アーサー視点
ラプンツェルは嫉妬する3
(やっぱりカッコいいなぁ……)
いつもは隣にいるので、そう言えばこうして少し離れて自分に注目をすることなく1人でいるギルを見るのは久々な気がする。
それにアーサーと居る時はいつも笑顔だったから、笑みを浮かべず真面目な顔をしているギルを見ているのは本当に新鮮な気分だ。
少し薄手になったコートはグレーで、その下には黒のシャツに濃いグレーのジレーとパンツ。
珍しくネクタイまでしめている。
さきほどからしきりに左腕にした腕時計を気にしていると言う事は、誰かと待ち合わせなんだろうか…。
いったい誰と……?
そう考えるとズキンと胸が痛む。
いや、まだ女性と決まったわけではない。
大学の友人とかかもしれないし……
そんな希望に縋りながら、さらに電車を降り立つギルを尾ける。
皮肉な事に、彼が降りたのはアーサーがギルと最初に出会った時にアリスと待ち合わせをしていた駅。
そしてアーサーがギルと付き合う事になった時待ち合わせをしていたあの駅だ。
まあ驚く事ではないのかもしれないが…。
アーサーの自宅からもそうだが、ギルの自宅からもこの駅が一番近い大きな街だ。
何かあったらここに来るのも当然だ。
そうしてアーサーはギルから少し離れて駅のホームをついていった。
見失わないように…と思う必要もないくらいギルは目立つので、跡は尾けやすい。
なにしろ周りの女性陣が振り返るくらいの美形だし、どことなくオーラだってある気がする。
だからあまり1人で外に出ることのない方向音痴なアーサーですら、場所はわからなくなろうとギルを見失う事はないのだ。
かつかつと足音をたてながら背筋をしっかり伸ばして姿勢よくまっすぐと。
顔が良い、スタイルが良いというのもあるが、ギルはなにより姿勢が良くて、それが彼をよりカッコ良く見せていると思う。
男性でも女性でも、姿勢の良い人は5割増しくらいには素敵に見えるモノだ。
まるで花に惹かれるミツバチのように、アーサーはそんなギルの姿に半ば見惚れながらついていく。
普段は隣にいたのでついついその美麗な顔だとか表情、軽快なトークに注意が行って、あまり見ることのなかったギルのそんな全体像に改めて視線を向けると、そんな完璧に好ましい人物が街を歩いている、それだけで楽しくなってきて、アーサーは半分、今日ここにこうしている目的を忘れかけていた。
まるで映画かドラマを見るような楽しさ。
しかし終演は突然だった。
2年ほど前、2人で歩いたその通路をそのまま辿って、ギルは改札をくぐる。
そうして、以前アーサーがアリスとして待ち合わせをしていた時と同じ場所に立ち、あたりを見回したところをみると、まだ約束の相手は現れないらしい。
おそらく電車で来るのであろう相手を探すため、ギルの視線は改札に向けられているので、アーサーは改札から距離を置いて、様子を窺っている。
そして数分後…
ギルの紅い目が一点に向けられた。
アーサーもそちらを見てみると、視線の先には綺麗な女性。
背は高めだが出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいるスタイル抜群の美女。
とても…とても、綺麗な女性…
明るく笑う、きらきらとした……
ドラマみたいだ……と、アーサーは思った。
ドラマみたいにお似合いの美男美女。
息が詰まって泣きそうで…でもまだ2人の関係性はわからないから…と、心の中で自分でもみっともないくらい諦めの悪い言い訳をして、気づかれないように2人の跡をつけてみれば、街中を仲睦まじく談笑しながら歩いて向かったのは宝石店。
もうここまで来たならば…と、ショーウィンドウ越しに2人の様子を窺えば、並んでショーケースの前に立つ2人に品の良いスーツを着た女性店員が出してきたのはケースに入ったペアの指輪。
…決定だ。
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