ギルベルト視点
エンゲージリングはトラブルの始まり6
速報:ギルベルトの天使は羽根で飛んだのかと思うほど素早かった
本当に、お姫さんが駆けだしてから店を出るまでほんの10秒ほどだと思う。
なのに街の人ごみの中に消えたお姫さんの姿を瞬時に見失う。
幸いにして目は良い方で、さらに走るのも早い方だから、冷静に見回せば道よりは若干人混みが途切れて見渡しやすい横断歩道で広い道路を渡るお姫さんを発見して、自分も手近な横断歩道を渡ってそれを追った。
そんな思いを今お姫さんもしていると思うと、物理的な理由とは別にまた胸が痛んだ。
本当に…どうしてこうなったのか…。
自分の中で順番にこだわり過ぎたのか?
思えばお姫さんとの関係は、出会いはイレギュラー、同居の始まった理由も、現状も、なによりお姫さんの大切さ、存在そのものがイレギュラーなのだから、今更形式や順番にこだわるなんて、自分が馬鹿だったのかもしれない。
お姫さんはあんなに可愛いのに自己肯定感が低くて、物事をいつも悪い方に悪い方にと考えるくせがあるから、おそらくお姫さんを捕まえて、事情を話しただけでは信じてもらえないかもしれないが、指輪を見せれば信じてもらえると思う。
自分とお姫さんの目の色、髪の色をイメージした指輪で、サイズだってこっそり計ったお姫さんの指のサイズに合わせてあるのだから、お姫さん用だって言う事はさすがにすぐわかる。
そうしてわかってもらったら、不安にさせてごめんな?と謝ったあとに額にキス。
もうすぐお姫さんの誕生日が来たら、この指輪をはめて一緒に役所に行こうと誘うのだ。
だから今は…絶対にお姫さんを捕まえなければならない。
「お姫さんっ!待ってくれっ!!」
と、遠くを走り抜けるその姿に叫ぶ声は人ごみの雑踏にかき消されて届かない。
普通に走れば追いつけるのかもしれないが、いかんせん街中は人が多すぎて、それをすり抜けるのはなかなか骨が折れる。
そんな中、まるで実体などないかのように、ギルベルトの大切な恋人様はするりするりと器用に人を避けながら、遠くを走り抜けていった。
ダメだ、追いつけないっ!
と、ギルベルトが焦りを感じ始めた頃、メインストリートから伸びた脇道に、ペパーミントグリーンのスカートが翻っていった。
姿が見えなくなる焦りと、しかし人が少なければ追いつけるのではという期待。
それを抱えてギルベルトも後を追う。
いそげ、いそげ、いそげっ!!!
普段ならしないようなほどには強引に人ごみを掻きわけ、ギルベルトがわずか前にアーサーが曲がった角を曲がると、信じられないような光景が目に飛び込んできた。
道路に止まった車。
ちょうど開いたトランクを閉める瞬間、中に見えたのは両手を拘束されたギルベルトの大切な天使に間違いない。
「待てっ!待ちやがれーー!!!!」
ギルベルトの叫ぶ声は当然聞き届けられる事はない。
必死に走るギルベルトをよそに、男はそのまま運転席へと飛び乗って車を発進させた。
しかしそこに天の助けだったのだろうか…たまたま近くで客を降ろしたところだったのだろう。
タクシーが通りかかったので、急いで止めて、
「前の車を追ってくれっ!」
と、飛び乗るなり運転手に向かって叫んだ。
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