青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_19_ ジャスミンの憂鬱

自分はこの先やっていけるのだろうか...ジャスミンは今は誰もいない談話室の片隅で一人ひっそり座っていた。

「なんで逃げちゃったんだろう...」
誰にともなくつぶやく。


前日の任務で負傷したユリとホップは医務室で、アタッカーのくせに一人全く無傷な自分がいる。

足をひっぱったのはまぎれもなく自分だ。
同じアタッカーのはずのひのきはソロでイヴィル3人プラス雑魚いっぱいを倒すらしいのに、イヴィル一人すら満足に倒せない自分。

しかもあまりの戦えなさに撤退を指示されて、逃げてる間に近距離アタッカーですらないユリにその敵を倒してもらっていたなどという体たらくだ。

しかもそのユリはおそらく10体以上の雑魚の相手をしながら自分をかばってカバーに入ったせいで重傷をおった状態でというおまけつき。


必要無いとかいうレベルじゃなくて、自分はいない方がましなんじゃないだろうか。

昔ひのきが"やれるのにやらねえんじゃ一生役立たずだろうがっ!"と言った時は他がかばってくれて、単にひのきを意地悪だと思ったが、今ならその言葉が正しかったんだとわかる。

いったん退却して援軍を要請したあと、逃げた自分と戻ったホップ。

迷わず戻ったホップの方はその後、クリスタルとの共鳴率をあげる事に成功してさらに強い力を手にしたと聞いた。

敵を倒すアタッカーなのに敵を倒せないどころか自分をかばって重傷を負った盾と敵の前に出れば致命傷を負う遠隔能力者を見捨てて逃げてしまった。

勝てないと思った時点でもう怖くてたまらなくなった。
逃げなければ勝てたかもしれないのに。


「こんなとこにいたんですか。ジャスミン」

隣に人が座る気配とふってくる優しい声。

「一人で泣いてたら寂しいでしょ。
僕で良かったらいつでも胸貸しますから呼んでください」

良い匂いのする真っ白なハンカチが差し出される。

「...アニー...」

ジャスミンが涙が止まらない目をむけると、そのいつでも限りなく優しい幼なじみはそのハンカチで涙を拭いてくれた。

「アニー、あのね...」

彼はいつも優しい。決して厳しい事は言わない。
それをわかっていてこんな事を言う自分はずるいとは思うけど...

「あたし...役立たず通り越して足手まといよね...」

ジャスミンが言うと、アニーはちょっと驚いたように目を丸くして、次の瞬間優しく微笑んだ。

「そんな事ありませんよ。昔からずっとコンビを組んでる僕が保証します」

ほら...ね。絶対にそう言ってくれるのわかってる。
ずるい自分。でも...誰かに言ってもらわないと怖くなる。
罪悪感と不安で押しつぶされそうで...

「でも昨日ね...逃げちゃったの、一人で。
あたしのせいで重傷負ってる盾役のユリさんと遠隔のホップ見捨てて...」

そこまで言うとまた不安がこみあげてきて、涙が目からあふれだした。

アニーはジャスミンの頭を軽く引き寄せて自分の肩にもたせかけると、しばらくその頭を優しくなでつづけた。

そしてしばらくしてジャスミンの嗚咽がおさまりかけた頃、静かに口を開く。

「それは...自分の判断で?」
アニーの問いにジャスミンは軽く首を横に振った。

「あたしね...全然戦えなかったの。
一人で怖くて逃げたくて...結果隙だらけになって雑魚たぶん10体以上くらい相手しながらユリさんがカバーに入ってくれて怪我しちゃって。
そこでもう無理だって判断されて、撤退しろって」

「ユリの判断だったんですね?」
「...うん」

「じゃあジャスミンの取った行動は正しいですよ」
アニーはにっこり言った。

「でもね、援軍要請したあとね、ホップはそれでも戻ったの」
ジャスミンは考えていた事を全部話した。

「だから...ね、結局戻れたのに戻らないで逃げちゃったあたしは、やっぱりずっと足手まといのままな気がして...。
これから戦闘が激しくなっていくからみんなもっともっと強くなるようにって努力してるのに...あたしだけダメダメなままで。
でもね、やっぱり鍛錬はつらいし戦闘は怖いの。
...なんでクリスタルはあたしを選んだのかな?
ジャスティスになんかなりたくなかったよ...
しかも後ろにいられる治癒系や遠隔系ならまだしも、最前線で戦う攻撃特化なんて...」

