「ユリさんてさ...姫といるとすごく男っぽくなるよね...」
ファーがボソリとつぶやく。
「そんな普段は女らしいような言い方を...俺は女らしい鉄線なんて見たことないが?」
ファーの言葉にひのきがきっぱり言った。
まあ姫が女の子~って感じだから、相乗効果でそう見えるのかもしれませんけど」
ファーの言葉にアニーが同意する。
「別に男探しにきてるわけでも女探しにきてるわけでもないから、どっちでもいいよ、そんなの」
周りの言葉にユリが面倒くさそうに応じると、ホップが面白そうに言った。
「でもどっちにももてるよな、タマは。昨日びびったし」
「あれは...私じゃなくて元々はフェイロンとひのきのファンだろ?」
「いや、もうそこにタマも入ってるから。あれは知る人ぞ知る有名な団体なんよ?」
「そう...なのか?よくみかけてたが、そんなの聞いた事ねえぞ」
ひのきが眉をしかめると、ホップは肩をすくめて言った。
「タカは世情に疎いから。
あのお姉さん達はさ、オリエンタルビューティーを愛でる会って言うんさ」
「でたらめ言ってんじゃねえぞ」
「いや、ホントさ。ちゃんと規約とかあるんよ?
たとえば...写真とっても絶対にフラッシュたかんでしょ?
あれは鍛錬の邪魔になるからって規約で決まってるんさ」
「すげえな、ポチ。まじか?」
さすがにユリが驚いて目を見開くと、ホップが自慢げにうなづいた。
「ブレインと事務方のお姉様方中心に総勢30名ほどか。元
々はフェイロンのファンクラブから始まって、一緒にいたタカも目をつけられて、タマ来た日からはタマも追っかけ対象に入った」
「歴史...まで知ってるって、さすが元フリーダムの情報網ね」
ジャスミンが目を丸くする。
「もしかして...私...ユリちゃんの"キスしてくれたら事件"再来って事...です?」
血の気が引くなずな。
「させねえから、安心しろ」
あわててひのきが言うが、ホップは首を横に振った。
「姫はたぶん平気。もろ日本人形だから。
まあ...力ないからもしかしたら拉致られて着物くらいは着せられるかもしれんけど。
あの人達は東洋美を愛でる会なんよ」
「...拉致...ですか...拉致...拉致?」
女性相手でもNGワードを耳にやはり虚ろな目で硬直したままつぶやくなずな。
「だから、させねえから。大丈夫だ」
「そうよっ。私だってカバー入るから。大丈夫よっ」
ひのきの言葉にジャスミンも加わる。
「お願いね」
双方の顔を見比べて言うなずな。
「まかせろっ」
「まかせてっ!」
二人ともそれにうなづいた。
「ん~、でもどっちかっつーとその中に入っていった方が楽じゃないか?
たぶんストーカー野郎とか出たらボコボコにしてくれそうだし。
着物くらい減るもんじゃないし、ケチケチしないで着てやれよ、なずな。
向こういた時は普段から結構着てたし持ってはきてんだろ?」
「なんてこと言うんですかっ、ユリ。姫がこんなに怯えてるのにっ!」
ユリの言葉にアニーが声を荒げる。
「そうよっ!...でも着物ってちょっと良いな...」
ジャスミンは基本的にアニーに同意しながらも、衣装的には少し惹かれる。
「ジャスミン、興味あるなら着てみる?着付けてあげるけど...」
「いいの?着てみたい♪」
なずなの言葉に嬉しそうなジャスミン。
「一緒に着たらいいじゃん、なずな」
ユリがニヤニヤして言うが、なずなはフルフル首を振った。
「やだ。目立つ事したくないもん。怖いもん」
「...目をつけられるのが嫌だってだけならフォローするが...」
なずなの隣でひのきがぼそりとつぶやく。
「ほら、彼氏も見たいってよ。着てやれよっ」
「いや...別に無理にとは...」
ユリの言葉にあわてて否定するひのき。だが、そこでさらに
「まあ...そういう目立つ格好で二人して歩いてればタカの彼女だって認知度はあがりそうだよな...」
と、ホップがつぶやく。
「なんなら僕もジャスミンのエスコートがてら同行してフォローしますけど...」
と、さらに反対していたアニーまで言い出した。
