「えと...考えてみれば...私皆さんのお名前伺ってなかった気が...」
ジャスミンと一緒に仲良くカフェテリアを出て、なずなはオズオズと切り出した。
「あ、そう言えばそうだったよね。あたしはジャスミンっ。よろしくね♪
あたしには敬語じゃなくて良いからね♪」
ジャスミンは上機嫌でにっこりなずなに笑いかける。
「こっちよ♪」
まだ基地内に不慣れで迷いがちななずなの手を取ってつないだ手を楽しげに揺らしながらジャスミンは駐車場に誘導し、車のドアを開けてなずなを中にうながした。
「じゃ、とりあえず街につくまで他の面々の事でも教えておくわね♪」
なずなが乗るとジャスミンは静かに車を発進させる。
車は二人を乗せてブルースター本部を出て一路街に向かった。
「まずね、もう一人の女の子はあたしの双子の妹でファー。
あたし達一卵性双生児で外見は似てるんだけど、性格が正反対でね、ファーは鍛錬ばっかりしてて、お買い物とかお茶とかおしゃべりとかあんまり付き合ってくれないの。
だからね、極東支部から女の子来るって聞いてすごく楽しみにしてたのよ♪
姫とは趣味合いそうだし嬉しいわ♪
今まではね、お買い物もアニーに付き合ってもらってたの。
あ、アニーっていうのはさっきひのきと喧嘩してた金髪碧眼の男の子ね。
さっきは色々勘違いしててあんなんだったけど、いつもは紳士でとっても優しいのよ♪
んで、もう一人の赤毛の方の男の子がホップ。
彼は元フリーダムでね、1年ほど前にクリスタルに選ばれてジャスティスになったの。
フリーダム時代は結構あちこち回ってる優秀なフリーダムだったみたいで、すごく情報通だし、頭もいいのよ。
アニーほどじゃないけど優しいし。
ひのきは...説明するまでもないよね?」
ジャスミンの言葉になずなはちょっと赤くなってうなづく。
「あの...姫、どうしてひのきなの?」
一通り説明し終わるとジャスミンはちょっと迷って、それでも好奇心に勝てずに口を開いた。
「どうしてって?」
なずなは不思議そうに首をかしげる。
「ひのき...怖くない?」
「...怖い??」
「うん。あたしはちょっと怖いんだけど....
すごい優秀なのはわかるし言ってる事も正論なんだけど、なんていうか...いつもいつも厳しくて、他の男の子達みたいに優しくないって言うか...」
ジャスミンが口ごもるのになずなは不思議そうな目を向けた。
「私は...唯一怖くない男性がタカなんだけど//」
「ええ?!うそっ!!」
なずなの発言にジャスミンが驚きの声をあげた。
「そんなに...怖い?」
「どこが怖くないの??」
まるで全く違う人物の事を話しているかのようなかみ合わなさに、ジャスミンは混乱する。
「怖いって感じる基準が違うの...かな?」
「あ、そうかも」
「そいえば...姫ってストーカーに悩まされてるって話聞いたし...積極的に迫ってくるタイプが怖い?」
「うんうん!そうなのっ!」
意思の疎通ができた事でジャスミンはちょっと嬉しくなってまた饒舌に話し始めた。
「確かに...ひのきって口説いてきたりとかなさそうだもんね~。
こっちが寄って行かない限り向こうから来る事はないっていうか、寄っていっても拒否られそうっていうか...。
来ないで!なんて言ったら、一生近づいてこなさそう。
まあ、いきなりストーカーになる心配はない人だよね」
「そうそう。いきなり迫ってきたりとかないから...」
「でもさ...それだけで好きになっちゃえるもの?」
ジャスミンはちょっと考え込む。
「ひのきじゃさ、甘い言葉とかロマンティックなデートとかお洒落なプレゼントとか期待できなさそうだし...」
と、人差し指を唇にあてた。
「ジャスミンは...王子様みたいな人が好きなのね?」
そんなジャスミンになずなはちょっと微笑をうかべて言う。
「そりゃあ...夢見る乙女としてはSomeday my prince will come(いつか私の王子様が迎えにくる)でしょ?」
ジャスミンはうなづいて言った。
「ん~、ん~、言葉だけならねぇ...甘い言葉とか色々言ってくれた人いてね....
でもそういう人って大抵ストーカーさんだったから...」
「トラウマ...なのね?」
ジャスミンは納得する。
「それに...タカとの出会いは私の人生の中で男性絡みでは唯一素敵な出来事だったし...//」
なずなが赤くなった顔を両手で覆うのを見て、ジャスミンは
「うっそぉ!」
と目を丸くした。そして
「なになに?聞きたいっ!!」
と勢い込んで言う。
「あ...でもついちゃった...」
街に入ってD-ショップの看板が見えてきたのに気づいてなずなが言った。
「う~ん...聞きたいなぁ...ね、今日あたしの部屋に泊まりに来ない?
