青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_13_ 暇人な医者

結局ホップを除いた東洋人4名でしっかり写真を撮った後、フェイロンに誘われてユリは棒術の鍛錬をしに行き、オリエンタルビューティを愛でる会の面々はそれについていった。

「疲れただろ、なずな。部屋まで送るから休め」
緊張が解けて小さくため息をつくなずなにそういうひのきに、ホップは
「タカ、せっかくなんだから姫に基地内案内してやればいいじゃん。まだどこも見てないっしょ結構広いし娯楽施設もあるし」
と提案する。

一応1組任務で出てしまっているので残りのジャスティスは基地内待機が原則だ。

外に出るわけにはいかないが、基地内での行動は自由。それでも自分がひのきだったらこっそり街に抜け出すくらいしかねない。

まあそういう意味では真面目でお堅い友人にそこまでやれとは言わないが、基地内だってそれなりに楽しめる場所もあるのだ。

しかも...せっかくいつも一緒にいる面々がいなくて二人きりになれるのだから貴重な時間を有効利用しろよ、と思う。

「姫だって基地内ちょっと回りたくない
今の季節なら散歩するのも気持ちいいしさ。
どうせ出動組が戻るまでは外にも出られないし、図書室とか談話室とか知っておくと便利な施設もいくつかあるしさ」
ホップにふられてなずなは小さくうなづいた。

「そうですね。タカやホップさんが忙しくなければ...

(姫...せっかく二人きりにと言う意味合いで言っている事にきづいてないし)
内心その鈍さにため息をつきながら、ホップは苦笑いを浮かべる。

「いや、俺はこれからちょっと約束あるんで...タカと二人で...
「そうなんですか...えと...タカは
「なずなが疲れてないなら、行くか」
聞かれてひのきはまた腕を差し出し、なずなはそれに手をかけた。

「んじゃ、お二人さん、また夕食の時にでも」

もしかして...ひのきも自分が言った事の意味合いを理解してないんじゃないだろうか...と少し心配になったが、まあ外野があまり言ってもしょうがない。
ホップは二人に手を振ると、自室に向かって駆け出した。

「とりあえず概要から説明するか」
ホップの危惧通りやっぱりわかってなかったひのきが、第4区の方に歩きながら真面目に基地内の説明を始める。

「本部内は最奥1区から出口8区の全8区に分かれている。
1区は現在持ち主のいないクリスタルが安置されている。
先日豪州支部が壊滅して豪州所属のジャスティスが2名死んだから今は2つのクリスタルがそこに眠ってるな。
2区は数年に一度開かれる支部長会議とかの際に集まる各国支部長の宿泊施設や会議室。
3区はブレインやフリーダムの本部、それに伴う資料室、部内管理職の宿泊施設、ブレインの内部関係の開発の研究室がある。
4区は医療室、事務方の仕事を受け持つ総務部、あとは研究室。こっちのは主に外部から持ち込まれた物を研究する研究室だ。
5区はジャスティス、ブレイン、フリーダム、総務それぞれの居住区。
6区は食堂、談話室、図書室、バー、多目的ホールetc、主に娯楽関係だな。変わったとこだと大浴場とかもここにある。
7区は鍛錬関係。道場、スポーツジム、プール、お堂、なんでもあるが...たぶんなずなは行かないよな。
で、最後に8区は駐車場と出口。防衛設備も結構備え付けられてる」
話しているうちに第4区に到着する。

4区か...ジャスティスがここで関係ありそうなのは医療室くらいだな。
一応顔だけ出しておくか」
ひのきは慣れた足取りでかつて知ったる場所に足を運んだ。

「おはようさん。もうどこか壊してきたん
自動ドアを超えてフロアに入ると、白衣を着たいかにも医師といった格好の若者が声をかけてきた。

「いや、今日は基地内を案内してるだけだ」
「そかぁ。タカが他人の世話って珍しいやんシザーはんにでも脅されとるんか
若者は陽気に言って、ひのきの後ろに目をむけ、なずなに目をとめてニカッと笑う。

「いや、ちゃうか。これはご褒美のつもりやで絶対。
めっちゃかあいい子やないかっ。ご好意に甘えてツバつけときや(笑)」
「レン...お前あいかわらずだな...
ひのきは呆れ顔で肩をすくめた。

「そりゃ...もう22年もこうやって生きてきとるんや、今更性格変わったら怖いやろっ。もし俺が急に...

「本題...入ってもいいか
ひのきは延々と続きそうなその軽快なおしゃべりをさえぎって言う。

「なんや、やっぱりなんか用なんかいな
「いや...とりあえず紹介くらいは、な」

「ああ、なるほど。俺はレン=サンピタリア言います。ここの主ですわ。
タカ来てから怪我人少なくなってもうて商売あがったりや。
お嬢ちゃんも危なくなったらこいつ敵につきだして逃げときや
いっつも一人ズタボロになってて慣れとるから平気やし。
おっかなすぎて死神も寄ってきいひんから死ぬこともないしなっ。最近なんか俺が死神のおっさんに暇や暇やって愚痴られて...

