タカから聞いてもらおうと思って電話したら...」

「閉じ込められたわけだ」
と続けるひのきになずなはコクコクうなづく。

「んで?どこに行ったんだ?あいつらは」
ひのきは片手でなずなを抱きしめたまま、片手で握った刀をシザーののど元にむけた。

「言う気なければお前殺してから他の奴に聞いても良いけど?」
「ひのき君...ひどいなぁ」
「あのなぁ...今まで俺はお前の無理いくつ聞いて来たよ?
それでなずなまで拉致られてまだ生かしておいてるだけで充分優しくないか?」

「B州のI地点ですよ」
シザーが答える前に、これ以上の乱闘はごめんとばかりにスターチスが答えた。

「あ~...口止めされてたのに言っちゃだめじゃないか。
まあ...言ったのは僕じゃなくてスターチス君だからね」
と、しかし若干ホッとしたように言うシザー。自分じゃなければ良いらしい。

「まあ誰が言ったなんてどうでもいい。行った理由と口止めの理由は?」

「行った理由は任務。
口止めの理由は...ユリ君が新しい事試してみたいらしくて試験的構成で行ったから姫ちゃんにばれたら多分止められるって...」

もう自分以外の口からばれたらオッケーらしくあっさりと吐くシザー。

「止めに行きますね。あの人はもう、他人の迷惑を考えないから。
ブレインの皆さん、ユリちゃんが大変ご迷惑おかけしました」

夫の不始末を謝罪する妻よろしく、大きなため息と共にそう言ってなずなはペコリと頭を下げた。


本部を出ると、なずなは出口方面に足をむけるが、ひのきがその体をだきあげる。

「つかまってろ」
それだけ言って一気に駐車場に向かい、着くとなずなをおろした。

「一人で行くから、タカは休んでて」

となずなが言うが、ひのきは

「あくまで一人で行くって言うなら却下。絶対に行かせねえからな」
と、車を回す。

「連日のお仕事で疲れてるのに...本当にごめんね…」

と言うなずなにひのきは

「なずなのせいじゃねえだろ。それに...本当は俺よりお前の方が休まねえとやばい」
と、なずなの少し青い頬を軽くなでた。

言われた地点まで来てみると銃ででも撃たれたような大量の豹型生物の死骸の中にまじって倒れている二つの人影。

なずなが即エンジェルボイスを発動して、とりあえずユリの怪我をある程度治すと、ひのきがユリとホップを車に放り込んだ。

先に気付いたのはユリの方だ。

「イテテっ!」
と第一声。

隣になずながいる事に気付いて、なずなと自分の左肩の傷とをまじまじと見比べる。

「傷...なんで治ってないの?」
と第二声。

無言で前を見据えているなずな。

「なずな、もしかして怒ってる?」
「....」
「無視すんなよっ!」
「......」

「......ごめん、悪かった」
ボソっとユリがつぶやくと、なずなはハ~ッと大きくため息をついた。

「本当に...どれだけの人に迷惑かけたかわかってる?
口止めされたシザーさんやブレインの方々、せっかくの休暇だっていうのにここまでつきあわされてるタカ、それにロクな説明もなしに無謀な試みにつきあわされて危ない目にあったホップさんやジャスミンも!」

「...俺は良いけどな、別に。
シザーも実は新しいデータ欲しいってのもあって黙認してんだろうから自業自得だし...
んで?なんの実験だったんだ?」
運転しながら聞いてくるひのきに若干ホッとしたようにユリが言う。

「ああ、ポチのな、2段階の発動実験。
私ら3人の共通点て禅かなぁと思ってここ2ヶ月くらいやらせてみたんだけど、それだけじゃなんだか発動する気配なくて、もしかしてある程度追いつめられないと駄目かと思ってそういう構成でやってみようかと...」

「んで結果は?」
「雑魚敵みただろ?あれはポチの新武器機関銃」
「なるほど」
淡々ときくひのきに一通り答えて、ユリはまたなずなに声をかける。

「というわけで、怪我治せよ、なずな。さっきから超痛い」
「治しません!」
「なんで?」
「ユリちゃんはねぇっ、昔から私が治してたせいで傷を負う怖さって言うのを考えなさすぎなのよ!
傷負うって事は痛い事で、重傷負えば下手すれば死んじゃうって認識が薄すぎ!
しばらくそのままで傷負って痛いっていう感覚をちゃんと覚えなさい!」

「ま...正しいな」
怒るなずな。

ひのきは助けを求められる前に先手を打ってその意見に同意しておく。

確かに自分もなずなの治癒能力にはずいぶん助けられてはいるが、やはり長年の習慣で咄嗟に傷を負うのを避ける。
それに対して、確かにこの2ヶ月一緒にいてユリはあまりに傷を負う事への躊躇がなさすぎだとは思った。

言われてみればそういう環境で育ってきたならそれもうなづける。

「これからは必ずしもなずなが側にいるとは限らねえからな。
傷をなるべく負わない戦闘ってのも意識した方がいい」

「ちぇ~、ひのきまで言うのかよっ」
ユリは口を尖らせて黙り込んだ。

まあ...自分でもわかってはいるんだろう。
基地に着くとなずなはユリを伴ってフリーダム、ブレイン各本部に報告に行き、ひのきはホップを抱えて医務室のドアをくぐった。