一晩二人でおしゃべりしようよ♪」
ジャスミンは言って駐車場に車を止める。
「うん♪じゃあ...これからD-ショップでお揃いのパジャマ買って着ない?」
「あ、それいい~!けって~い♪」
二人して車を降りて手をつないでショップに入った。
ドアを開けて中に入るとそこはレースとリボンとフリルの世界である。
「これ可愛い~♪」
と、ジャスミンがヘッドドレスとセットになった黒地に白いリボンのついたワンピースを手に取って自分にあててなずなを振り返った。
「どうかな?」
「うん♪すっごく可愛いvv」
なずなはウンウンとうなづく。そしてなずなもその隣に白地に黒いリボンという色違いで同じデザインのワンピースをみつけて自分にあてて、今度はジャスミンを振り返った。
「色違いでお揃いっ♪」
「いいねっ♪一緒に買って着ていっちゃお♪」
ジャスミンの言葉に、二人してレジに行って支払いをすませ、試着室を借りてそのまま着替える。
「「次はパジャマっ♪」」
人形のように可愛らしい格好で二人は声を揃えて言うと寝巻き売り場に向かった。
そしてやっぱり色違いの可愛らしいパジャマを購入する。
二人はその後も店内をぐるぐるし、色違いでお揃いのやっぱりレースのついたニーソックスと手袋を購入してそれも身に着けた。
「もう超たのし~♪」
ひたすら店をグルグルし、近くでやっぱりおそろいの靴を買った後、D-ショップ直営の雑貨屋で小物を物色。
その後またD-ショップに戻ってアクセサリーを見ていると、すでに夕方になっていた。
さすがに疲れたので荷物を車のトランクに詰め込んでD-ショップ内のオープンテラスでお茶をしながらジャスミンは言う。
「うん♪ユリちゃんはこういうの付いてきてはくれたけど、一緒に着てはくれないから」
なずなもジャスミンの言葉にコクコクうなづいた。
「え~、ついてきてくれるだけマシ~。ファーなんてついてきてもくれない」
ジャスミンはココアのカップを手に少し眉をひそめて言う。
なずなは色違いにこだわっているわけでもなかろうがホットミルクだ。
白いユゲのたつカップに顔をうずめながらなずなはユゲの向こうに見えるジャスミンの可愛らしい姿に目をやる。
「うん...でも一緒に選んで一緒に着たかったなぁ」
「でもさ...ユリさんがD-ショップの服って...」
ジャスミンはスラっとスリムで背が高い、美少女というよりは美少年といった感じのユリの姿を思い浮かべた。
「可愛いっていうより...倒錯的というか...うん、耽美って感じ?」
ジャスミンの表現になずなが小さく噴出す。
「そうかもっ。でもそれはそれでなんだか注目浴びそうだよねっ」
「うん。ブレインのお姉様方が大喜びしそう。
...っていうか...男の子だと思ってユリさんLoveなお姉様実は多いのよ?」
昨日の舞踏会での騒ぎを思い出してジャスミンがいうと、なずなは
「...極東支部では女だって知ってても部内の誰よりも女の人にもててたよ」
と、苦笑する。
と、その時、ショップを背にして座っていたジャスミンは、向かい合わせで座るなずなのはるか後方からこちらにむかって大勢の人間が悲鳴をあげて逃げてくるのをみつけて、立ち上がった。
「何かあったみたいっ!行こう!」
お金を置くと、なずなの手を取って店外に走る。
「発動っ!」
走りながらクリスタルに手をやって唱えると、ジャスミンの足を透明なクリスタルが覆った。
そしてなずなの手を握っているのと反対側の手で器用に本部にいる兄に携帯をかける。
「兄さん?今D-ショップに来てたんだけど、こっちの方、何かでた?」
「対応早いね。うん、ちょっと大型の熊が一体そっちに向かってる。
他に敵影はないから、たぶん敵の実験体とかが何かの拍子に逃げ出して暴走してるとかだと思うんだけど、一応なるべく被害が出なさそうな方向に誘導しつつ、応援を待って。
危ないから一人で戦闘に入っちゃだめだよ?」
「...だって」
オンフック状態でなずなにも話の内容を聞かせていたジャスミンは通話を切るとなずなに言った。
ショップから200mくらい離れた噴水広場のあたりに3mくらいはある熊が現れる。その姿をみて
「でもこのままじゃ下手するとショップの方に行っちゃう。」
というジャスミン。
「「それは...絶対にいやっ!」」
二人は立ち止まって顔を見合わせてうなづいた。
「...発動っ」
なずなもクリスタルに手をやって小さくつぶやく。
声に応じて胸元のクリスタルは光を放ちながら大きさを増し、なずなの両手で覆える程度の水晶玉となってその手に収まった。
「神秘の力よ...光の加護を」
手を胸の前にやり、祈るようにつぶやくなずなの手から白く輝く光が飛び出し、防御をあげる光のヴェールとなってジャスミンを覆う。
続いてなずなは
「神秘の力よ...風の加護を」
と唱えた。
すると緑の光がジャスミンの体を軽くすばやくする。
最後に
「神秘の力よ...炎の加護を」
とのなずなの声に、ジャスミンのクリスタルに包まれた足が赤く燃え上がった。
もちろん本人に熱さはない。
ジャスミンはその間もの珍しそうにピョンピョン飛び跳ねたりしていたが、必要な強化が終わると、
「よ~しっ勝てる気がしてきたぞぉ!」
と両手を上にあげて軽くジャンプしたあと、
「んじゃ、行ってくるね~♪」
となずなに言い置いて熊に向かって跳躍した。
一体とは言ってもかなり大型の魔導生物。
普段だとファーかアニーと二人で倒すくらいの敵だ。
ソロでこれを殺れるのはおそらくひのきか感知される前に先制攻撃できた時のホップくらいだろうな、とジャスミンは思った。
しかしまあ...後ろには治癒系ジャスティスの姫が控えているわけだし、怪我を瞬時に治し続けてもらえたらそのうち倒せるか、最悪応援がかけつけてくれるはず。
でも...せっかくお揃いで買ったワンピースがダメになっちゃうかなぁ...などと考えながら、ジャスミンは敵と対峙した。
敵は跳躍するジャスミンに向かって噴水わきにあった植木鉢をなげつけてくる。
普段なら軽く避けるところなのだが、ジャスミンはふと後ろのなずなの位置が気になって一瞬反応が遅れた。
(やばっ!)
