青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_7_意外な関係?

「ほら、ファー。そんな風にしてたらユリさんも困るでしょ。座んなさいよ。」
見かねたジャスミンがファーに声をかけ、自分はユリの正面に腰を下ろす。

「うん...」
ファーは渋々うなづいて、ホップと反対側のユリの隣に腰をかけた。

ファーが席につくと、ジャスミンはさらに隣でやつれた顔をしているアニーにも
「アニーもね、先にご飯食べよ?」
と言って席に促す。



「あ、昨日の...結局見つかんなかったんだ?」
ユリの言葉にアニーはうつむいた。

「昨日からずっと探してるんですけど見つからなくて...こうしてる間にも姫に何かあったらと思うと...」

深刻な顔のアニーにユリはあっさり
「まあ...最悪の事態にはなってないから大丈夫」
と言い切る。

「なんでそんな事言い切れるんですかっ?!」
ユリの言葉に声を荒げるアニーにユリは

「ほらあっち。砂ちゃんがここにいるって事は砂ちゃんには捕まってないらしいし」
と、カフェテリアの隅っこの方で食事を取っているらしい砂田を指差した。

「なるほど。さすがタマ、賢いな」

「だろ?まあ...砂ちゃんなら部屋で待ち伏せくらいはしてただろうから、部屋には戻らなかったみたいだけど、凍死するような気温でもないし、どっかで適当に時間つぶしてんじゃない?」

「ユリ...冷たすぎですよ...」

のんきな口調のユリにアニーはがっくり肩を落とした。


その時...
あ~、ユリちゃ~んっ!

思わず聞き惚れるほど可愛らしい声がカフェテリアに響いた。
小さな人影が手を振りながら近づいてくる。

店内にいるかなりの面々がその可愛らしい姿に注目する中、その少女はユリのいるテーブルまで歩いてきた。

「ああ、なずな。おひさ~。丁度噂してたんだよ」

「噂?」
なずなは不思議そうに首をかしげる。
絹糸のような細く綺麗な黒髪がサラっと揺れた。

長い睫に縁取られたリスを思わせるようなクルリと大きい黒目がちな瞳がユリの周りの面々に向けられる。

「か...可愛いさ//」
「さすがユリさんの相棒...すっごい美少女さんだね//」
「こんなに可愛い子とショッピングとか楽しめるなんて幸せ♪」
「やっぱり極東支部のアイドル、姫...ですよね//」

それぞれに感想を述べる面々。ユリは

「ホラ、本部のジャスティスの面々。昨日パスしたからね、今挨拶しときな」
となずなを促した。

促されてなずなはちょっとはにかんだ笑みを浮かべる。

「あ...あの...極東支部から来ました、睦月なずなです//」
それだけ言うとペコリと頭を下げた。


(あれが...噂の"姫"...)
(可愛いよ、姫、可愛いよぉ!)
目の前の面々のみならず、かなりの数の人間がこちらを注目している。

「もうちっとちゃんと自己紹介できないものかねぇ...」
あきれたように言って見上げるユリの言葉に

「だって...他に何を言えばいいの?」
と困ったように右手のこぶしを口元にやる。

その仕草にまた萌えまくる周りの面々。

「じゅ...充分ですからっ!もう姿見せていただけただけで充分ですっ!」
アニーがガタっと立ち上がって言った。

その言葉にやっぱり関係ない周りの男たちがウンウンとうなづく。


「んで?あんた昨日どこにいたのよ?
こっちのお兄さんは昨日から夜通し探しててくれたらしいよ?」

ユリは一応アニーを指差して言った。

「あ...そうだったんですか。ご心配おかけして申し訳ありませんでしたっ」
なずなはペコンとお辞儀をする。

「いえ、とんでもない。ご無事で良かったです」

「んで?」
アニーの言葉にこの話題は終わりとばかりに、ユリは先をうながした。

「え?」
「だから、どこにいたん?ちゃんと着替えてるって事は野宿じゃないよな?」
「あ、そのことね。うん。ちゃんとお部屋で寝たよ~」
「部屋って...自分のじゃないよな?砂ちゃんいたっしょ」

「うん。えとね...タカの部屋//

ピキ...ンと空気が凍った。

(...別人...ですよね...?)
(...まさか...)
(...ひのきに限ってそんな事あるわけが...)
(...あったら面白そうだけど、さすがにそれはありえんさ...)

4人がそれぞれ硬直したままボソボソ話し合う。
4人以外の周りの面々も硬直したまま噂しあって、カフェテリアは雑然とした空気に包まれた。

そんな中ただ一人、事情を飲み込めないユリが頬杖をついてなずなを見上げる。

「どういう経過で知り合ったどういう相手?あだ名で言われてもわからん」
「えと...あのね、本部のジャスティスで...すごく強くてね...」

(...本人だよっ、おいぃぃ!!!