「ほら、みんな見たいってよ。着てやれよ」
「...じゃあ今回だけ...」
ようやくなずなが同意する。
「じゃ、姫の部屋にゴ~で♪けって~い♪」
すでに心は着物姿のジャスミンの号令で各々立ち上がった。
「帯きつくない?大丈夫?」
なずなの寝室。なずなはジャスミンに着物を着付けていた。
「ううん、平気。ドレスの時もコルセットとかするしね」
慣れてないジャスミンには苦しく感じるかと思いきや、シザーの趣味でしょっちゅう開かれるらしいパーティーでクラシカルなドレスを着ることに慣れているジャスミンは意外に平気らしい。
ジャスミンには赤、自分は桜色の振袖を着て、鏡の前でお互いの髪に櫛をいれる。
そしてそれぞれエスコートしてもらう相手の部屋へと向かった。
本当はなずなの部屋の居間ででも待っててもらえばよかったのだが、お世辞にも仲がよろしくない二人を二人分の着付けが終わるくらい長い間二人きりで放置するのも怖いので、それぞれの部屋で待っててもらったのだ。
ジャスミンと部屋の前で分かれてひのきの部屋のドアをノックする。
ガチャっとドアが開かれてひのきが顔を出した。
一瞬無言。
「行くか」
とすぐ部屋から出てきた。
(この格好で歩いてたら確かにやばいな)
ひのきは心中思っていた。
ひのきも日本人なのだから着物を見た事がないわけではない。
しかしノックの音にドアを開けると一瞬別空間にいるように紛れ込んだとかさえ思うくらい空気が違う気がした。
バックにふわふわと桜の花びらが舞っているような錯覚さえ覚える。
あまりの可愛らしさに咄嗟に言葉のでないひのきになずなが不安げに
「えと...変...かな?」
と聞きつつ首をかしげ、その絹糸のような黒髪がスローモーションではらり、と淡い桜色の着物に包まれた細い肩をすべり落ちた様子がまたこの世のものとも思えないくらい綺麗で、ひのきの鼓動を早くする。
ここでアニーあたりならさぞ気の利いた素晴らしい褒め言葉を並べるのだろうが、
「いや、似合う」
としか答えるのが精一杯の自分がひのきは若干情けなくなる。
それでもなずなは
「...良かった」
と、まるで桜の花が咲いたような美しい笑顔を見せて、ややホッとしたひのきの腕にソッと手をかけた。
その時、不意に館内放送でジャスティス集合の呼び出しがある。
思わずなずなを見下ろすと、なずなもひのきを見上げていた。
「まあ...しょうがねえな」
苦笑いをするひのきに、やっぱり苦笑いで返すなずな。
「その格好じゃ急げねえだろうから、捕まってろ」
言ってひのきはなずなを抱き上げた。
「え...あの...人の目が...」
あせるなずなだが、ひのきは
「今更...だろ」
と返してかまわず歩を進める。
そして居住区のある第5区からブレイン本部のある第3区まで、攻撃特化ジャスティスの跳躍力で一気に駆け抜けた。
本部の入り口でなずなを下ろし、ひのきが腕を軽く差し出すと、なずながそれに手をかける。
そして二人そろって中に入ると、一斉に視線が集中した。
「あ...あの...やっぱり変...だったのかな?」
いきなり注目を浴びて不安げに瞳をうるませるなずなに、ひのきは笑みを落とす。
「いや...着物って珍しいし...綺麗だから...な」
言ってて途中で恥ずかしくなって少し視線をそらした。
「すごいねっ!ちょっと写真撮らせてくれるっ?!」
本部の奥の部長席まで行くと、シザーがいきなりカメラをかまえる。
「おい...(怒)」
怒るひのきを放置していきなりシャッターを切るシザー。
「あ...あの...たぶんジャスミンも着物で来るので、彼女の方が...」
恥ずかしげにうつむいて言うなずな。
「何か事件があったんじゃねえのかよっ?!」
無視されてますます怒りをあらわにするひのきにシザーはカメラを構えたまま
「ああ、でも君達は出動組じゃないから、今回は。で、他の皆まだついてないし」
「帰るぞ!」
シザーの言葉にひのきがなずなに声をかけて踵を返しかけるが、その時他のジャスティスが続々集まってきた。