衝撃を避けるように思わず手で体をかばうが、衝撃はこない。
風圧すら感じさせずに、植木鉢は光のヴェールに阻まれてストンとその場に落下して割れた。
「あら」
一瞬驚いてそれに気をとられるが、すぐジャスミンは敵に神経を集中させる。
敵はするどい爪が伸びた手を振り回してジャスミンを捕らえようとするが、その敵の動きがやけに遅く感じた。
余裕で敵の顔の前に飛び込むと、とりあえず動きを止めようとその眉間に軽く蹴りをいれる。
「あらら?」
軽く...だったはずなのだが、足は熊の眉間深くめり込み、血飛沫をあげながら熊の巨体がゆっくり後ろに倒れた。
即死...だった。
ストン!と地面に着地して、敵が確かに死んでいるのを確認すると、兄にまた連絡を入れる。
「もしもし、兄さん?終わったよ~。応援要らないから」
「はあ?終わったって??」
電話の向こうでシザーが間の抜けた声をだした。
「うん。今敵の死亡を確認したよ」
「嘘...まさか一人で倒した...とか言わないよね?」
恐る恐る、と言った感じで聞いてくるシザーにジャスミンは答える。
「正確には姫の支援つきだけどね。戦闘したのはあたし一人♪」
電話の向こうでシザーが一瞬絶句する。
「というわけでこれから報告に戻るね♪魔物の清掃だけお願い♪」
言葉のないシザーにそう宣言して、ジャスミンは電話を切った。
そして能力を解除したあと、自分の身の回りを確認してにんまりとする。
「良かった~、服も無事だぁ♪」
ジャスミンがぴょんぴょんと軽い足取りでやはり能力を解いたなずなの元に戻ると、なずなが
「お帰りなさいっ、お疲れ様♪」
と笑顔で迎えた。
「姫もお疲れっ♪ゆっくりお茶するのはまた今度にして報告に戻ろっ」
ジャスミンがその手をまた握って言う。
そして二人は夕焼けの中、仲良く手をつないで車に乗り込むと、ブルースター本部へと帰っていった。
「おおおーーーー!!!」
ジャスミンとなずなが黒と白という色違いの可愛らしいワンピースに身を包んで、仲良く手をつなぎながら帰還報告にフリーダム本部に入ると、黒一色の制服に身を包んだフリーダムの部員がいっせいに歓声をあげて立ち上がった。
「お前ら...恥ずかしいからやめろ...」
男所帯の面々の悲しいくらいあからさまな態度に、部長のフェイロンは顔をしかめて眉間に手をやった。
「もう少し休んでいらしてはいかがですか?今お茶いれますからっ!」
椅子を持って走ってくる者、給湯室に走る者、部内は一気に浮き足立つ。
そんな面々にジャスミンはにっこり微笑んだ。
「ありがとう♪でも兄さんに報告書を出さないとだし、姫が男の人だと人見知りするからまた今度♪」
ジャスミンの笑顔に、そしてジャスミンの後ろからちょこんと顔を出してぺこりとお辞儀をするなずなの仕草に
「可愛いっ!可愛すぎっ!!」
とすごい大騒ぎになる。
「ああ、もうこいつらは気にしないでいいから、行ってくれ。
相手にしてるときりがない」
フェイロンがため息をつきつつ戸口を指差した。
「ええ!!フェイロン、それはない!!引き止めてくださいよっ!!」
一斉におきるブーイングにフェイロンはガタっと立ち上がって面々を振り返り
「うるさい!!お前らは仕事しろっ、仕事を!!!」
と怒鳴りつける。
それでもブーブーまだブーイングのなりやまないフリーダム本部を二人は早々に後にした。
廊下に出てホッと緊張をとくなずなに苦笑しつつ
「大丈夫?」
と声をかけるジャスミン。
「今怒鳴ってたのがね、本部のフリーダムのボスのフェイロン。
中華系でね、ひのきと仲がいいの」
と、説明をする。
「あ、そう言えば親友だってタカが言ってた。あの人だったのね」
「うん。だからひのきはすごいフリーダム寄りでね...あんまりブレインに心を許してくれないって兄さんが嘆いてた」
とジャスミンがうなづいた。
そして二人はそのままブレイン本部へと足を向ける。
「ただいま~♪」
ジャスミンは受付の女性から書類を受け取り、そのままその場で必要事項を記入し終わると、再度なずなの手を取って自分達に向かってカメラを向ける兄の方へ向かった。
「...何してるの?兄さん。」
こめかみに青筋を浮かばせながらグイっと書類を押し付けるジャスミンに、シザーはにっこりと微笑む。
「いや、あまりに可愛いから記念撮影をと...」
シザーの言葉にバン!と机を叩いて、ジャスミンは小声ですごんだ。
「...姫まで変な事に巻き込んだら殺すわよ?」
「い...いやだなぁ...お兄ちゃんがいつ変な事に可愛い妹を巻き込んだっていうの?」
「い・つ・も!!」
シザーの言葉にジャスミンは一言一言くぎって言う。
「そ...そんなぁ」
「いいからっ!ちゃっちゃと報告書に目を通してよっ!姫とご飯いくんだからっ!」
「はいはい」
ジャスミンの言葉にシザーはサラっと書類に目を通した。
「...なるほどねぇ。ユリ君のあの火力に姫ちゃんのこの底上げがあったから近接系なしで今までやってこれたわけね...」
シザーがつぶやく。
「えと...先日はパーティー無断欠席して申し訳ありませんでしたっ」
シザーと初めて会うなずなは、まずぺこりと頭を下げた。
シザーはそれを軽く手で制して言う。
「いやいや。事情はユリ君から聞いてるから。
僕も諜報関係のフリーダムとの連携がいまいちでそのあたりの諸事情を知らなかったんで...。
色々考慮ができなくて申し訳なかったね。
これからは何か苦情とか困った事とかあったら遠慮なく言ってね。
僕に言いにくかったらジャスミンに言ってくれればまず確実に僕の耳に届くしね。
僕は妹達もいるし、砂田君みたいな輩は厳しく処罰する事にしてるから。
まあ...ひのき君が目を光らせている中でそういう行動に出られる勇気のある猛者がどれだけいるかは甚だ疑問だけどね」
最後の一言になずなは赤くになった。
「あ...あの...//」
「ああ、そっちの情報はホップ君からね、聞いたよ」
書類に目をやったままシザーはクスクス笑いをもらす。
「いや、あのひのき君がなんてすごいね。
彼は戦闘力も判断力も指揮能力も素晴らしいんだけど、いかんせん固すぎて一部との人間関係がちょっと...なんだよね。
これを機会にあたりが柔らかくなってくれると素晴らしいんだけど。
まあ...彼女持つっていうのは彼の成長にとっては良い事だと思うよ。頑張ってね♪」
「...はい//」
さらに真っ赤になるなずな。
シザーは一通り書類に目を通し終わり、にっこりとなずなを振り返った。
双子の妹達で可愛い子は見慣れているシザーではあるが、目の前の少女は女の子っぽいジャスミンよりさらに女の子っぽくて、その双子にはない儚げで優しげな愛らしさに目を奪われる。
ブレインは全くの男所帯というわけでもなく3分の1は女性なのだが、男並みに働くインテリ女性達にそういうところは少ない。
フリーダムのように露骨に反応はしないが、男達がチラチラとこちらを気にしているのにシザーは気づいていた。
(これは...ひのき君いなかったらジャスミン以上に取り合いで一騒動だったかね...)