そこまで言って両手で顔を覆って泣き出すジャスミンに、アニーはかける言葉を迷う。


正直アニー自身もジャスミンはジャスティスに向かないと思う。
普通の女の子なのだ。
クリスタルは何故そんな子をジャスティスに...しかも攻撃特化ジャスティスに選んだのだろう...。

「...普通の女の子やりたかったな。
普通におしゃれして普通に学校行って...普通に恋して...」

「女子高生やってるジャスミンもすごく可愛かったでしょうね」
アニーは想像して微笑んだ。

「きっと学校でもアイドルで...僕はそんな彼女に片思いする幼なじみかな」

「アニーだって普通に学生やってたらすごくモテるわよ、きっと。優しいし綺麗だもん」
ジャスミンから少し涙が止まる。

雨上がりにのぞく虹のような笑顔にアニーはみとれた。
彼女はこんなに可愛いのに...それ以上の価値なんて必要あるのだろうか。

「僕は...何人が僕の事を好きって言ってくれてるよりも、ジャスミンの好き、が欲しいんですけどね...。
9歳で妹達と引き離されて不承不承ここに連れてこられて、それでもジャスティスやってきた理由は君だから。

シザーずるいですよ。
最初にこんな可愛い子を見せて"君は防御に優れるアームスだから守ってやってね"なんて紹介するんだから。

断れるわけないじゃないですか...。
例えそれが戦闘にだけ限られた許可だとしても、君を守るなんて役割を託されちゃったら...。
そりゃ痛かろうが怪我しようが頑張っちゃいますよ」

「そ...その時は確かファーもいたけどね…」
アニーの言葉にジャスミンは少し赤くなってうつむき加減に言った。

「でも僕にはジャスミンしか目に入ってなかったから。
...今でもちょくちょくそんな事あってファーに怒られますけど。
どうしてかな。当時は同じ顔で同じ髪型だったのになぜかジャスミンしか見えなかったんです」

そういえば、とジャスミンは思い出す。

「あの頃...一卵性双生児でいつも同じ格好させられててみんな、兄さんですらたまに私達間違ってたけど、アニーだけは私達の事、絶対に間違えなかったよね」
ジャスミンの言葉にアニーは即答する。

「...ジャスミンじゃない方がファーって見分けてたんです」

2ヶ月前、意思表示しない方が悪いってひのきは言ったけど...これだけ言ってもまだそのあたりスルーされちゃってるじゃないですか、ひのき。

ずっと好きだったんだというあたりはスルーされて双子の見分け方に話題が向かいつつある事に若干落胆して、何故かその事を心の中でひのきに愚痴るアニー。

それでもジャスミンの心から一時の事でも悲しさが消え、その目から涙が乾いてきた事で、まあいいか、と思ってしまう自分が少し悲しい。

「でも...戦闘の時だけ...なの?私が特別なのは」
しかしその時ジャスミンの口から飛んでもない言葉が漏れた。

「他の時は同僚の一人?」
「そんなわけ...ないでしょう?」

心の奥底でありえないと期待をしながらもアニーはあわてて首を横に振った。

「朝起きてから寝る瞬間までずっと、食事をとってる時も、鍛錬してる時も、いえ、寝てる時でさえ、呼吸をして心臓が脈を打ってる間ずっと僕にはジャスミンは特別な存在です」

「じゃあ...ちゃんと告白して?普通のカップルみたいに...」
少し頬を赤く染めて上目遣いに見上げてくるジャスミンに鼓動が速くなる。

それでも...アニーは立ち上がって、ジャスミンの手を取って立ち上がらせた。
そしてその場にひざまづく。

「僕は...ジャスミンが好きです。
病める時も健やかなる時も全身全霊であなたを守ります。
だから僕のただ一人の特別な女性になって頂けますか?」

「はい、よろこんで♪」
ジャスミンの顔からはもうすっかり涙は消えていた。



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