二人がブレイン本部に着いた時には、ジャスミンとなずな以外の3人はすでに待機中だった。
「ああ、来たね。いないのはジャスミンと姫ちゃんだけか」
シザーが二人をいつもの笑顔で迎える。
「さて...と、それじゃあどうするかなぁ...。全員は要らないんだよなぁ」
シザーが考え込んだ。
「ユリ君は戦闘見たいから決まりね。
ということで同じ遠距離のホップ君は待機組。
まだユリ君の能力を僕が把握しきれてないから、不測の事態に備えてひのき君も出動組。あと一人は...どっちにしようかなぁ...」
「兄さんっ!あたし行きたい!」
少し迷うシザーにファーが手を上げる。
「ふむ...じゃあファーでいいか。というわけでアニー君は待機組。
二人は戻っていいけど、3人不在の間何かあったら困るから基地内にはいてね」
シザーは残りの二人にそう言って、ユリ、ひのき、ファーの3人を呼び寄せた。
「じゃ、そういう事でこの3人で行ってもらうよ。
敵はイヴィル一人にトカゲ型の魔導生物多数。
作戦としてはイヴィルの相手はファー、魔導生物はできるならユリ君の範囲攻撃で一掃しちゃって。ひのき君はユリ君の盾ね。
ユリ君が攻撃に入るまではトカゲへの攻撃は控えてくれる?
どの程度の範囲を倒せるのか見たいから。
で、ユリ君の方が大丈夫そうならファーのフォローはいってやって」
「おい...攻撃せずに防衛しろって?刀でどうやってそんな器用なコトできんだよ?
どう考えてもアニーのが適役じゃねえか?」
シザーの言葉にひのきが眉間にしわをよせる。
「ん~。聞いてなかった?
ユリ君の力把握できてないから不測の事態もありうるんだよ。
最悪ユリ君なしでトカゲ全部とファーのフォローやってもらう事になるから火力もいるしひのき君じゃないと無理でしょ?」
「簡単に言うな!」
にこやかに言うシザーに思わず頭を抱えるひのき。
「ん~。簡単じゃないからひのき君にお願いしてるんじゃないか♪」
「頭痛くなってきた...」
ひのきは大きくため息をついた。
「女性陣の護衛よろしく頼むね♪君ジャスティスのエースなんだし、期待してるよ?」
にこやかに言うシザーに見送られて3人は第8区の駐車場に向かった。
そのまま車に乗り込み、ひのきがハンドルを握って、現場まで誘導するナビを確認して出発する。
「ユリさんと一緒の戦闘かぁ...楽しみ♪」
車の中で浮かれるファーにため息まじりのひのき。
「お前は気楽でいいなぁ...」
「え~。だって楽しみなんだもん♪」
二人のやりとりにユリは笑った。
「まあ...ひのき、死なせたらごめんてことで」
「お前なぁ...」
「ん~、でも、いつもは戦闘の時は結構フリーダムの犠牲だしてたんだよ?」
「ええ??」
ファーが驚きの声をあげる。
「だってさ、範囲攻撃は能力発動まで時間かかるし、その間敵防いでおいてもらわないと発動中断しちゃうしね。
かといって近接だけで倒すのは無理だしさ」
「まあ...唯一の攻撃手段が遠距離だとそうなるな、どうしても。
ホップにしたって瞬殺できる単体の敵以外はソロで殺るのは無理だしな。
で?ぶっちゃけどのくらいの時間敵ひきつけておけばいいんだ?」
ひのきの言葉にユリは考え込む。
「ん~。10秒...くらい持たせてもらえればありがたいかなぁ。
無理なら多少こっちに向かうリスクもあるけど5秒。
それがぎりぎりだと思う」