と、心の中で苦笑しつつ、
「とりあえず、あらためて始めまして。本部のブレイン部長のシザンサスだよ。
気軽にシザーって呼んでね。他のジャスティスの皆もそう呼んでるから。よろしくね♪」
と、なずなに微笑みかけた。
「こちらこそ、よろしくお願いします//」
再度お辞儀をするなずなに、ふと思い出したように付け加える。
「ああ、今日ね、君達がでかけてる間にユリ君の能力も見させてもらったんだ。
で、結論から言うと、今後姫ちゃんはユリ君とひのき君と一緒に任務行ってもらう事になるから。
もちろん状況によってはさらにそこに数人加わるけどね。」
「え~!兄さん、あたしは?!姫と一緒に仕事したいわっ!!」
シザーの言葉にジャスミンが不満げな声をあげた。
それに大してシザーはちょっと困ったような笑みを浮かべて言う。
「えとね...さっきも言った通り状況によってはジャスミンにもそこに加わってもらう事もあるけど、その3人は離せないんだ。
ユリ君の能力がね...限定条件多すぎて。
まず攻撃発動まで時間がかかったりとか諸々の関係でひのき君並みの人間つけないとダメで、能力者の負担が大きすぎる関係で姫ちゃんの回復支援が必須なんだ。
でもその分、条件を満たしている時の火力は他の追随を許さないくらいすごいよ。
たぶん瞬間火力なら軽く本部ジャスティス全員分くらいに匹敵する」
「そう...なんだ」
「うん。だから任務はね、仕方ないんだよ。
でもその分任務外では趣味も一緒みたいだし仲良くできるでしょ」
シザーはがっかりする妹の頭を優しくなでて言った。
「ジャスミンは可愛いけど強いからね。姫ちゃんかばってあげてね。
極東で色々あってすごく怖がりになってるから」
「うん。それはもちろん」
シザーの言葉にジャスミンはコクコクうなづく。
「今日もね、姫あたしの部屋にお泊りするのよ♪お揃いのパジャマも買ってきたの」
「そか、それは楽しみだね。ジャスミンは...ずっと女の子の仲の良い友達欲しいって言ってたもんね」
少し元気になってきたジャスミンの言葉にシザーは優しく目を細めた。
「姫ちゃんも...ジャスミンを宜しくね。
双子の妹の他に同世代の女の子いなかったし、僕の妹って事もあって周りも甘やかしてくれちゃったからちょっと我がままに育っちゃったんだけど、仲良くしてあげてね」
「こちらこそ// 私もユリちゃん以外女の子のお友達いなかったのでとっても嬉しいです//」
優しく妹を心配する様子のシザーを見て少しうらやましく思いながらも、なずなは微笑みを浮かべる。
「じゃ、これで報告終了だから二人でご飯食べておいで」
柔らかく言うシザーの言葉にうなづいて、二人はまた手をつないでブレイン本部を後にした。
「おい...あれ見ろよ!あれ!」
「ジャスミンと...もう一人は?すっごい可愛い子じゃん」
「かっわいいなぁ...二人揃うと10倍可愛い!」
二人が例によって手をつないで食堂に入っていくと、その場に一斉にざわめきが広がった。
いままでブルースター本部で人気ナンバー1だったジャスミンはそんなざわめきにも慣れたもので、気にせずにカウンターに向かうが、なずなは極東支部の面々よりかなりオープンな感じの視線に少し戸惑い気味だ。
「あ...あの、ジャスミン。なんかずいぶん注目浴びてるみたいだけど...」
おずおずと言うなずなにジャスミンはあっさり言う。
「ああ、気にしないでいいわよ。いつものことだから。
食堂に備え付けられたテレビの中の登場人物だとでも思っておけば」
「う...うん...」
慣れた手つきでトレーを取り、なずなにもトレーを渡してくれるジャスミンから離れないように、なずなは必死に色違いのワンピースを着るその友人にぴったりと寄り添った。
「マグロのカルパッチョとパンプキンスープとフランスパンとシーフードサラダと...カルボナーラとマルゲリータピザ、あとカプチーノとティラミスお願い♪」
次々注文していくジャスミンのトレイに乗った料理の量になずなは目を丸くする。
この細い体のどこにこんな量が入るのだろうか...。
ちなみになずなのトレイにはトマトサラダとハーフサイズのエビドリアとミルクティのみである。
「姫って...それだけしか食べないの??」
なずなのトレイを覗き込んでジャスミンが驚きの声をあげた。
「うん。量的にはいつもこれくらいだけど...ジャスミンすごいよね...」
なずなは逆にジャスミンのトレイに目を向ける。
「そう?ファーはもっと食べるわよ~」
「う~ん...二人とも戦闘系ジャスティスだから...かな」
「そうかもね~」
言ってジャスミンは食堂を軽く見渡した。
「窓際いこ♪」
と、テラスに出るガラス戸の側の空席に足を向ける。
なずなはそれに続いて窓際の席にストンと座るジャスミンの隣にトレイを置いた。
「...おいっ...」
「...行ってみるか?」
「早い者勝ちだよなっ!」
ジャスミンの横になずなも腰を下ろした瞬間、食堂のあちこちで一斉に男達が立ち上がって窓際に向かってダッシュする。
「ここ!良いかな?!」
「おい!割り込むなよ!俺が先っ!」
「うるせえっ!あっち行けよ、この席は俺のもんだっ!!」
あっという間にジャスミンとなずなの周りの席の争奪戦が始まった。