「姫可愛いなっ!!」
まずホップが歓声をあげる。
「...綺麗だねぇ...ユリさんが着物着てたときにはカッコよかったけど、姫だと可愛いって感じだよね」
続いてユリと一緒に入ってきたファーが感嘆の声をあげた。
「まあ...私が着てたのは実は男物の寝巻の浴衣だしねぇ。
なずなが着てるのは振袖って言って女の子のおしゃれ着」
ユリはファーに説明をしてやっている。
最後に来たのはアニーとジャスミン。
「姫可愛いですっ!まるで桜の精みたいですね!」
アニーは賞賛の声を上げ、ジャスミンは
「せっかく着物着たのに、任務なの?兄さん」
と兄に不満の視線を送った。
「ん~、可哀想なんだけどねぇ...これもお仕事だから。
今日はジャスミン、アニー君、ファーで行ってもらうよ」
「え~」
シザーの言葉に泣き声をあげるジャスミン。
「たいした敵じゃないなら、私代わろうか?多少なら近接にも耐えるよ?」
とそれを見てユリが申し出るが、シザーは
「いや、たいした敵じゃないからこそ、有事に備えて強敵組は温存したいから」
と苦笑する。
「んじゃ、俺が代わる?」
ホップも言うが、
「いや、今回は遠距離向きじゃないから」
と却下された。
「しかたないですね...またいつでもエスコートしますから」
がっかりするジャスミンをアニーがなぐさめる。
「私も...またいつでも着付けするからね」
なずなもそう慰めると、ジャスミンは小さくうなづいた。
「あの...タカ...」
「ん?」
帰りは急ぐ事もないので並んで歩きつつなずながおずおず口を開いた。
「後ろ...いっぱい人がいるのは気のせい?」
「ああ。いるな。」
ひのきは小さくため息をついた。
「撒いてやろうか?」
と聞いてくるが、それはイコールこの大勢の視線がある中でお姫様抱っこなわけで...そのあまりの恥ずかしさになずなはフルフル首を横に振る。
「とりあえず...鉄線を差し出して逃げるってのは?」
と、そのなずなの様子に外道な提案をするひのきだが、
「ん~、二手に分かれるだけだと思う」
とホップにあっさり却下された。
第3区から居住区のある第5区まで、決して短い道のりとは言えない。
「ホントに...意地悪されないです?」
後ろの集団に詳しいらしいホップを涙目で見上げてきくなずな。
頭の中はユリの寝言事件の時のトラウマがクルクル回っているぽい。
「タカ...これやられたら...確かにおちるさ、男なら誰でも」
姫の涙目線は最終兵器だと、ホップは納得した。
「そんなに心配ならいっその事自分から飛び込んで来いっ。
それでいじめられるかどうかはっきりするし、いじめられるようならひのきが救出するだろ」
ユリはそんななずなにも慣れたもので、あっさりとつきはなす。
「そ...そんなの無理だもんっ」
その一言で何かがキレたようでとうとうなずなはシクシク泣き出した。
「タマ~泣かすなよ~!」
ホップが言うのに、ユリは
「みんななずなを甘やかしすぎなんだって。だからいつまでたってもこれなんだっ」
と肩をすくめる。
「別にいつまでたってもこれでかまわねえから、泣かせんなっ!」
ひのきは言って、その場で泣きながら立ちすくむなずなの頭をなでながら
「わかった、なんとかしてやるから泣くな」
と声をかける。
それから2,3歩後ろに歩を進めると、やはり歩みを止めた人波に向かっていった。
「俺やフェイロンや鉄線はもう今更かまわねえが、なずなは追いかけるのやめてやってくれ。本当に臆病な奴なんで心底おびえてるから。頼む。」
そう言って頭を下げた。
てっきり力で押し切るのかと思っていたホップとユリはポカ~ンと顔を見合わせた。
ついてきていた面々もおっかけをしているだけあってひのきの通常の行動性は熟知しているため驚きつつも、ひのきがそれだけなずなの事で気を使っている事を理解して沈黙する。
「タカ...?」
周り中がシンとする中なずながオズオズと右手の拳を口にあてながらひのきの服のすそをつかんだ。
(...妹にして可愛がりたいっ!)