4人プラス周りの面々がざわめきたつ。

「今一緒に来てるの、あ、きたっ。タカ、こっちっ!ユリちゃんいるっ!」
なずながひのきの姿をみとめて大きく手を振った。

周りがいっせいにそちらを振り返る。
もしかしたら名前を語った偽者かも...と誰もが一瞬考えた可能性が覆された。

両手にトレイを持って近づいてくるその姿は、確かにジャスティスの檜貴虎である。


「あ、トレイありがとっ。
えとね、紹介するね。こっちが噂のユリちゃん。
極東支部唯一の実戦力だったジャスティス。
んでね、ユリちゃん、こっちがタカ」

紹介されてお互い一瞬意味ありげな視線で相手を見て沈黙するが、やがてユリが口を開いた。

「昨日逃走組だった最後のジャスティスだね?」
「ああ。ひのきだ。よろしくな」
ユリの言葉にうなづいて、ひのきは少し頭をさげる。

「こちらこそ」

ユリもそれを見て少し頭をさげると、

「で?」
となずなとひのきを交互に見比べた。

「二人どういう関係?」

ユリの言葉に周り中がシン...と息をのむ。

「えとぉ...」
なずながススっとひのきの後ろに隠れた。
そのまま真っ赤になってうつむくとひのきのシャツの袖をぎゅっとつかむ。

「つまりひのきはなずなの...」
その様子を見てうながすユリの言葉をひのきがさえぎって言った。

「彼氏」

周りからすごい悲鳴があがる。


「タカ~っ!なんで?どうしてそういう事になったのさ?!」
「「なんで?!何が起こったのっ?!!!」」
「ひのきっ!姫にいったい何をしたんですかっ!!

あまりのすごい反応になずなが驚いてひのきにしがみついた。

(まあ...こうなるとは思ったが...)
ひのきは内心小さく息をつく。

「お前らうるさすぎ。なずなが驚いてるからやめろ」
ムスっというひのきにユリはクスクス笑い出した。

「いやぁ、すごいな。
なずなのキャラクタはまだこっちで有名なわけじゃないし、察するにひのきのキャラクタで周りに驚かれてる?」

「まあ...そういう事だな。」

「でもよくこの子落としたねぇ。いや、まぢ尊敬するっ。
なずなが男の部屋お泊まりする日がくるなんて思っても見なかったよ。
んで、彼氏ってあれ?男の責任とかそういう事?」

「まあ...な」

妙に明るいノリのユリに戸惑いつつ、ついつい流されて答えるひのきの言葉に周りからまた悲鳴があがった。


この外道っ!!姫になんて不埒な事をっ!決闘を申し込みますっ!!!

アニーが立ち上がって叫ぶ。

顔を真っ赤にするアニーに、ひのきの後ろからなずながコソコソと
「タカは...不埒な事なんてしてません//...」
と口をはさんだ。

アニーが一瞬絶句する。

「...っ!姫っ、なんでこんな奴かばうんですかっ?!
ま...まさか無理やり何かされてそれでとか...」

アニーの言葉になずなが真っ赤になって言葉を失う。

「無理やり何かなんてしてねえよ。
お前...いい加減にしとけ。なずなが困ってるだろうがっ」

後ろでなずなが恥ずかしさのあまり卒倒しそうなのに気づいて、さすがにひのきが割って入った。

「なずな、気にすんな。
こいつはいつも俺に何かにつけいちゃもんつけるのが趣味なだけだから」

と、後ろのなずなに声をかけたあと、アニーにも

「俺に何かいちゃもんつけたいなら、後で俺んとこに言いにこい。
なずな巻き込むなよ、可哀想だから」
と、声をかけた。


(か...可哀想とかいう言葉でたよ、ひのきの口からっ!)
(ミミズ殴らないだけで激怒するひのきがどうしちゃったのっ?!!
明日は雪降る?!!)

