アーサー視点
神様のいる世界1
幼い頃からもう、アーサーには神様に救いを祈るという発想すらなかった。
だって、神様が救わなければならない大きな不幸を背負った人達はいっぱいいて、アーサーのようにちっぽけな不幸程度しかない人間にまで手は回らないだろうと思ったから。
でも…神はアーサーが思うよりもずっと偉大で慈悲に満ちていたらしい。
今まで居た小さな小さな不幸な世界からいま、アーサーは救い出されて光に満ちた優しい世界にいる。
最初に会ったのは弟のルート。
“俺様よりでかくてガタイがいいんだぜ”
とのギルの言葉通り、アーサーより頭半分ほど大きいギルよりもさらにコブシ一つ分くらい大きく、全身がそれと分かるほど筋肉がムキムキ。
顔も少し気真面目そうだが男らしく整っていて、絵に描いたような美丈夫だった。
これでアーサーと同い年だと言うから驚きだ。
でもギルと同じくらい大きくて大人に見える彼は、内面は年相応に不器用なところがあって、迫力のある外見にアーサーが少し人見知りをしていると、大きな身体で縮こまるようにして、
「いかつくてすまない。
別に怒っているわけではないのだが、いつも皆に怯えられるのだ。
仲良くしてもらえると嬉しいのだが……」
と言ってしょんとうなだれる。
そんな様子はまるで大きなクマのようで、なんだか可愛らしいと思った。
だからすぐ緊張も解けた。
その後はそのルートが朝食として焼いておいてくれたふわふわのパンケーキを3人で食べたのだが、なんとアーサーの大好きなホイップクリームまで用意しておいてくれたらしい。
それに対してギルが
「おいおい、すげえ量だな」
と目を丸くすると、ルートは
「すまない。甘い物が好きだと聞いていたのではりきって作りすぎた」
と、またしょんとうなだれる。
本当に失礼な話なのだが、そうやってすぐうなだれるルートは可愛いと思う。
そんな兄弟の微笑ましいやりとりを横目にせっかくなので大好きな生クリームをたっぷり乗せて美味しくパンケーキを頂いていたら、ルートが申し訳なさそうに
「無理に食べなくても構わないから…。
余ったらコーヒーにでも入れよう」
と言うので、アーサーは慌てて、
「あ、ごめん。
他にも使うんだな。
つい嬉しくてつけすぎてしまって……」
と、生クリームをすくう大きなスプーンを置いた。
それに一瞬固まって、それから顔を見合わせる兄弟。
「いや、違うんだ!
俺も兄も甘い物があまり得意ではなくて食わないから、あなたが無理して食べてくれているのかと思っただけで…」
と、わたわたと焦ったように言うルートの言葉を、ギルが引き継ぐ。
「別に使う用途があるとかじゃなくってな。
余ったら捨てんのももったいねえからコーヒーにでも入れるかって話をしただけで、お姫さんが作りすぎたって言うルッツに気を使ってとかじゃなくて、本当に美味しく頂いてくれてんなら、作った方としては当たり前だがその方が嬉しいって事だ。
な?ルッツ」
「うむ!」
ギルの言葉にうんうんとルートが頷くと、ギルは生クリームをスプーンにたっぷり乗せて、
「無理なら残しても良いからな?」
と言いつつアーサーの皿に。
「無理じゃない。美味しい。
それだけでも食べられるくらい生クリーム好きだから」
と、皿にたっぷり追加された生クリームをフォークですくって口に入れると、濃厚なミルクの甘みに思わず笑みが零れ落ちた。
それを見て、ギルとルートの兄弟が嬉しそうに笑みを向けてくれる。
ルートなどはさらに
「男3人所帯でそこまで甘い物を食わないし消費しきれないからあまり作る機会が持てないのだが、クーヘン作りとかも実は好きなんだ。
だから…食べてくれるなら今度作ろう」
とまで言ってくれた。
もちろん、その後、お茶の時間になるとルートが焼いた美味しいクーヘンが山と積まれる事になったのは言うまでもない。
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