「なんや、外傷ないで?気ぃ失っとるだけちゃう?」
一応一通り調べてレンが言う。

敵は全部倒れていた。それで何で気を失う様な事があるんだろうか...。
ひのきの疑問をレンも感じ取ったらしいが、

「わからへんな、鉄線ちゃんきたら聞いてみよ」
と、とりあえずユリを待つ。

やがてなずなとユリが医務室にくるが

「さあ?わかんない。私気を失った時には確かに起きてたし」
と答えが返ってくる。

「まあええわ。本人起きたらわかるやろ。
鉄線ちゃんの治療は俺に任せて二人とももう休んどき」
レンが気を使って言ってくる。

とりあえず二人もけが人(?)が出たら健康チェックどころではない。
しかたなしにひのきはなずなを連れて医務室を出た。


「タカ...連日の任務で疲れてるのに巻き込んでごめんね」
廊下へ出るとまずなずなが口を開いた。

「馬鹿、気にすんなよ。お前のせいじゃねえし」
ひのきの言葉になずなは首を横に振った。

「ううん...私のせいかも。
小さい頃からずっとユリちゃんが怪我したら即治療繰り返してたから...
たぶん傷を負ったら怖いって事を知らないままきちゃったの、ユリちゃんは」
ひどく青い顔でそういうなずなは今にも崩れ落ちそうに見える。

「思い詰めるなよ。たぶんお前も任務続きで疲れてるんだ」
言ってそっとその細い肩をだきよせた。

なずなが静かに涙をこぼす。
元々線が細い方ではあったが、この2ヶ月でかなりやつれた。

「少し...部屋で休め。食事運んでやるから」
ひのきはそういってなずなを抱き上げた。

たいした距離でもないが、少しでも体力を使わせたくない。
なずなの部屋の前で彼女をおろすと、合鍵でドアをあけ、なずなを中にうながす。

「ちゃんと休んでろよ?」
と言うとなずなは涙目でひのきの上着の裾をつかんだ。

「食事持ってくる。...すぐ戻ってくるから」
と、その手をそっと外して、静かにドアを閉め、鍵をかけた。

そのまま急いで食堂に向かいテイクアウト用に色々つめてもらう。
食の細いなずなが最近さらに食べなくなっているのもすごく気になる。

「今日はテイクアウトか?」
食堂をでようとしたところで、不意に声をかけられて立ち止まると、フェイロンが立っていた。

「ああ、なずなが疲れてるみたいだったから休ませたいからな」
ひのきが言うとフェイロンはじっとひのきを凝視した。

「お前も顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「まあ...この状況じゃな。顔色思い切りよくってのも無理だな」
ひのきはその言葉に苦い笑いをうかべ、またふと真剣な顔になった。

「フェイロン...今度少しスケジュール調整交渉つきあってもらえねえか?
なずながまじやばい。
顔色悪いはメシ食わないはで...気付いたら冷たくなってそうで怖い」

「そんなにやばいのか」
ひのきの言葉にさすがにフェイロンも少し顔色をかえた。

「確かに最近ちょっと共鳴率共鳴率言い過ぎだな...
それでなくても唯一の治癒能力者だから代わりがいないしどうしても忙しくなるんだけどな...それにしても体壊しちゃ意味ないしな。
フリーダム側の意見として提案はしてみる。任せろ。
あとはそろそろ北欧支部も本部移る準備できそうだから最後の3人が合流してくるしな。楽にはなるはずだ」

「コーレアのおっさんがくるのかっ」
フェイロンの言葉に少しひのきの表情が明るくなる。

「ああ、奴がくればお前の負担もかなり軽くなると思うぞ。
それまでなんとか持ちこたえろ。
俺も何かあれば相談にのるからな。忘れるな。フリーダムは全面的にお前の味方だ」

フェイロンの言葉に少し胸が熱くなるひのき。

シザーも別に悪い奴だとは思わない。
この状況下だ。ブレインも方針転換を余儀なくされて色々大変なのだろう。
そのため今一番色々できそうなひのきに色々振りたくなるのはわかる。

ただ自分もそれほど余裕があるわけではないのだ。
当たり前に出来る事が前提であれもこれもと振られるときつい。

実際に何かしてもらおうとは思わないのだが、きついとわかっていてくれて、何かしてくれる気があるというだけで、フェイロンの存在はとても心強いしありがたい。

自分がこけたら終わりだと言うプレッシャー、なずながつぶれるんじゃないかと言う不安、そしてさきほどのシザーとのやりとりで感じたブレインに対する漠然とした不信感。ストレスがかなり限界に達しつつある中、唯一の救いと言ってもいい。

「さんきゅ。すげえ心強いし、元気でた。
でもフェイロンも忙しいだろうし、無理するなよ」
ひのきは礼を言ってフェイロンと分かれると、なずなの部屋に急いだ。


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