ギルベルト視点
エンゲージリングはトラブルの始まり5
こうして辿りつく宝石店。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
と言われる時点で、もう一見ではないのがわかる。
それどころか
「店長でなくてよろしかったのです?」
とさらに続けられて、(お前、どんだけのお得意様だよ?!)と内心思うものの、まあ一般人の父の妹の子とは言え、叔母が嫁いだ先がたまたま非常に資産家なのもあって、それも不思議なことではない。
「いいの。お母様の用じゃないしね。
慣れた相手の方が気楽でいいわ」
と、にこやかに応じている。
もうなんというか色々と……
ギルベルト的には、『いや、高級宝石店の店員に気楽って、お前どういう生活してんだよ』…と、突っ込みをいれたいところだ。
まあ、ギルベルトだって母方の家なら、それも特別なことではないのかもしれないが…。
ただ男兄弟で装飾品の類を収集したりもなかったし、叔父以外の親族とはほとんど縁が切れているような状況だったので、本当にこの手の場所には縁がない。
こちらの希望と指輪のサイズについては随分前に伝えてあり、なんどもデザインの確認もして、今日は受け取りに来たのだが、実際にケースに入ったそれを目にすると、なんだか感無量だ。
お姫さんが成人したら籍を入れるのだ…と、心秘かに決意して早2年。
年を経た人間のそれがそうじゃないとは決して言わないが、10代の2年というのはとてつもなく大きい。
正式な婚約期間をおけないので、お姫さんと一緒に暮らし始めて最初の誕生日にその代わりのつもりで小さなルビーの入った薔薇の形のブローチをプレゼントしたが、指輪ということになると、これが最初で唯一である。
いつも身につけられるようにと形こそシンプルだが、お姫さんの指輪には自分の目の色を模したルビーを埋め込んだプラチナの、自分の方にはお姫さんのそれを模したペリドットを埋め込んだ同じデザインの金の指輪だ。
それをしみじみと手に取るギルベルトの横では、おそらく自分も用があるというのはそれなのだろう。
エリザが凝った細工のブローチを受け取っていた。
こうしてそれぞれ品物を確認して、それが梱包されるのを待っている間、ねえ、と、エリザが唐突に口を開いた。
「ああ?」
「あんたのお姫ちゃんて…もしかして今日、ペパーミントグリーンのスカート履いてたりする?」
本当に突然すぎて目をぱちくりするギルベルト。
そして脳内の記憶を探る。
そう言えば…今日の服は胸元にふんわりとしたレースのリボンがついた真っ白なブラウスに、ペパーミントグリーンのサスペンダースカートだった気がする。
「あ~…そうかも?」
と、首をかしげるように見下ろすと、エリザはやや呆れたように、はぁ~と息を吐きだした。
なんだ?その反応は?と思って、
「なんだよ?」
と、聞くと、エリザは黙ってショーケースの上に置いてあった鏡を取って、それを見るように視線でうながした。
「お姫ちゃんに言ってないんでしょ?絶対に誤解されてるわよ?」
とまで言われて覗きこめば、それが映しだす店のガラス戸の向こうには天使の…いや、天使と見紛うくらい愛らしい、ギルベルトのお姫さんの姿が!!
と、思った瞬間くるりと、天使は反転、駆けだしていく。
「追いなさい!!」
「Ja!!」
ピシッと叫ぶエリザの号令に反射的に応えると、ギルベルトは自身も反転して店を飛び出した。
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