青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_6_猫と犬

翌朝...。

「よっ!おはよっ!」
カフェテリアで背中をポンと叩かれてユリは後ろを振り返った。


「あ~...鉄砲小僧。名前は確か...」
「鉄砲小僧はひでえよ。ホップ!」
「ああ、そうだったホップだ」

「一人?隣いい?」
ユリが返事をする前にホップはもうトレイをユリの隣において座っている。

「返事してないしっ」
というユリにホップは
「そう言って嫌だっていう奴めったにいないからっ」
とニカっと笑った。

「確かにな」
その言葉にユリも小さく噴出す。

「んで、なんて呼べばいい?」
肩肘をついてユリの方をみて、ホップが切り出した。

「私?」
「うん」

「鉄線でもユリでもキャットでもウィッチでもご自由に。
それが私を指し示してるって認識したら、次回からはちゃんと返事をするから」

味噌汁をすすりながらユリが応えると、ホップはう~ん...と考え込んだ。

「なに?そんなに悩むような事?」
ユリはちらっと目だけホップに向ける。

「うん。そう言われると何かナイスな呼び方を考えないといけない気がする...」
「変なやつ」

ユリがまた前を振り向いた時
「そうだ!タマ!」
唐突にホップが叫んだ。

「はあ?」
ユリがあきれたように自分を指差すと、ホップはうんうんとうなづいた。

「確か日本の猫のポピュラーな名前だったような...」
「まあ...間違いではないけど...」

ユリはこの妙なノリのアメリカ人を見て少し考え込み、
「ま、いっか。じゃあお前ポチな」
と宣言した。


「ポチ?」
今度はホップが不思議そうに考え込む。

猫の名は知ってても犬の名は知らないのか、と、ユリは説明を付足した。

「日本の犬のポピュラーな名前」
「犬?」
ホップが自分を指差すのにユリがうなづく。

「協調性とか集団とか群れとか好きそうじゃん?
一生懸命全員とそれなりの関係築いて時に仲裁に入って群れが乱れないようにって感じで」

「タマって...もしかしてすげえ頭いい?」
「それに気づくポチも頭いいな」
ホップはサンドイッチを握り締めたままじ~っとユリを凝視した。

「なに?」
「いや...群れとかそういうのとは別でさ...俺タマの事もうちっと知りたいかも」
「ふ~ん?勝手にすれば」
ユリはパクっとおにぎりをかじる。

「それ...日本食だよな?たまにタカが食べてた」
「うん。おかかのおにぎり。
かつおを干して削ったのにソイソースで味をつけた物をライスでくるんでる」
「そうだったのか。
タカは聞いてもおにぎりはおにぎりだとしか教えてくれんかったから」

「まあ...確かに説明求められても面倒だな。一口食う?」
「いいのか?」
「ああ。どうせここの食事全部タダだし、足りなければまた取ってくれば良い話だろ。
ほれ」
とユリが差し出すおにぎりをホップは一口かじった。


「どう?」
「ん~~~、このおかかって不思議な触感...」
ホップが複雑な表情で言った瞬間、後ろから誰かがその頭を思い切りなぐりつけた。

「ホップの馬鹿ぁ~!!!何してくれてんのよっ!!!ユリさんのご飯を...っ!」

「ああ、ファーおはよう。これはいいんだよ。
私が味見するか?ってやったものだから。」

後ろで怒りに身を震わせて立っているファーにユリが笑顔を向けると、ファーはブンブン首を横に振った。

「良くないですっ!ユリさんのご飯なら私が味見したかったっ!!」

「ん~、ならこれファーも食べてみる?」
とユリがおにぎりを差し出すと、

「ホップと間接キスなんて死んでも嫌っ!!!」
とファーが叫んだ。

「ポチ...お前もしかしてファーにすっげえ嫌われてる?」
ボソボソっとホップの耳元でユリが言うと、ホップも小声で
「いや...今この瞬間に嫌われた...が正しいな」
とささやいた。



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