「10秒か...まあ...最高20秒までならなんとかするから、確実にしとめろ」
ひのきの言葉にユリはピュ~っと口笛を吹いた。
「20秒ってすごいな」
「俺は本来防御手段を持たない攻撃特化だからそのくらいが限界だが、アニーなら1分くらいは持たせるぞ、たぶん」
「ふ~ん...さすが本部は人材豊富だな。
つか、攻撃特化型でそれだけ持つって普通にすごくない?」
「わからん。他に同じようなタイプいねえし。
双子は肉体が武器みたいなもんだし、アニーは火力がない代わりに防御が高い盾タイプ、ホップは一撃強いが殴られたら終わる遠距離だしな。
しいて言うなら北欧支部のコーレアっておっさんが同じようなタイプなんだが、1回しか一緒に戦った事ねえし」
「私さ、人材が人材なんで極東離れた事なかったから疎いんだけど、あとの4人てどんなんだか知ってる?」
ユリの言葉にひのきは記憶の糸をさぐる。
「確か...北欧支部にはあと一人人形使いの爺さんがいたな。
それから...鎌使いの男がいる。あと2個は確か今は空席だったような...」
「ふ~ん...じゃあ今10人か。
アニー坊やはバランス型と言いつつ実は防御特化じゃん。
実は今いる中ではひのきが一番バランス型っぽい気が...」
ユリは腕組みをしつつ外に目を向けた。
「まあ...そう言えばそうだが、盾タイプも他にいねえからな。
ホップみたいに殴られたら終わる奴なんかと組ませると強いぞ、なかなか。
俺は...実質遊撃部隊みたいな位置が多い、今回みたいに」
「ひのきはいっつもちゃっちゃと自分の担当終わらせてみんなの所回ってきてくれるよね♪」
ファーが足をプラプラさせながら言う。
「ひのきいるとさ、やっぱり気が楽っていうか、安心♪」
「んじゃ、これからヘルプやめておくか」
「なんでよぉ?!」
ひのきの言葉にファーがぷうっとふくれた。
「慢心や油断は隙を生むし、それに慣れるとソロで死ぬ」
「確かにな」
ひのきの言葉にユリがクスっと笑いをもらす。
「ひのき、お前ってさ...いい奴じゃん?」
「なんだよ、気味がわりぃ」
「いやいや、適当に甘い事言っておけば心証いいのに、わざわざ憎まれ役買って出るとこが。
そのくせそういう場面になったら絶対に助けずにはいられないだろ」
「いや、見捨てる」
「嘘つけっ」
「フン、勝手に言ってろっ。その場になったら情け容赦なく見捨ててやるっ」
ムスっというひのきの言葉にユリはさらにクスクス笑い出した。
「...そろそろだな。この辺で車降りるぞ」
ひのきが車を止めてドアを開ける。
「鉄線...感知できるか?」
全員出ると、ひのきはユリに聞いた。
基本的には遠距離型の人間が一番感知能力に優れている。
ユリがいない時は敵の位置を測るのはホップの仕事だった。
「ん...直立歩行型なんだな、トカゲ。
500mくらい先から20mくらいの範囲に10~20匹。大きさはたぶん1.5mくらい?
そのさらに5mくらい先に人影、これがイヴィル」
「んで...鉄線の力の効果範囲は?」
「ん~~~10mってとこ?」
「んじゃ、ここからまっすぐ510mにつっこむ。
その地点を中心に範囲頼む。ファーはトカゲの感知範囲外から迂回してイヴィルに向かえ」
「了解っ」
ひのきの言葉に敬礼するファー。
それに対し、ユリは眉をひそめて言う。
「あのさぁ...いまさら言いにくいんだけど...私の攻撃って敵味方関係なくくらうよ?