双子がコソコソ互いに耳打ちする。


「とりあえず...タカも姫も座ったら?」
ホップがガタっと立ち上がってユリの隣を空け、自分はアニーの隣に移動した。

「だな」
ひのきはなずなのトレイをユリの隣の席におき、なずなのために椅子をひく。

「ありがと、タカ//」
まだ赤い顔をしたままなずなが礼を言ってユリの隣に座ると、ひのきはその隣に自分のトレイを置いて座った。

その様子をユリ以外のみんなが目を丸く見開いたまま凝視している。


「ま、とりあえずこれで本部のジャスティス全員集合なわけだ?」

シン...と静まり返った中、ユリがそう言ってホップに目をやった。

「そそ。ちなみに昨日いなくて説明なかったから言っておくと、タカの武器は基本は日本刀の変形時が槍で日本刀の時は近距離、槍の時は中距離な」

「ふ~ん...」
ホップの説明にユリがつぶやく。

その正面ではジャスミンがじ~~っとロイヤルミルクティの入ったカップを手にするなずなを観察していた。

「...?」
視線に気づいてなずながジャスミンににっこり笑いかけると、ジャスミンも嬉しそうな笑みを浮かべる。

「あの...姫の今日のワンピースってもしかして...D-ショップ?」
思わず口を開くジャスミンになずなも嬉しそうな声で返した。

「ですです~。もしかして好きだったりします?」
「うん♪今はいてるスカートもD-ショップのよ♪
ここから一番近い街に本店があるのっ。良かったら一緒に行かない?」
「はいっ。行きたいです♪」

いきなり盛り上がる少女二人にファーが
「なに?それ」
といぶかしげに聞くと、ジャスミンの代わりに何故かアニーが答える。

「フリルとかレースとかリボンとかをふんだんに使った可愛い系の服がウリのジャスミンが大好きなブティックですよ」

「なんで...んな事アニーが知ってんの?!」

驚いて聞くファーにアニーは

「ちょくちょく荷物持ちに呼ばれますから」
と、ニッコリ。

「荷物持ちって...ジャスミンたらプライベートでもアニーこき使ってたの?
大変だね、アニーも。」

思わず同情するファー。しかしアニーは

「いえいえ。ジャスミンの買い物につきあうの結構好きなんです。僕は楽しいですよ?」
と社交辞令でもなさげなにこやかな表情で言った。


ファーとアニーがそんなやりとりをしている間にもジャスミンとなずなは色々な話で盛り上がってる。

「んでね、本店の側にはね、すっごく可愛い喫茶店があるのよ♪
そこのストロペリータルトが絶品なのvv」
「いいですね~♪あとは...可愛い靴が売ってるお店があると嬉しいんですけど...」
「あ、それならね~...」

話は延々と続く。

「んじゃ、任務も入ってない事だし、これから行かない?」
結論が出たようである。ジャスミンが言ってガタっと立ち上がった。

「はい♪」
ジャスミンの言葉になずなも立ち上がる。

「あ、じゃあ僕荷物持ちがてら車出しましょうか?」
そこでアニーがすかさず言うと、なずながちょっと固まる。

そして助けを求めるような視線をユリに向けるが、ユリは肩をすくめ

「せっかく新しい環境なんだからいい加減に私からは卒業しろよ?」
と茶をすすった。

ユリに言われて今度は反対側の隣に座るひのきに目で助けを求めると、こちらは

「ジャスミン運転できんだろ?二人で行ってこいよ。
なずな男苦手だからアニーいると楽しめねえし」
と助け船を出してくれる。

その言葉に心底ほっとした表情をするなずなと、対照的にむっとした表情をするアニー。

「ずいぶんと人聞きの悪い事を...。ひのきだって姫と一緒にいるじゃないですか。
姫が男苦手っていうよりひのきが姫に他の男近づけたくないだけなんじゃないですか?」

アニーの険のある言葉になずながさらに固まった。

「ん~...まあそう思いたければそういう事にしておいても良いけどな。
とりあえずなずなの前でそうやってケンケンつっかかるのはやめておけ。怯えるから。
どうしてもお前が行くっていうなら、しょうがねえから俺もついてくけど、どう考えても女同士の方が二人とも楽しめるだろ」

あわや大乱闘かと思いきや、意外にも冷静に答えるひのきに本部ジャスティス組はポカ~ンとする。


「まあ...元々ジャスミンは女同士で買い物行ってみたいって言ってたしな。
姫と二人で行ってきたら?」

シン...としたところでホップが仲裁に入った。

「うん♪元々そのつもりだったし、男の子いるとできない会話とか色々したいしね~♪」

思わぬ展開にちょっと硬直してたジャスミンがほっとしたように宣言する。

「じゃ、行ってきます」
なずなも心底ほっとしたようにペコリとお辞儀をして二人して食器をかたづけがてらカフェテリアを後にした。


「...というわけで...まあ他人のプライベートに口出しする趣味はないんだけど、このままじゃ任務に支障だしそうなくらいすっげえ険悪な関係になりかねないんで、フォローいれとくかね」