いつもはアニーやホップと一緒で近寄れなかったブルースターのアイドルの可愛いジャスミンが、見慣れない、でもジャスミンに負けずとも劣らない可愛い美少女と二人して人形のように可愛い格好で食事をしているのだ。
チャンス!と男達が群がっても不思議ではない。
今までいつもジャスティス仲間の男の子達か兄であるシザーが必ず側にいたのでジャスミン自身もここまでの騒ぎに遭遇した事はなく、さすがに呆然とする。
なずなに至っては...顔から血の気が引いていた。
(怖い...怖い...怖い)
大きな男達に囲まれてるのも怖ければ、みんなが周りで殺気だっているのも怖い。
ほぼ無意識に右手がポーチに動いて携帯を取り出した。
ピッポッパ。
「...怖い...助けて…」
長い髪に隠れるくらい小さな携帯を耳にあてて小声で泣きつくなずなの様子など誰も目に入っていない。
「今どこだ?!」
「...食堂」
「...すぐ行く」
と一言あったきりすぐ切れた携帯を膝の上で握り締めたまま硬直するなずな。
「ちょっと、みんないい加減にしてよ!」
さすがに怒り出すジャスミンの言葉すら耳に入らない様子で、争奪戦がヒートアップしていた。
「いい加減にしないと、アームスで蹴り飛ばすわよ!」
とまで言っても争奪戦はやむことはない。
「あ~!もうあったまきた~!発動!」
ジャスミンが立ち上がってクリスタルを握り締めて叫び、クリスタルがその可愛らしい足に装着されたその時
「うああああ~~!!!」
ものすごい悲鳴と共に、二人の後ろに群がっていた男達が吹き飛ばされた。
「タカァ!」
なずながはじかれたように立ち上がって白く輝く日本刀を構えたひのきに走りよった。
「まだ刀を喰らいたい奴はいるか?峰討ちだから死にはしねえが...まあ怪我くらいは覚悟しておけよ...」
低く言うひのきに最初の剣圧で吹き飛ばされた者、範囲からかろうじてはずれてた者、みんな真っ青な顔で硬直し、フルフルと首を横に振る。
ギロっと周りを見回して異論を唱える者がいない事を確認すると、ひのきは
「...解除」
と刀をクリスタルに戻し、泣きながら抱きついてくるなずなの背に軽く手を回した。
「こ...怖かったよぉ...」
しゃくりをあげながらしがみつくなずなの頭を
「もう大丈夫だから...」
ともう片方の手で軽くなでる。
「姫は...ひのきの彼女なんだからね。あんまり馬鹿な事してると殺されるわよ」
大人しくなった男達にジャスミンは言って
「解除っ」
と自分も能力を解いた。
「えええ??!!!」
ジャスミンの言葉に周りの男達が驚きびびる。
今朝のやりとりでなずなをひのきの彼女と認識しつつそれでも寄ってきたつわものは皆無で、寄ってきたのは今朝のその場面にはいなくて事情を知らない面々ばかりだったらしい。
「みんな知らなかったわけ...ね」
周りの反応にジャスミンは腰に手をあててため息をつく。
「そりゃあ...知ってたらいくら可愛い子でもひのきの彼女口説くなんて命知らずな真似しませんよ。先に言ってくださいよ、ジャスミン」
「何言ったって皆聞いてなかったじゃないっ!」
ジャスミンは可愛い頬をプ~っと膨らませた。
「とにかく...失せろっ!」
ひのきの一言でぴゅ~っと蜘蛛の子散らすように周りから人がいなくなる。
「んで...なんでこういう自体になったんだ?」
そこでひのきは初めてジャスミンに声をかけた。
「えっと...」
感情の読めない静かな調子で言うひのきにジャスミンはちょっと緊張する。
ひのきと話をするといつも怒られている気がして、心底苦手だ。
「ご飯食べようと席に座っただけなんだけど...何故か群がってきちゃって...彼らが...。
私もこんな事初めてだったから一瞬対応できなくて...」
「お前なぁっ...」
ちょっと声のトーンが変わった事でジャスミンは思わず身をすくめた。
「ごめんなさいっ!」
反射的に謝る。
「ジャスミンを怒らないで?」
泣きそうなジャスミンを見て、しっかりひのきにしがみついていたなずながまだポロポロ泣きながらひのきを見上げた。
「いや...別に怒ってねえし...お前ももう泣くなよ」
と手で軽くなずなの涙をぬぐう。
「だ...だってね、いっぱい男の人きてね...周り中いっぱいになっちゃってね...それだけでも怖いのに、そのうち喧嘩とか始めちゃってね...怖かったんだもん」
「怖かったのはわかったから...今度から喧嘩始めるまで待たねえで、最初の一人が来た時点で電話しろ。そしたらお前が泣く前に張り倒せるから」
「うん、今度からそうする...でも、ごめんね、迷惑いっぱいかけてるね」
ひのきの言葉になずながコクコクうなづいて言う。
ジャスミンは怖さも忘れて呆然とそのやりとりを見守った。
「馬鹿。そのために番号教えてんだろうが。
迷惑だったら教えてねえから気にするな。
それよりいい加減泣き止め。俺がきたからにはもう大丈夫だから」
「うん。タカご飯は?」
「ん、まあ目が届いて飛んでこれる範囲で適当に食ってるから。
お前は安心してジャスミンと食ってろ。女同士で遊びたかったんだろ?」
「うん。タカ、ありがと//」
あの厳しくて怖いひのきが...どうしちゃったの??別人っ?!