まともに食らったらひのきもやばいと思うんだけど。
...発動地点もう少しずらそう」
「ああ、まあそのあたりはなんとかするから気にするな。
お前は確実にしとめるために攻撃にだけ集中しろ」
「いや、まぢやばいって。
極東のフリーダムが毎回結構死んでるのって敵にってのもあるけど、私の範囲くらうの前提で足止めしてたからって言うのもあるんだよ」
「大丈夫だし、時間ねえから行くぞ。」
「いや、ちょっと待った!」
踏み込みかけるひのきの腕をユリがつかむ。
「悪い...ちと1分でいい。心の準備させてくれ」
ユリが言うのに、ひのきは小さく息を吐いた。
「わかった...準備できたら言え」
ひのきが言うと、ユリはその腕を放して右手を胸にあてて目をつぶる。
「おっけー、大丈夫」
しばらくしてユリはそう言って
「発動...」
とクリスタルに手を当てて唱えた。
それを合図にひのきもファーも能力を発動させる。
「んじゃ、行くぞ。」
ひのきがタッっと駆け出しながら刀に手をかざし
「朧っ!」
と唱えると、何本もの刀がグルリとひのきの周りを取り囲んだ。
そのまま一気に跳躍してユリの位置から丁度510mの位置に着地する。
その瞬間、突如現れた敵にトカゲが殺到した。
四方から向けられる攻撃をひのきはできるだけ避け、避け切れない分は周りを取り囲んだ刀に吸収させる。
吸収した分、1本、2本と周りを取り囲む刀が減っていくが、ひのきは時間を数えつつその場にとどまって
ユリの攻撃を待った。
ひのきが駆け出した瞬間、ユリは左手に持ったウォンドを前方に向け、スッと右手をその上にかざした。
「万物を氷つかせる冷気よ、今刃となって我が敵を滅せよ!フリーズ!」
ユリの声に応じて杖の先から白い冷気が渦となって前方に走る。
途中の大気をも凍りつかせて白い風は一直線にひのきのいる地点に走ると、その場でパァ~ッと円状に広がり、まるでドミノ倒しのようにトカゲは中心に近い位置から円の端に向かって順番にピキピキっと固まった後、ガラガラっと崩れ落ちた。
ユリはその様子を息をのんで見守る。
白い冷気の霧が晴れると、そこには粉々になった氷がキラキラ光っていた。
しばらくその場に立ち止まったままユリはその中に目をこらす。
「さっすがユリさん、すごいですよねぇ...」
ユリがその場で硬直していると、ファーがユリの目の前にストンとジャンプしてきた。
「この前のミミズもユリさんいたら一瞬だったのに」
と、心底感心したようにその場でピョンピョンとびながらはしゃぐファー。
「こんなにすごい攻撃、私初めてみましたっ!」
そんな無邪気な様子のファーにユリは苦い笑いを浮かべる。
「まあ...私の力は犠牲つきだから」
「ああ、さっきのフリーダムの話ですか?でももうその心配もないし♪」
ファーがそう言った瞬間、二人の前にキキ~っと車が止まった。
「さっさと乗れ!」
と、中からひのきが声をかけると、
「は~い♪」
と、ファーがドアを開けて乗り込む。
「あ...え~っと...」
ユリはその場で頭に左手をやった。
「どうした?」
その場に立ち竦むユリをひのきはいぶかしげな目で見る。
「いや...お前何してたわけ?」
ユリの言葉にひのきはギロっとユリをにらみつけた。
「なんだ?お前は喧嘩売ってんのか?!」
「いや...そうじゃなくて...今までどこにいたんだよ?」
「あ?」
ひのきは眉をひそめ、ああ、と合点がいったように口を開いた。
「鉄線の攻撃が来るの確認して、そのまま上飛んだ勢いでファーのフォローに入って、イヴィル倒してすぐ車取りに行った」
「そう...だったのか」
「いいから早く乗れ!俺はちゃっちゃと帰りてえんだっ!」
ぼ~っとするユリをひのきがせかすと、
「ああ。悪い」
とユリも車に乗り込んだ。
「でもさ、ユリさんの攻撃まじすごかったよね♪
ホップもひのきも火力全然敵わないよっ。あんなにたくさんの敵がホント一瞬だよ?」
ファーは帰りの車の中でもまだ興奮している。
「ああ、確かに...正直びびったな。ちまちま刀振ってるのが馬鹿馬鹿しくなる」
ファーの言葉にひのきもうなづいた。
「私は...ひのきの方がびびったけどな...」
二人の言葉にまだ半分ぼ~っとしながらユリがつぶやく。
「正直...私の力は発動が遅いし避けられたら終わるからさ、攻撃当たるまでに敵を一定範囲にひきつけておいてもらわんと駄目なんだけど、それやると大抵の奴は巻き込まれて死ぬから。
一人であれだけの時間ひきつけておいて、攻撃当たるぎりぎりで攻撃のほぼ中心地点から脱出なんて芸当できる奴いると思わなかった。」