「お前なぁ...
やっぱり延々と続きそうな軽快な自己紹介に、なずなは少しおかしくなって小さく笑った。

「あ、ええ笑顔やなぁ。かあいいなぁ。お兄ちゃんとつきあわへん
「人の彼女に手ぇ出すな、レン」

「へ
レンがポカンと口を開いて固まった。

「極東支部から来たジャスティス、睦月なずな。俺の彼女だ」
「うあああタカ興味ないような顔しといて実は面食いだったんかいなっ」

大げさに驚いてみせるレン。
紹介されてなずなはまだ笑いながらペコリと頭をさげた。

「じゃあ、まだこれから案内するところあるから、俺達は行くな」
ひのきが切り上げると
「はいな。なずなちゃん、またな。
つっても怪我してきちゃあかんよ、女の子なんやし。
まあタカがいて怪我はさせへんやろけどな。今度はお茶でも飲みにおいでな。
さっきも言った通りおにいちゃん暇やさかいな」
レンはそう言ってヒラヒラと手を振ると、二人を見送った。

「変な男だろあれでも医師団のトップで腕は確かなんだ。
今入った入り口はジャスティス専用でレンはいつもジャスティス用に待機してるから。
まあ...隣の一般職員用の医療室にもたまに顔出したりはするみてえだが、ジャスティスは代わりがきかねえから、ジャスティスの医療は最優先にされる」

「レンさんは...タカと仲いいのね
「ん
なずなの突然の言葉にひのきは振り返った。
目があうとニッコリ微笑むなずなに、少し照れてまた少し視線を外す。

「えとね...ずっと思ってたんだけど、他の人は大抵みんなファーストネームで呼び合ってるけど、タカは苗字で呼ぶ人と名前で呼ぶ人がいるから...

「ああ...プライベートでもつきあいあるあたりだけだな、名前で呼ばせるのは。
どうも名前で呼び合う欧米風の習慣には違和感あってな...
知り合い程度の奴に名前で呼ばれると気持ちわりぃ。
レンはフェイロンと親しいからなんとなく親しくなったというか...怪我するたび世話にもなるしな。
あと名前で呼ぶのはフェイロンとホップとなずなくらいか。
あ、あと以前話した北欧支部のおっさんもな。すげえいい奴で、名前で呼ばせてる。
ちなみにプライベートの携帯番号教えてんのもそれだけ」

「タカって...もしかしてベタベタされるの嫌い
そのまま5区に向かって歩く道々なずなはひのきを見上げて聞いた。

「だな」
即答するひのきになずなはちょっと固まって次の瞬間あわてて手を離す。

...
一瞬不思議そうに立ち止まってなずなに目をむけるひのきに、なずなはうつむき加減に
「ご...ごめんなさいっ」
とあわてて言った。

真剣に状況がつかめずにいたひのきは、少ししてようやく理解して口を開く。

「あ...悪い。親しくない奴にって話してるつもりだったから。
なずなは別に嫌じゃない。ホラ、つかまれよ」
言ってまた腕を差し出すと、なずなはホッとしたように、それでもオズオズと手をかけた。

「えと...ね、どのくらい平気...なのかな
「どのくらいって
「ベタベタするのが。例えば...手をつなぐまでとか、抱きつくまでとか、そういうの...
「別に...なずなが平気ならなんでも
「人前とかでも
...したければ」
あっさり言うひのきになずなは考え込んだ。

「でもタカからはベタベタしてくる事ってないよね
「ん、それは...そういう習慣ないというか...照れる…」
横を歩くひのきが少し赤くなって顔をそむける。

今までものすごい勢いで寄ってこられた事しかないなずなには、それが少し新鮮で...ジャスミンとの会話がふと頭をよぎる。

彼氏ができたらしてみたいことランキング。
考えてみた事はなかったが、確かに物語とかで読んだりとかしたのを思い出せば楽しそうだ。
相手から迫られるのは少し怖くても、自分がベタベタはしてみたい。

「あのね...少しだけベタベタしてみていい
...ああ」
「ありがとっ」
なずなはそっと手をかけていたひのきの腕にぎゅうっとしがみついた。

なんだか良い感じだ。思わず笑みがこぼれおちる。
こうやって腕につかまって歩く、それだけの事が意外に楽しい。

5区は居住区で特に見るものもないし、庭通って6区向かうか

ひのきが聞いてくるのになずなは
「うん♪」
と機嫌よくうなづいた。


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