アーサー視点
ラプンツェルは嫉妬する2
元々友人関係を望んだのはアーサーの方だった。
あの時はアリスの代わりでアリスのふりをして、本当なら交際を断らなければならない立場だったから…。
でもアーサーは確かに思ってしまった。
ギルと一緒に居たいと思ってしまったのだ。
でもアーサーは男だった。
女の子達のような柔らかい身体も持たない、かといってギルのように男としての魅力があるわけでもない、まるで少女もどきで、可愛らしい格好をして隣を歩く事なら出来るが、あまり過度の接触を持つとその事がバレてしまう。
だから名前だけでも特別になりたかったアーサーは、そう名乗らないとまたフランが同じお節介をするだろうから、という名目で、でも実際には男女の付き合いのように過度の接触は持たない、“恋人”という名の“友人”であることを望んで、ギルはそれを受け入れてくれた。
その際にアーサー自身がつけた条件…
──ギルに本当に好きな人が出来るまで
あの言葉をギルは今でも覚えているだろうか……
覚えていないと良いのに…と思いつつも、ギルに好きな相手が出来て今のかりそめの関係を解消したいと言われたら、アーサーには拒否する事は出来ない。
だって自分から出した条件なのだから。
自分にとってギルは特別でも、ギルにとっては特別ではなくなる……
そう思うと胸がキリキリ痛むのだけれど……
いつもいつもアーサーを疎んじていた父親の視線から逃れてここでの生活が始まって、毎日が幸せだったが、その、いつか来るであろう“かりそめの恋人関係”の終焉を思うとひどく辛くて、いっそのことそれが来る前に自分の方から逃げてしまおうか…なんて馬鹿な事を思ったりもする。
逃げて?それで?
今度こそ行く宛てなんて欠片もないのに……
そんな事を考えるとくらりと眩暈を感じて目をつむる。
すると涙が零れ落ちた。
まだそうと決まったわけでもなければ、そんな兆候があるわけでもないのに、泣くなんて馬鹿げている。
勝手に暗い想像をして落ち込むのはアーサーの悪い癖だ。
自分でもそう思ってアーサーは決意した。
よしっ!確かめよう。
別に今回がそういうのでなくともいつかはそんな日が訪れるのかもしれないが、とりあえず現在進行形ではない事に安心したい。
しかし考えてみれば、確かめる事で誤解だとわかって安心できる…と思う時点で、自分は以前ではありえないほど色々を楽天的に考えるようになっていたのだとアーサーは思った。
それだけ大切にされてきたのだ。
それには本当に感謝しなくてはならない。
この先なにが起きようとも……
そうと決まれば急がなければ。
着替える暇はないのでスカートのまま、バッグだけ持って部屋を飛び出た。
大学生になってギルは車の免許は取っていたが、今日は車が車庫にあったので、どうやら電車らしい。
なので大通りに出てすぐタクシーを拾って、最寄り駅に先回りする。
そして影からこっそり様子を見ていると、やはり駅に来るギル。
当たり前に改札をくぐる彼を追って、彼が乗った車両の隣の車両に飛び乗った。
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