アリス視点
彼女が諦めるのをやめたわけ3
ということで、半ば一目ぼれと言う、実にこれまでの自分らしくないと思える形でげっとした年上の彼氏は、恋愛という事になるといちいち照れる可愛い一面もあったが、人生経験はアリスよりずっとあって、苦労もたくさんしていて、付き合えば付き合うほどに恋情はもちろんだが、尊敬の念も持てる相手だった。
少し几帳面すぎるところも認めてくれた上で、でも時に頼りたい、甘えたい面も自然に受け入れてくれる。
どちらも紛れもなくアリスを構成する要素で、彼はそのどちらも捨てさせず、どちらも尊重してくれた。
そんな相手は初めてだった。
あとでそんな彼に何故あの時声をかけたのかと聞いたら、毎日暗い顔をして通るのをみかけるたびずっと気になっていて、心配になったのだと教えてくれた。
いわく──お前の髪と…ついでにお前自身もな。
そんな風に照れて笑う彼が好きだと思う。
両親は相変わらずギスギスしていたが、それも彼に言わせれば
「親同士の関係は両親が自分達で向き合って解決すべきことで、お前が手を出す事じゃねえだろ。
親子の関係は自分で選んだものじゃないし子どもは親に対して責任はない。
それが親同士の関係ならなおさらだ。
けど、父親と母親に関しては偶然じゃなくて自分達の意志で選んで自分達の権利として一緒になったんだから、夫婦でいる間は互いに対して自分達で責任を持つべきだ。
お前が親を大切にするのは良いけど、それは善意であり任意であるべきだろ」
と言われれば、なるほど、と思う。
夫婦間のストレスをアリスが肩替りする義務はない。
そう言われて、なんだか心が軽くなった。
そして半年後。
すっかり割り切れて楽になったと思えばこれだ。
それでもうんざりはするが母1人だと何が起きるか心配だし、父にもいい加減言ってやりたい事がある。
そう思ってアリスは父の引き取りに同行する事にした。
父が捕まったのは、兄に対する誘拐による通報。
まあまだ未成年の子どもなので親に権利があると言えばあるのかもしれないが、方法が悪い。
いきなり手を拘束して山のふもとの倉庫に連れ込めば、そりゃあ通報されるな、と思う。
さらに悪いことに、そこで兄の服をビリビリに破いて、下着まではぎ取ったと来たら、いくら親でも虐待案件だ。
通報したのはそれを目撃した兄の恋人。
今現在の兄の家主、兄いわくウサギの国の王子様である。
それでも幸いなことに、通報した相手が、どうやらあちこちに顔が効く王子様の叔父の知り合いの警察関係者で、大人しく反省して二度とやらないということであれば、内々にすませてくれる気はあるらしいが、父は逆に王子様の方を誘拐犯だと憤っているらしい。
まあそのあたりについては母が許可をしているので本来は問題ではないのだが…。
ということで、父が納得して反省をしていない以上、兄の安全的な面で解放できないのだと、母が呼ばれたと言うわけだ。
アリス達が来ると、母を罵る父。
ロヴィに出会う前なら、母のように泣けない分、メンタルをやられてた気がする。
でもこれは彼らの問題だ…というか、母の問題ですらない。
父個人の問題だと思う。
父は暴れるので牢の中、3人きりにしてもらって泣きじゃくる母を制して自分が一歩前に出る。
そして口から自然に出た言葉は
──馬鹿じゃない?
普段は良い子の娘から出た意外な言葉に、怒鳴っていた父がぽか~んと驚いたように黙り込んだ。
さあ、我にかえってまた怒鳴り始める前に、ちゃっちゃと言うべき事を言おうか…。
「パパ分かってる?
今回の事はママのせいでも、ましてやアーサーのせいでもないわ。
パパが馬鹿みたいに子どもなだけよ。
人間てね、親の元に生まれても、普通は所帯もった時点でその先は伴侶と向き合いながら生きていくものなの。
その途中で子どもが加わったりもするけど子どもはまたいつか自分がそうだったように別の家庭を作ってそちらを中心に生きていくものだからね。
なのにパパときたら、いまだ自分の伴侶より自分の母親の事ばかり。
本来アーサーが自分の親に似ていようが、伴侶の親に似ていようが、関係ないでしょ。
お祖母様がパパに対して何かしてきたとしても、それを自分で作った伴侶と自分の家庭に持ち込むのがおかしいわよ。
もういい加減ママが恋しい僕ちゃんを卒業したら?
アーサーもあたしももうすぐ18で成人よ?
親の保護下をいつでも抜けて出ていく可能性がある年なんだから、執着するのは伴侶に対してだけにしなさいな」
そう言い終わると、アリスは肩をすくめて、言いたい事言い終わったから帰るわ、と、その場を後にした。
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