ミミズ殴らないだけで激怒するひのきが怒らないよ、優しい事言ってるよ、なんだか甘いよ、いったい何が起こってるの??
そのジャスミンの心の言葉は、そのままそのやり取りが聞こえる範囲にいる面々の心の言葉だったらしく、皆そちらを凝視している。
ようやく落ち着いてきたなずなが体を離すと、ひのきはその頭を軽くポンポンとなでて、自分もカウンターの方に食事を取りに向かった。
食事はすでに少し冷めてしまっていたが、それでもようやく二人して落ち着いて摂る事ができた。
周りもひのき怖さに近寄ってはこず、それでも色違いの可愛いワンピースの美少女二人、楽しげに談笑しながら食事を摂るのを遠巻きに見て、目の保養をしている。
「よっ、一人か?」
二人がちゃんと見える位置に陣取り食事をしているひのきに、トレイを持ったフェイロンが話しかけてきた。
「鍛錬中に血相変えて出て行ったから何があったのかと思った」
トレイをおいて隣に座り、ふとひのきの視線の先を追う。
「あの二人か。今日うちに任務の報告にきたんだが、すごい騒ぎになってたぞ。みんな舞い上がっちまって鎮めるのが大変だった」
「ん。フェイロン、悪いが皆になずなにはあまり距離詰めないように通達しておいてくれ。男相手だと人見知りして怯えるから」
それを聞いてフェイロンはクスっと笑った。
「タカが他人の事で気を回すって珍しいな。惚れたか?」
フェイロンの言葉にひのきは肩をすくめる。
「...つーか、俺の彼女」
「へ?」
箸をもつフェイロンの手がピタっと止まった。
「何かの冗談か?」
「いや、まじ。つきあい始めたばかりだけどな。俺以外の男は怯えるから」
「それは...ノロケか?」
「いや...本当の事。さっきのも食堂で男に囲まれて怯えたなずなからの電話」
「...なるほど。
まあ...お前の彼女って知って手を出す命知らずもいないだろうから、あとでみんなに言っておく」
「サンキュー。恩にきる」
「いや...そういう事ならな」
フェイロンはまた箸を動かし始める。
4歳年下の親友に初めてあったのはフェイロンがまだフリーダムの新人部員だった7年前。
当時15歳だったフェイロンがたまたま任務で新人のジャスティスに同行してフォローしてやって欲しいと言われて現地にむかったら、待っていたのはまだ11歳の子供だった。
お子様の護衛かと思いきや、思い切り上から偉そうに命令されて、自身もまだ生意気ざかりだったフェイロンはむっとしてそれをスルー。
それが原因であわや死ぬかという事態に陥り、そのお子様に助けられた。
体は軽症ですんだものの心は重症。プライドはずたずた。
フォローするどころか足を引っ張る大人を抱えて一人で敵を殲滅したお子様はさぞやご立腹だろうと思ったら帰りの車の中でいきなり逆に謝罪された。
自分はまだ英語が得意ではないから、指示の仕方が間違っててお前に怪我をさせたのか、と頭を下げられたのだ。
本当の事を言うべきか一瞬迷う自分がいたが、相手の誠意には例えそれで相手に軽蔑されても答えるべきだ、相手は命の恩人なのだと思い直し、正直に打ち明ける事にする。
命令自体は間違っていなかったが子供に命令されるのに腹がたって無視したのだと謝罪をし、今度こそ激怒されるかと思ったら、お子様は一瞬ポカンとしたあと、そんなニュアンスの言い回しだとは知らなかった、悪かったと逆に謝罪したあと、教えてくれてありがとう、と礼を言われた。
「お前は正直で勇気があるやつだな」
と、それがきっかけで懐かれ、フリーダムを伴う任務で指名される事多数。
年の差を越えてお互い尊敬しあい、親友になっていた。
友人であると同時に不器用な弟を心配する兄の気分で、当時の自分の年を追い越して18歳になった今でも並外れて優れた戦闘力とは対照的に不器用で口下手で馬鹿正直にまっすぐなのがあの頃のままなのを心配していたが、ちゃんと彼女作ってうまくやっているらしい事に少し安心する。
可愛い子じゃないか、とフェイロンは微笑ましく思った。
少女二人は食事を終えたらしく立ち上がった。
黒髪の少女の方がひのきの所に駆け寄ってくる。
「...タカ、さっきはありがと...//」
可愛らしい甘い声でひのきに声をかけたあと、ふとフェイロンにきづいてペコリとお辞儀をした。
「なずな、俺の親友でフリーダムのトップのフェイロンだ。もう会った事はあるよな?」
気づいて紹介するひのきに少女はウンウンとうなづいて
「さきほどはご挨拶もしないで失礼しました。
このたび本部に配属になりました、睦月なずなです」
と丁寧に挨拶をしたあと、またお辞儀をする。
「今タカから聞いたから...うちの部員にはあまり距離つめるなって言っておくから安心してくれ」
フェイロンが言うと、少女はひのきを振り返り、ひのきが軽く笑みを浮かべてうなづくと
「ありがとうございます。お手数おかけして申し訳ありません//」
とまたフェイロンを振り返って丁寧に礼を口にした。
「で?ジャスミン待たせて何か話があったのか?」
一通り挨拶をすませたところでひのきが聞くと、なずなはうなづいて言う。
「あ、そうなの。今晩ね、ジャスミンのところにお泊りする事になったから...」
「朝の迎えはジャスミンの所か?」
皆まで言わせずひのきが言うのに、なずなはにっこりうなづいた。
「うん、ありがと~」
おやすみなさいっ、と手を振って戸口で待つジャスミンの所へかけよっていくその後ろ姿を見送って、ひのきも立ち上がった。
「鍛錬の続きでもするか。」
と声をかけるフェイロンも立ち上がる。
「ああ、そうだな。」
と答えるひのきの声で、二人は再度鍛錬所に向かって歩き始めた。
なずなはいったんジャスミンと別れて部屋に戻り、自室でシャワーを浴び、お泊りセット用のボストンに着替えを詰め込んだ。
考えてみれば極東支部にいた頃はあまり自室に一人でいた事がない。