(...着物可愛い)
(...お人形さんみたいね)
(...日本人形っていうのよ、確か...)
(...このままお持ち帰りして部屋に飾っておきたい)
それでも誰からともなく小声でコソコソつぶやきがもれる。
(...せめて1枚...)
やはりコソコソっとカメラを構える者がいたが、周りに制される。
「あ...あの、せめて1枚だけ写真ダメですか?」
集団から声が上がった。
「あ、私も1枚。できればひのき君や鉄線様とツーショットで」
それを皮切りにまたぞろぞろと声が上がる。
「減るもんじゃないし撮らせてやれよっ、なずな」
そこでユリがやはり一歩前に出て言った。
その言葉にひのきがなずなを隠すように後ろにやると
「無理強いすんなよ」
と言う。
「あのなぁ...甘やかしすぎだってっ。別に危害加えようとかいうんじゃないんだから、少しは世間の波に放り込んでやった方が本人のためだ」
「本人がストレス感じるんだったら、それは充分危害だろうがっ」
「それくらいでストレス感じる方が問題だってっ!」
「何にストレス感じるかは人それぞれだろうがっ!」
いきなり始まる口論になずなは一瞬ぽか~んとして、それから助けを求めるようにホップに目をやる。
(...言い争う二人も...素敵//)
(...キョトンとしてる姫様も可愛い)
(...困ってる困ってる...可愛いよっ!なでなでしたいっ!)
(...姫様巡って対立する二人に萌えっ!)
(...どっちかっていうと、そのまま二人に愛が芽生えて欲しい...)
(...いや、私はお兄様二人に囲まれた可愛い妹路線を見たい...)
(...そこにお姉様として加わって姫様の愛をげつして二人に嫉妬されたい...)
若干マニアックな願望もまじって、盛り上がる外野。
「別の意味で盛り上がってるし...二人も外野も...」
ホップは苦い笑いをもらし、なずなに言った。
「姫は?どうさ?写真撮るのも怖い?」
ホップの言葉になずなが
「...いじわる...されません?」
と少し首をかしげると、
(きゃああああ!!)
と集団から小さな悲鳴があがる。
(...可愛いよぉ、動く日本人形だよっ!!!)
(...ぎゅうってしたい!)
「いじわるはされないさ」
ホップはなずなに言った後、後ろの一団に
「なあ?」
と声をかけた。
「もちろん!嫌がらせなんてする者いたら退会させますっ!」
後ろで一斉に声があがる。
「私達、漆黒の貴公子フェイロン様を愛でる会発足から早7年。
そこにひのき君が加わって名称をオリエンタルビューティを愛でる会と変更してから早6年。
皆様に危害を加えるような真似を一度たりとも許した事はありませんっ!
東洋の神秘、姫様に危害を加えるような輩がいれば、それが会員であろうとなかろうと、即正義の鉄槌を下してやります」
「どうするさ?姫。写真の一枚くらい撮らしてやるさ?」
「う...ん…少し恥ずかしいけど...」
「きゃあああ!!!」
あがる歓声に、それまで延々と二人の世界、もとい口論を続けていたひのきとユリが振り返った。
「「なんだ??」」
仲良くはもる二人に軽く噴出してホップが言う。
「姫が写真撮るってさ。つか、二人とも姫放置で口論してんなよ」
ホップの言葉に
「どうせ撮るならちゃっちゃと撮るって言えばいいものを...」
ユリはきまずそうにそっぽを向き、ひのきは
「嫌なら嫌でいいんだぞ?」
となずなに声をかける。
「一人じゃ恥ずかしいから...皆で…」
声をかけられたなずなは赤くなってひのきのシャツをつかむと言った。
「...姫様...可愛い…」
「というか...このツーショット場面を写真に残したいっ!!」
「う...確かにっ。でも姫様は許可なしは却下ね。これ新規約」
リーダーらしき女性がきっぱりと言うのに、周りがうなづく。
「どうせなら...全員集合させよう」
ホップが携帯をどこかにかけ始めた。
「じき来るからちょっと待ってて」
「ポチ誰に電話したんだよ?」
