ツインズ!25章_1

アーサー視点

ラプンツェルは嫉妬する1


「今日はルッツは部活だし、親父は外せない仕事、俺様はちょっと野暮用だから、可哀想だけど家で大人しくしててくれな~」

土曜の朝のことである。
いつもは誰かしらいる家も、今日は皆予定があって不在らしい。

ギルは今週は食事当番なので朝食を並べながら、当番が決まっていない代わりに住人達の希望によって毎回エプロンをつけて食器を並べたりするのを手伝う事になっているアーサーに、そう言った。

それにちらりと視線を向け、
「俺は…外出はダメ…なんだよな?」
と、今までたまにあったそんな日に何度となくたてて来たお伺いをまたたててみると、ギルはやっぱりいつもと同じように

「ごめんな~。
お姫さん可愛すぎるからな。
1人で出かけさせると変な奴に連れて行かれそうで俺らが落ちつかないから家に居てくれ。
その代わり明日ならどこか行きたいならどこでも付き合うから」
と、頭を撫でられる。

そう、アーサーがこの家で暮らし始めて早2年弱。

自宅ではフリッツ、ギル、ルートの3人とも優しいし、学校ではルートと一緒でクラスメートも優しい。
どこに行っても労わられている感があって、それまでの人生が嘘のように幸せだ。

アーサーがアーサーらしくしていても咎める相手もいない。

フリッツはいつもお土産にケーキや焼き菓子を買って来てくれるし、ギルもルートも菓子を焼いてくれる。

アーサーの趣味の刺繍だって、嫌な顔をするどころか褒めてくれて、今では家のあちこちにアーサーが刺した刺繍のタペストリが飾ってあるし、編んだレースの花瓶敷きも活用されていた。

学校でも高校2年の学園祭でクラスの出し物の劇で演じた姫君の役が好評で、男子校な事もあって未だ一部には姫として奉られていたりする。

どこへ行っても大切にされている感がある。

そんな状況のせいか、ギルはアーサーが1人で外出する事を好まない。

学校の登下校や学校にいる時間は当然のようにいつもルートが隣に居て、休日も外出する時は3人のうち誰かは一緒だ。

他の3人はそれぞれに1人で出かける事はあるが、3人とも居ない日は、アーサーはまるで塔の上のラプンツェルのように離れの窓から外出して行く面々を見送る事になる。

それ自体に不満はない。
アーサーは元々インドア派だし、1人で楽しむなら外より家の方が良い。

でもたまに不安になるのだ。
もし誰も帰って来ないで、1人ここに取り残されたらどうしようか…と。

元々は父親と揉めて夜中に頬を腫らせて行く所もなく公園にいたアーサーを心配して迎えに来てくれたギルの厚意で始まった生活だ。

ルートやフリッツはもちろん、ギルにだって別にアーサーをここに置いておく義理はない。

出会ったのはギルが高2、アーサーが高1と、共に高校生の時だった。
今もアーサーは高3で高校生だが、ギルは大学生である。

皆が一様に制服に身を包んで勉学に励んでいた頃と違って大学は私服だから、綺麗に着飾った女性と出会う機会もあるだろう。

広い世界を見たギルが、そんな綺麗で性格も明るくて魅力的な女性を好きになって、高校生時代に可哀想で同情して連れてきてしまったアーサーを持てあましてしまうような事になったら?

というか、すでに出会っているかもしれない。
今日の野暮用というのが、そんな女性とのデートという可能性だってある。

フリッツは外国で仕事をしている友人がたまたま帰国して、この日でないと会えないと言うので会いに行き、ルートは部活でもう引退はしているものの卒業で完全に会えなくなる3年生のお別れ会を後輩達が開いてくれるのでそれに出席と理由ははっきりしているのだが、ギルはただ“野暮用”と、珍しく今日の外出の理由を明言するのを避けていた。

いつもは可能な限りアーサーを1人にしないようにしていたギルが、他の2人が外出すると知っていてもなお、理由すら言えずに自分も外出するというのは、何かあるのではないだろうか…。

1人で留守番は構わないのだが、それが気になった。
もし本当に惹かれる相手と出会って彼女とデートとかだったらどうしよう…。

ギルは別の女性を好きになって彼女と暮らす事になっても、きっと行き先のないアーサーを追いだしたりはしないだろうし、そうなってもフリッツが中央の館にアーサーが暮らせるように部屋を作ってくれるだろう。

そのくらいの事はわかってしまうくらい、彼らと一緒に暮らして、彼らの優しさは知っている。

でも…と、アーサーはそれでも思ってしまうのだ。

自分は食事の時に、今アーサーにしているように好きな女性をエスコートして離れから出てくるギルとその恋人の女性を目の前に、何事もなかったように食事を摂れるだろうか…。




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