ギルベルト視点
お姫さんを手にする方法3
「遅くに訊ねて悪かったね」
と、こんな時間に呼びだしたのに先に謝られてしまった。
叔父はいつも口調も柔らかく腰も低い。
だが、そんな優しげな物腰に騙されてはいけない。
なんのかんのでうるさい親戚一同を黙らせて自身の結婚を避け、若い男に子育てなんて無理だと猛反対されながらも、亡くなった姉の子であるギルとルートを引き取ってこの年まで立派に育ててくれた、意思の強い頑固な男である。
正直…叔父を敵には回したくない。
ことりと叔父の前にマグカップを一つ。
そしてローテーブルをはさんで正面に自分用のカップを持ったまま座るギルベルト。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか、お姫様獲得交渉の始まりだ。
「ギルベルト、お前は未成年で私はその保護者で責任者だと言う事はわかってるね?」
と始まるその言葉に、ギルベルトは緊張の色を強くする。
「…わかってる。
だから離れは俺のテリトリーだけど、館全体の責任者でもある親父に事情説明の連絡を入れてお姫さんの宿泊許可を求めた」
静かな声。
穏やかな口調。
だが気を抜くと主導権を持って行かれそうだ。
いや、別に主導権を持って行かれるのは最悪構わないのだ。
お姫さんを無事に保護できる状況に持って行かれればなんでも良い。
だからあえて相手の主張を肯定する。
そんなギルベルトに叔父は
「おや。あたりは柔らかくても内心プライドの高いお前の事だから、『お姫さんに関しての事は俺が…』と言いだすのかと思ったよ」
と、興味深そうな笑みを浮かべた。
…これは…とりあえず大反対されている反応ではないと思って良いのだろうか。
いや、でも絶対に失敗出来ない交渉なのだから油断は出来ない。
「…もちろん全部俺様がやりたいと言う気持ちがなくはない。
でもどんなに正しい事を言っても高校生じゃはなから相手にされない場所もあるからな。
同じ事を社会人が言えば通ることでもさ。
だから…迷惑は承知だけど、俺様は親父を巻き込みたい。
お姫さんは本当にぎりぎりだ。
これ以上なにかあれば死んじまうかもしれない。
…それは絶対に避けたい。
そのためなら、俺様のプライドなんてちっぽけなもんだ」
──自分の何を犠牲にしても守ってやりたいんだ
全てにおいて情があるかというとそうではないが、叔父は甥である自分とルートに関しては思い入れを持っていてくれている。
だから本当に自分が生きていくのに絶対に不可欠だということを信じさせる事が出来れば動いてもらえる。
叔父の言う通り、ギルベルトはなまじ色々出来すぎる子どもだったため、実はプライドが高い。
法的な部分以外では自分自身の事で物理的に大人を必要としなかったし、何かと手助けや保護を必要とした弟と違って、ギルベルトは叔父に助力を願った事はほぼない。
ましてや自分の恋人の事だ。
本当は全部自分が取り仕切りたい。
自分の手で守ったと言いたい。
一番大事な部分を他人に任せたくはない。
そういう類のことで自分が子どもで力がないと認めた上で助力を乞わなければならないということは、確かにギルベルトの自尊心をひどく傷つけた。
でも、自身でも言った通り、お姫さんの幸せのためなら、自分自身のちっぽけなプライドなどどうでも良いし、犠牲というのも軽いくらいだ。
自分自身だけに跳ね返ってくる事なら、どんなに大変でも他に任せたりはしないが、お姫さんの安全に関しては“万が一”があってはダメなのだ。
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