他のジャスティスはみんなでかけているはず...と、ユリはホップに聞くが、ひのきは検討がついたらしくあ~あ、という表情で頭をかく。
そして自称オリエンタルビューティを愛でる会の面々のリーダーらしき女性がなにやらめくばせすると、会員の何人かがぴゅ~っと今ひのき達が出てきたばかりのブレイン本部へと走っていった。
そして一人が椅子を持って戻ってくる。
「待ってる間疲れるでしょう?どうぞ」
と会長がにこやかになずなに椅子を勧めた。
「さすがに...女性は気配りが細やかだねぇ」
ユリが目を丸くする。
「確かに...」
それにはひのきも同意した。
「あ...ありがとうございます」
なずなが礼を言って座ると、すかさずやはりブレイン本部から持ってきたらしきお茶が入ったカップが差し出される。
しかしそこで会長が一言、
「着物と言ったら日本茶に決まっているでしょう?淹れ替えていらっしゃいな」
とにっこり。
その言葉にカップを持った女性は真っ青になって
「申し訳ありませんっ!」
と脱兎のごとく消えていった。
「さすがに...女性社会は怖いさ...」
ホップが青くなるのにも
「...確かに...」
とひのきは同意した。
「淹れかえて参りましたっ。大変失礼いたしましたっ」
即さきほどの女性が湯のみを持って戻ってくる。
それを会長が受け取ってどうぞ、と笑顔でなずなに差し出した。
「ありがとうございます…」
なずなは両手で受け取って一口口をつけると、
「美味しいです…」
と少し緊張にこわばった笑顔をむける。
「どれ?」
なずなの斜め後ろからユリがその湯飲みを取り上げてお茶を飲み、
「お前も飲む?」
となずなの反対側の斜め後ろに立つひのきにも勧めた。
「いや、俺はいい」
ひのきは即答するが、ユリが何か耳打ちすると、ユリの手から湯飲みを受け取って一口だけ口に含んでユリにまた湯飲みを返す。
(...何か意味深で素敵っ…)
(...怪しい雰囲気がいいっ!!)
そのやりとりにまた周りがざわめきたった。
(タマ、タカに何言ったさ?)
ホップが気になってユリに耳打ちすると、ユリはやはり小声で
(いや...相手が危害加えてくるか信用できない時はなずなに出された物は自分も目の前で口にする習慣つければ相手もめったな事してこれなくなるぞって教えてやっただけ)
と、返した。
(タマ...賢いな)
ホップが感心して言う。
(まあ...今までの事があるから...な)
と、その言葉にユリは少し下を向いて小さく息を吐いた。
(なるほど。例の..."キスしてくれたら事件”?(笑))
(うるさいっ、忘れろっ!)
ニヒヒと笑うホップにユリは肘鉄をくれる。
そんなやりとりをかわしていると、
「ホップ...お前だましたな...」
とブレイン本部の方に足をむけかけて、廊下の集団の中にホップがいる事に気づいたフェイロンがギロっとホップをにらんだ。
(きゃああ...フェイロン様まで!!)
ざわめきたつ会員達。
「いや...ほら、姫がせっかく着物着たからみんなで記念撮影をと...」
ホップが少し逃げ腰でごまかすように笑う。
「そこでなんで俺まで呼ばれるんだ...」
一歩前に出るフェイロンに一歩後ずさるホップ。
しかしあわや、という場面で仲裁が入った。
「フェイロン、悪い。今回だけはつきあってくれ」
とひのきがポンとフェイロンの肩に手をおく。
(きゃああああ!フェイロン様とひのき君のツーショットよっ!)
一斉に二人にカメラが向けられた。
「何か訳ありか...」
フェイロンがあきらめたように小さく息を吐き出すと、そこに追い討ちをかけるように
「フェイロンさん、巻き込んでごめんなさい・・・」
となずながウルウルと涙目でフェイロンを見上げる。
ウッ...とフェイロンがたじろいだ。
「わかったから...誰か彼女をなんとかしてくれ...」
半分腰がひけているフェイロン。
「最終兵器だな...姫はやっぱり...」
ホップはそれをみて、小さく噴出した。
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