二人の姿を見送ってそのまま残った面々を前に、ユリは相変わらず茶をすすりながら口を開いた。

「僕もぜひ事情ききたいところですねっ」
ユリの言葉にアニーは思い切りうなづき、ファーとホップは無言で顔を見合わせる。

「昨日...なんかすごい事あったみたいだねぃ。
あれとは長いつきあいだからなんとなくわかるんだけど、ひのき、鬼のような勢いでなずなに懐かれてるよね?」

「うん...そんな感じする。俺ら見る目とタカ見る目全然違うって言うか...」
ユリが言うのにホップも同意しつつひのきに目を向けると、ひのきは渋々口を開いた。

「昨日...ひょんな事で一緒になって時間つぶしがてら花見して...部屋まで送っていったら...」

「もしかして砂ちゃんいたか?」
ユリの言葉にひのきはうなづく。

「んで?」
「まあ...ちょっと脅して追い払った。」

「なるほど、そりゃ惚れるねぇ」
ユリは噴出した。

「たったそれだけの事で?!」
アニーはあきれた声をあげる。

「ん~、本人にとっては"たったそれだけ"じゃないんだよな。
今までこっそりとかくまってくれる奴はいても、堂々と追い払ってくれる男なんていなかったしねぇ」
ユリがふと笑うのをやめて続けた。

「極東支部はジャスティスは私となずなの二人きりだし、ブレインはトップがあれだし、フリーダムは入れ替わりが激しすぎて余裕ないはで、砂ちゃんの暴走止める人間いなかったんだよねぇ」

「そんなんだったら僕だって追い払ってましたよっ」
なんてタイミングの悪さ...とがっくり肩を落とすアニーにユリはまた茶をすすって言う。

「んにゃ、アニーじゃそれ以前に逃げられてるね」
「どういう意味です?」
「ん~、砂ちゃん追い払ったのって一通り一緒に時間すごしたあとじゃん?
普通の相手じゃそこまでいかないって事。
なんつーかね、今ほどじゃなくても、その前にすでにそれなりにあれが気を許してたって言うのがね、結構すごいと言うか。
まあ...わかるけどねぇ、ひのき見てると」

「僕にはぜんっぜんわかりませんが?」
ユリがにやにやしながら言うのに、アニーはむすっと口をへの字にする。

「別にタカはいい奴だとは思うけどさ、男苦手な女の子が懐くって意味では正直俺もわかんね」
そこで黙っていたホップまでが口を開いた。

「ん~...要はな、最初の距離の取り方。
あれは一般的に結構容姿とか良い方だから、なんつーか、みんな二人になると距離縮めようって感じの行動に出るんだけど、ひのきってさ丁寧には扱ってるなとは思うんだけど、あんまり距離つめないっていうかさ、むしろ一定の距離保とうとしてるから。
ぶっちゃけ...初対面の女にいきなり迫ったりとか口説いたりとかしなさそうじゃん?」

「う~ん...それは確かに...。アニーは女の子大好きだもんな」
ホップはうなづく。

「でもじゃあ...ユリのさっきの男の責任うんぬん発言て...あれ冗談だったんですか?」
アニーが不本意ながらも納得して聞くと、ユリはいやいや、と首を横に振った。

「あれは...まあ、経過想像できてな。
笑ったというか...。今の話聞いて余計に納得したよ」

「僕は全然納得できないんですけど?」

「えと、ようは...ひのき、砂ちゃん追い払った後、なずなに泣かれたんだろ?
一人にしないでっ(涙 とか言って(笑)」

「...なんでわかるんだ...?」
ひのきは額に手を当ててため息をつく。

「いやいや、いつも私がやられてたからっ。
私は同性だから別に問題ないけど、野郎にそれはまずいだろっ。
んでまあ...ひのきって典型的な古風な日本の男なのかなってイメージだったんで、嫁入り前の娘が恋人でもない男と一緒の部屋に泊まるのはすげえやばいんじゃないかと思っての苦肉の策だったのかと...」

「......」

「その沈黙って...事実だったん?」
ホップの言葉にユリが爆笑した。

「ひのきって...実はすごく押しに弱い男だったんですね...」
毒気を抜かれたような声でアニーも言う。

「正確には...押しというより泣き落とし?」
ホップがユリにつられて笑いながら言うと、ひのきは不機嫌に
「...るっせえ!てめえもああいう泣き方されてみろっ!」
とホップをにらみつけた。