「そんなの当たり前だよ、ひのきだもん♪」
ユリの言葉にファーが軽い調子で言った。
「だから兄さんもひのき入れたんだし。アニーならひきつける事は余裕だけど、跳躍力ないから脱出できずに死ぬよね♪」
ファーはそう言ってニシシっと笑う。
「...他は?」
「ん~~~、たぶん脱出できる跳躍力あるのは私とジャスミンとひのきなんだけど、私やジャスミンだとひきつけてる間に死ぬかなぁ...。
それにそこまでシビアに脱出するタイミング量れない。ホップは両方だめだね。
唯一火力、移動力、防御力が揃ってるから、何か不確定要素ある時はひのき入れたがるんだよね、兄さん」
「まあ...火力だけならホップの方があるし、防御力ならアニーにはるかに負けるけどな」
ファーの言葉にひのきは言うが、ファーはそれを否定した。
「そうかなぁ?ホップの銃も一撃は確かに大きいかもしれないけど攻撃スピードが遅いし、アニーは打たれ強いけど避けないから、総合被ダメージ、総合与ダメージだとわかんないよ?まあ...ユリさんにははるかに負けるけどね♪」
「確かに...あれにはどうやっても勝てねえな」
「いや、単純に瞬間火力だけじゃ力の優劣ははかれんよ。
2人以上と戦った事はないけど、あのレベルの力は私単体だと2発限界だから、雑魚やってイヴィル一人やったらあとはフォロー入らないと終わる。
もちろん...最初にイヴィルやってる間に雑魚ひきつけておく囮が必須だし」
「ま、その辺は本部はジャスティスもそれなりにいるしね♪」
ファーがそうしめくくったところで車はブルースター本部についた。
今回は3人でフリーダムに帰還報告を終えた後、ブレイン本部に向かう。
受付でひのきが報告書を受け取ると、参加ジャスティス名、敵の数、種類、殲滅手段等、必要事項を記入して、それを手にシザーの元へ向かった。
「おかえり、3人とも。無事で何より」
シザーはいつもの笑顔でひのきから報告書を受け取って言う。
「兄さん!ユリさん超強いよっ!すごかったよ!!!」
ファーが真っ先に興奮した声で勢い込んで言うと、シザーはファーを軽く制して報告書に目を通し、
「ま、大方は報告書でわかったけど...ちょっと話も聞きたいからかけてもらえる?
ファーは後で話し聞くから今はちょっと下がってて」
と、ひのきとユリに席を勧めた。
ファーは少し不満げにぷ~っと頬を膨らませるが、渋々下がっていく。
「さて、と。この火力は素晴らしいね。
20体あまりを全部一掃できるなんて本当にすごい」
ファーが下がるとシザーはまずユリの能力を賞賛した。
そしてその後少し間をあけて、チラっと二人を見比べる。
「しかし...限定条件がなかなか厳しいよね。
攻撃発動まで要する時間が約10秒。効果範囲10m。
さらに範囲内のもの全部に攻撃が及ぶってことは...敵の分散範囲が10m以上の時は10mの範囲に敵をひきつけて、10秒以上の時間持たせて、さらに敵に気づかれないように攻撃が及ぶぎりぎりに効果範囲外に脱出できる囮が必要になるって事になる。
これは...ひのき君必須なのかなぁ。他の子じゃ死んじゃうよね...やっぱり...」
「...そういう事になりますね。」
シザーの言葉にユリがうなづいた。
「ってことは...ユリ君が出勤の時はひのき君、姫ちゃんをベースで、あと必要に応じて足すって感じかな。
ユリ君とひのき君が組むと鉄板になるから、残りのチームの方を底上げして平均化したい気もするんだけど...
姫ちゃんはこっちのチームの方が精神衛生上よろしそうだしね。
ホップ君に色々聞いたところによると...姫ちゃんひのき君にラブラブなんだって?」
「...その言い方やめろ...」
「照れないでもいいじゃない♪いやあうらやましい限り」
「...切るぞ。」
「ごめんっ。話戻そうかっ」
赤くなってクリスタルに手をかけるひのきに、シザーはあわてて顔の前で手を振った。
「まあ...これからは基本的にユリ君とひのき君と姫ちゃんはできる限り重い任務の時にでてもらう感じで行く事になるから。
軽めの任務は他の面々でね。
まあ...本格的にはじめる前に一度姫ちゃんも交えてまた軽めの任務で慣らしてもらうことになるけど。オッケー?」
「...わかった」
「了解っ」
シザーの言葉に二人がそれぞれ了承する。
「んじゃ、そういう事で。
ユリ君かひのき君、どっちでもいいや。姫ちゃんにもそう報告しておいてくれる?」
シザーの言葉にユリはきっぱり
「ひのき任せたっ」
とひのきに振った。
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