たいていはユリやブレインの女性陣の部屋を転々としていた。
一人でいると砂田他、何名かいたストーカーの誰かが訪ねてきそうで落ち着かなかったのだ。
本部に来てブレイン、フリーダム双方のトップと会ったが、こちらではその心配はなさそうに思えた。
それでも長年染み付いた感覚はぬけるものではない。一人でいると本当に落ち着かない。
「ジャスミンの部屋は隣だから...いいよね」
誰にともなくそうつぶやき、今日買ったパジャマを着てその上にガウンを羽織る。
そのままボストンバッグを抱えて部屋のドアをあけて廊下に顔を出すと右左もう一度右を見て人がいないことを
確認して外に出た。
「ジャスミン、あたし」
コンコンと隣のドアをノックするとジャスミンが顔を出す。
「どぞ♪」
とうながされるまま中に入った。
「やっぱり女の子の部屋だと造りが似てるのね」
パステルカラーの居間に足を踏み入れてそう感想をもらすなずなの言葉に、ジャスミンがきく。
「ひのきの部屋は...だいぶ違った?」
「うん。モノトーンでね、全体的に物が少ない感じがした」
「そか~。アニーの部屋とかはパステルカラーじゃないけど、それなりに物多かったよ」
トポトポとポットから紅茶をそそぎながらジャスミンが言う。
「ジャスミンは...アニーさんと仲がいいの?」
カップを受け取って中の紅茶を一口飲んでなずなはきいた。
なんだか一番名前が多くでてくる気がする。
二人はそのままマグカップを片手に寝室へ移動。ベッドの上でベッドラックをテーブル代わりに会話を続ける。
「う~ん...」
ジャスミンは右手の人差し指を頬にあてて首をかしげた。
「ブルースターて男の人多いけど実際に接する男の人って少ないのよね。
たいていジャスティス同士で固まってるか兄さんがいるかだから他の人が近寄ってくる隙がないし...そうすると必然的にジャスティス仲間になるんだけど、ひのきは任務以外は近づいてこないし、ホップは時間が合えば相手してくれるけど顔が広いからか忙しそうだし、アニーくらいなのよ、プライベートでつきあってくれるのって」
「そうなんだ...でもジャスミンの話だとなんとなくアニーさんに好意持ってるのかなぁって感じするんだけど...」
「う~ん、優しいから、かな。アニーはね、とにかく優しいの。
戦闘ではあたしが嫌な事とか進んで代わってくれるしかばってくれるし、プライベートでは嫌な顔一つせずになんにでもつきあってくれるしね。髪型変えたり新しい洋服だったりとかすると必ず気づいて褒めてくれるし//」
「おつきあい...とかしないの?」
なずなはジャスミンの顔をのぞきこんできく。
「アニーとあたし?」
「うん」
「小さい頃から一緒にいすぎて考えたことなかった」
ジャスミンは率直な意見をのべた。
「それにね、アニーは優しいけど誰にでも優しいから...
彼氏にしたら超ストレス溜まりそう...」
ジャスミンはパフっとクッションを抱え込んで顔をうずめる。
「ジャスミンは...彼氏欲しくないの?」
同じくクッションを抱え込んできくなずなに、ジャスミンは即答。
「すっごく欲しいっ」
「お付き合いした事は?」
「ないっ;;」
なさけな~い顔になるジャスミン。
「ジャスミンて...人気あるのにねぇ。不思議な気がする」
「兄さんが目を光らせてるはいつもジャスティスで固まってるはで出会いがなさすぎて...」
「あ、なら最終的にジャスティス全員本部集合らしいし、他の支部からくるジャスティスとか...」
「あのねぇ...今わかってる範囲だと、他はおじさんにおじいちゃんに根暗さんらしいんだけど...orz
姫みたいに運命的な出会いなんて早々ないのよ」
「運命的な出会いって...//」
ジャスミンの言葉にまた赤面するなずな。
「照れる事ないじゃない、素敵な出会いだったんでしょ?」
そんななずなにニヤニヤと笑みをむけるジャスミンに、なずなは赤くなってクッションに顔をうずめた。
「一般的にはわかんない。出会い方が、っていうより、出会えたことがっていうのが正しい気がするし...」
「ご馳走様っ」
「...///...」
「でもね、すごい興味あるんだけど...。
本当にね、姫といるとひのき別人すぎて。
そもそも男性恐怖症の姫がひのき平気になった経過も謎だし。どんな出会い方したの?」
「えとね...砂田さん怖さにバルコニーから逃走しようとして足滑らせて落っこちちゃったの。
で、それをタカが助けてくれて...」
「姫らしいっ!!」
ジャスミンが爆笑する。
その後の経過を一通り説明するなずな。
話がひと段落ついたところでジャスミンが口を開いた。
「そうやって優しい態度だったから好きになった?」
「ううん。
えとね他の人って一緒についてきたがるんだけど、タカは送るって言った時にもし行き先知られたくないなら建物内とか一人で危なくない場所までで、とか、お花見の時とかも護衛が必要ならいるけど、一人でいたいなら消えるからとか...なんていうかね、私の方がその気になれば拒否しやすいように距離おいてくれたのね。
何か困った事があったらって携帯の番号教えてくれた時も私が自分の番号知られるのが嫌なら非通知でも良いからって。
でも部屋帰って部長いてすごく怖くて電話した時はすぐかけつけて追い払ってくれたし...。
私が何をして欲しくて何がして欲しくないのかを自分で決め付けないで私に聞いてくれた人って初めてだったから...」
「なるほどねぇ...確かに真面目は真面目だもんね、ひのきって。
いいなぁ...大切にされてるよねぇ...」
「...うん///」
「あ~、なんだか余計にあたしも彼氏欲しくなったっ!」
ジャスミンは熱い紅茶をちびちび飲みながらつぶやいた。
「...デートしたい」
「アニーさんとすれば?」
「"彼氏と"したいの;;」
