ツインズ!23章_4

アーサー視点

二つの救出4


「どうしたらいいと思う?」
と、言われても、アリスだって寝耳に水の話に呆然だ。

「わかんないわよ、そんなの」
とは答えたものの、今のままではまずいということだけはわかる。

本当はアーサーが祖母とかけ離れた性格になっていってくれるのが一番平和なのかもしれないが、それでも容姿が劇的に変わらない以上、父は彼に祖母の面影を見て荒れるのだろう。

正直、長年父と連れ添った母ですらどう対処して良いかわからないものを、自分がわかるはずはないとアリスは思った。

…と、それがアリスから聞いた事情の全てである。

アリスは話し終わった後、困ったような不安げな顔をしているが、アーサーは逆にそれを聞いてホッとした。

自分が何かしてしまったわけではない。
自分の好きな生き方が否定されたわけでもない。
アーサーがこういう容姿でこういう性格であるということが、単に父親側のトラウマに触れてしまうというだけだった。
そう、どうしようもないことだったのだ。

その事実は、常に自分が悪いのではと思い続けていたアーサーの心を随分と楽にした。

そして結論についても…。

単に自分の事を見るのが嫌という事なら、自分の方が出ていけば良い。
元々そのつもりで来たのだが、父の側に引きとめる理由がないなら、ギルやその叔父がしてくれようとしている交渉は随分と簡単になるのではないだろうか…。

法的に言えばまだ未成年なので、そのあたり、どうやっても親の許可が必要な事を思うと、良い情報と言っても良いくらいだ。

これで自分も救われるし、視界にいれるたびトラウマを掘り起こされる子どもを持ってしまった父も救われるのではないだろうか。

2人の人間が救われる…それはとてもめでたいことに思えた。


しかし実際はそんな簡単な事ではなかったらしい。

それは随分とあと、正式に籍をいれるくらいまではアーサーには知らされなかったが、アーサーが別に暮らすことには父は反対だったようだ。

母はそれを見越して父を出かけさせて同席させず、事情と父が反対するであろう事を話して、親としては自分が許可するからと、とりあえず説得は先送りにしてアーサーをギルに託してくれたのである。

もちろん最終的に説得はしなければならないので、フリッツは母に診断書の写しを渡して、状況によっては虐待になること、そうなればアーサーだけではなくアリスにとっても良くない影響が出る可能性もあることなど、色々説得する材料になりそうな情報を提示して、学校の諸手続きだけ頼んで戻って来たらしい。

そんな諸々を皆アーサーには言わなかった。

ただどこか怒ったような泣きそうなような、そんな顔をしたギルが部屋に迎えに来て、珍しくひどく心細げで不安げなアリスを残して、すでに母が荷造りしておいてくれたらしい荷物を車に積んでもらって、そのまま早々に家を跡にした事は記憶している。



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