ツインズ!25章_5

アーサー視点

ラプンツェルは嫉妬する5


目の前に止まる、どこかで見たことのあるような車。

キキ~!!とタイヤをきしませて止まると、いきなりドアが開き、出て来た男に殴られた。

壁に叩きつけられてぐわんぐわんと揺れる頭。
呆然としている間に両手をまとめてグルグルとガムテープで拘束され、そこでようやく我に返って悲鳴をあげようとする口もガムテープでふさがれた。

男はサングラスにマスクをしていて終始無言。
そしてそのまま車のトランクに押し込まれる。

再度タイヤを鳴らして発進する車。

ここまでがアーサーからするとあっという間の出来事で、一体何が起こっているのか理解できない。

誘拐?何故自分が?

多額の身代金を取れるほど実家は裕福ではないし、身代金目的じゃないとしたら?と考えてみたって、要人でもなんでもない。

売り飛ばすにしたって女装の男じゃ価値はなさそうだ。
ああ、でも女の子と間違われてのことなら、男だとバレたら殺されるのだろうか…

混乱した頭でそんな事を考えつつ思う。

これは渡りに船なのではないだろうか…。
と。

正直、ギルの前から消えると言っても実家に帰る事の出来ないアーサーには行く場所などない。
かと言って1人で生きていくような気概もなければ体力もないのだ。

それならいっそここで誘拐犯に殺されると言うのも悪い選択ではない。
それこそギルのせいでもギルの恋人のせいでもなければ、アーサーのせいでもなく、ただたまたま誘拐されて運が悪かったということですむ。
誰も傷つけずにすむ…

そう思うし、死ぬこと自体、それほど拒否感もなければ恐怖もない。
なのに不思議な事に、今車を運転しているのだろう誘拐犯の事は何故か怖い。
怖いのだ。

触れられた瞬間、恐ろしさに気が狂いそうになった。
何故だろう…いきなり殴られたからか?

いや、そういう物理的な事ではない気がする。
とても…ひどく生理的に恐怖心を感じる何かがあったのだ。

死ぬのは良くても、あの男に殺されると思えばひどく恐ろしくて、ガムテープでぐるぐる巻きにされた手首の先、指先がひどく冷たくなってくる。

いっそ今このまま呼吸が止まってくれた方が嬉しい。

男は終始無言だったが、そう言えば殴られて半分気を失いかけた一瞬、一言だけ喋った気がする。

ひどくしわがれた低い声…まるで血の底から這いずり出て来た亡者のような声で、一言…

──お前だけは…逃がさない…

と…



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