「う~~~ん...」
なずなはベッドの上で体育座りをしたまま、天井を見上げた。
「姫は...したくないの?」
そんななずなにジャスミンは聞く。
「昨日の今日だったし考えた事なかったなぁ...」
「ひのきとつきあう前は?彼氏できたらしたいことランキングとかなかった?」
ジャスミンの言葉になずなは思い切り苦笑した。
「彼氏作る以前に男の人に近づかれたくなかったから」
「なるほど...」
なずなの言葉にジャスミンも苦笑する。
「あたしはね、いっぱいあるよ~、したいこと。
まずね、普段は手をつないで歩いて、思い切りベタベタして、デートはね、ショッピング。
で、最初のプレゼントは可愛いペンダント。
それをね、ずっとつけてるのね。
お洒落なカフェでお茶をして、自分はケーキかパフェか何か食べつつ、お茶を飲む彼に一口あげるの♪
最初のキスは夜景の綺麗な場所で...」
延々と続くジャスミンの話になずなは微笑みながら耳を傾ける。
静かに聴いているなずなに、ジャスミンはちょっと会話を止めて
「ごめんね、あたしばっかり。つまんない?」
とちょっと心配そうに聞いたが、なずなはやっぱり笑みを浮かべて首を横に振った。
「ううん。私今まで男の人とおつきあいするとかって想像したことなかったから、どんな事するとかいうイメージ全然なくて。
だからジャスミンの話聞いて、ああ、そういうものなのかぁと改めて思った。
なんか楽しそうでいいよね」
「そかぁ。ね、姫、あたしが彼氏作ったらダブルデートしようねっ。絶対に楽しいよ♪」
ジャスミンは言ってなずなの手をとった。
「うんうん。いいね~」
なずなも手を握り返す。
「ジャスミンと二人で一緒にお弁当作って4人でピクニックとかいきたいな」
「それ素敵~♪こうなったら...本気で彼氏作らないとっ!」
ジャスミンは両手のこぶしを握り締めた。
「私がタカに見捨てられる前にお願い」
そんなジャスミンになずなが苦笑する。
「姫~、なんであり得ないそういう事を...」
なずなの言葉にジャスミンは笑った。
「...なんか迷惑いっぱいかけてるし。
お付き合いするって話がでたのも元々は私が昨日の夜一人でいるの怖がってつきあってもいない異性と泊まるのってまずいかなって感じでだったし...」
うつむくなずなに、ジャスミンは冗談じゃなかったのか、と改めて口を開いた。
「ん~、さっきから言ってるけどひのきって本来女の子に対して優しくしてくれる人じゃないから、たぶん姫は特別なんじゃないかしら。
見捨てるくらいなら初めから放置する男よ?彼は。
お互いジャスティスになって長いからうんざりするくらい長いつきあいだけど、あたしもファーも優しくされた事なんて一度もないもん」
「そう...なの?」
「うん。任務では自分の担当終わると手伝いにきてはくれるけど、それは全員に対してで、女の子だからって特別扱いはしてくれないの。
というか...手伝うのって自分が手伝う事でさっさと終わらせてさっさと帰りたいからかも。
アニーかホップいたら運転任せて自分は先にバイクで帰っちゃうし。
フリーダムの面々とは仲良しだけどブレインや他のジャスティスとはあんまりおつきあいしないの。
今朝だって姫いなかったら私達の方なんか来ないでフリーダムの人達と食事してたと思う。
そんな感じだったから正直さっきひのきがわざわざ助けにきたのにすっごいびっくりしたわ。
朝、姫が座る時にも普通に椅子ひいてあげてたし。
周りがびっくりしてたのに気づかなかった?」
「...全然。すごく緊張してたから…」
「うん、だからたぶん姫は特別みたいだから、大丈夫よ。
ていうか...姫可愛いもん!女のあたしですら守ってあげたいって思うくらいっ。
大丈夫っ!姫を振る馬鹿な男なんていないからっ」
「ありがと/// でもジャスミンの方が全然美人だよぉ」
ジャスミンの言葉に赤くなるなずなをジャスミンはぎゅうっと抱きしめた。
「ありがと♪あたし達両思いだよね~っ。
いつかあたしにも彼氏できてお互い結婚とかしちゃって、子供とかできてもずっと親友でいようね~♪」
「うん///」
「また...泊りにもきてね?」
「うん、ぜひっ」
「今日はもう寝よっか。先長いしね」
言ってジャスミンは布団にもぐりこんで身をよこたわらせる。
なずなもそれにならった。
「姫のシャンプー...かな?可愛い匂い」
布団の中でジャスミンがクスっと笑う。
「えとね...D-ショップから出てる桃の香りのシャンプー。
リンスとボディシャンプーもセットで愛用してるの♪」
「そうなんだ。私もお揃いで使おうかなぁ...。すごい良い匂いだし」
「買いおきいっぱいしてあるから、使うなら後であげるね」
「ありがと~♪」
嬉しそうに言うジャスミンになずなもニッコリ微笑む。
「あのね、姫、さっき彼氏できたらやってみたい事ランキングって話したでしょ?」
「...うん。」
「あたしね、女の子の親友できたらやってみたい事ランキングっていうのもいっぱいあるのよ♪
一緒にお買い物してお茶してこうやって一緒に泊まってお洒落や恋の話して...お揃いの服とか着たりとか、いっぱいいっぱいあったの。
姫が本部にきて友達になってくれてとっても嬉しい」
ジャスミンは心底嬉しそうに微笑んだ。
「女の子のお友達とやってみたいことの方なら私もいっぱいあったよぉ。
今ジャスミンが言ってたような事、私もずっとやってみたかったの。
ジャスミン、お友達になってくれてありがと。これからも仲良くしてね」
なずなもそれに応えて微笑みを浮かべて言う。
「おやすみなさい、ジャスミン。」
「おやすみ、姫」
二人はほぼ同時に言うと、しっかりと手をつないで目をつむった。
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