「できることならぜひぜひされてみたいです...」
ひのきの言葉にアニーが真面目な顔でつぶやく。

「俺も...姫になら泣き落とされてみたいかも」
と、ホップもそれに同意した。


「さて、と。これで一通り問題解決なのかね?」
コトっと湯飲みを置いてユリが周りを見回す。

「そうさね。アニーも納得しただろ?」
「まあ...いきなり姫がひのきといた事情はわかりました...」
アニーが渋々言うと、ユリはうなづいていった。

「んじゃ、もういいね?あたしゃもう行くよ?」
立ち上がるユリにファーが聞く。

「ユリさん、これからどうするんですか?」
「ん~、ちょっと鍛錬でも...」
「あ、じゃあご一緒したいですっ!」
勢い込んで言うファーにユリは苦笑した。

「いや、体術の鍛錬じゃなくて、精神の方だから。ちと座禅をね。
私のアームスはどっちかっていうと体力より精神力を消耗するやつだから、鍛錬も肉体より精神の方が圧倒的に多いんだ」

「なんだ...残念です」
心底がっかりするファー。

「というわけで...ひのき、禅を組むのによさげな静かな場所って知らない?」
「ん~...一応お堂なるものがあるが...外野がうるせえ」
「ふ~ん。ひのきはそこで禅組んだりしないのか?」
「俺は...敷地内の人がいなさそうな場所を日々転々としてるが...」
「ん~~~。まあ敷地内まだ詳しくないから、お堂でいいや、案内して」
「了解」
ひのきも言って立ち上がった。


第6区の食堂から鍛錬所関連のある第7区に足を踏み入れると、丁度同じく鍛錬に来たフェイロンが手を振ってきた。

「よお。お前もこれから鍛錬か?」

ひのきが声をかけると、フェイロンが
「ああ、一緒にやるか?」
とひのきの肩にポンと手を置いて言う。

その言葉にひのきがちょっと横のユリを振り返って

「いや...こっちの新しく本部配属になった鉄線がお堂で禅組みたいっていうんで案内がてら俺も久々にあそこで組んでみようかと...」

と言うと、フェイロンは

「あそこでかっ。そりゃすごい精神修養になるな」
と噴出した。

「なんか...訳ありな場所みたいだな?」

フェイロンの言葉にユリが少し眉をひそめると、フェイロンは

「ああ、行って見ればわかる。
ところで...自己紹介まだだったな。俺はフェイロン・リー。フリーダムのトップだ」
とユリに向かって右手を差し出す。

「ああ、どうも。鉄線ユリ。極東支部から本部に転属になったジャスティスっす」
とユリはその手を握り返した。

「自己紹介終わったところで...フェイロン、お前もついでにどうだ?」

ひのきがニヤニヤしながら言うのに、フェイロンはちょっと考え込み、

「う~ん...そうだな。たまには精神修養も必要か」
と同行を了承する。


そのまま3人そろって歩いていると、何故かその後ろにゾロゾロ人がついてくる。
その数は進むごとにふえ、お堂につく頃にはその数は10人を軽く超えていた。

「なあ、ひのき。この後ろの面々はなんなんだ?」
ユリは不思議そうな目でひのきに問いかける。

「ん~、さっき話してた外野」
ひのきはその問いに答えて言った。

「まあ...そのうちわかる」
言ってお堂にあがる玄関で靴を脱ぐ。
フェイロンもそれに続き、ユリもそれにならった。

「誰も...いないんだな」

ユリのつぶやきに

「まあ...禅なんて組むのは俺とタカくらいだから」
とフェイロンが答え、板の間に座って禅を組み始めた。

ひのきもその隣で黙って禅を組み始めたのでユリも禅を組んで静かに目を閉じる。


「あの、一番左の子、昨日の男の子よvv」
「ひのき君やフェイロン様の友達だったのね//」
「きゃああ、オリエンタルビューティー3人よぉぉ!!」
「3人とも素敵// 写真とらなきゃっ!!」
「あ、でもフラッシュは禁止よっ!わかってるわね?」

入り口で押し合いへし合いする女性陣の視線が痛い。

"すごい精神修養"の意味はこれだったのか...ユリはコソコソ声が響きわたる中、密かに思った。

確かにこの中で集中するのにはすごい精神力を要する。
それでも3人、1時間ほどひたすら禅に集中した。
そして1時間経過した頃、館内放送が流れる。

「現在待機中のジャスティスは至急ブレイン本部まで急行してください」
その言葉にひのきとユリはパっと閉じていた目を開いてスクっと立ち上がった。

その身のこなしにまた外野から歓声があがるが、当然二人とも聞いていない。

「行ってくるっ」
短く言い置いて駆け出すひのきをユリも追う。

残されたフェイロンはゆっくり立ち上がって、
「俺もフロア待機したほうがいいな」
と、フリーダム本部に向かった。


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