ギルベルト視点
お姫さんを手にする方法1
なんとお姫さんが男だった!
朗報なんだか悲報なんだか微妙なところだ。
恋愛は異性とするのが多数派だし、法的に結婚出来ても子は出来ない。
有名人でも同性のパートナーを作る人間もいてだいぶ認知はされてきたものの、奇異の目で見られる事がないとは言えない。
それを知った時、ギルベルトも一瞬呆然とした。
だがすぐに思いなおす。
大事なのは自分が相手の何が好きなのか、ということだと。
公園で見つけて家の中に連れてくるまで、お姫さんはわかりやすく追い詰められていたし、消えてしまいそうなくらい弱っていた。
しっかり掴まえていなければ、いつのまにか消えてどこかで儚くなってしまって、二度と会えない…そんな雰囲気をまとっていたので、付き合い始めてから初めてくらい、お姫さんの意志を確認せず、強引に自宅内に連れ込んだのである。
そう、自分が相手に求めるのが性別な場合は良いとして、そうではなかった場合、“今”とるべき行動を間違うと、おそらく二度と修復不可能どころか二度と会えない、取り返しはつかない、決して鈍くはないギルベルトの勘がそう告げていた。
本当に…眼の前で泣いているお姫さんは、相変わらずこの世の誰よりもか弱くて儚くて、ふんわりと愛らしい。
とにかく追い詰めないように、守ってやらねば…と、ナチュラルに思った時点で、もう答えは決まっているように思うのだが、一応お姫さんが騙していたという事象について聞いてみることにした。
そうして分かった事。
事の発端は、フランに提案されて断れず困っていた双子の妹を助けてやるために妹のフリをした、ということらしい。
もうそれは責められない。
ギルベルトも兄で、弟がいるから、例え双子と言えども下の兄弟を助けてやりたいと言うのは、上の兄弟に染みついた習性のようなものだ。
不器用で怖がりで繊細で…というのは、元々の性格のようで、そんな自分の事ならちょっとした事でも絶対に怖がって泣くようなお姫さんが、妹のためだからと勇気を振り絞ってついた嘘を責められるわけがない。
むしろ責める奴がいたら自分が殴ってやりたいと思う。
そう思いながら、ギルベルトは健気で可哀想で可愛くて…怯えているお姫さんの頭をもうほとんど無意識に撫でてやっていた。
自分の側はたぶんお姫さんのこういう内面が好きなんだろう。
と、自分の脳内で一区切りついたのだが、問題はお姫さんの方の気持ちだ。
妹のためということで悪気はなかったのはわかった。
最初の質問でギルベルトといるのが嫌なわけではないということも聞いている。
だが、嫌ではないと言う事と、能動的に一緒にいたいというのはまた別である。
そんな事を考えながら質問を続けるうちに辿りついた、
──何故カミングアウトしなかったのか?
という質問に返って来た返答…
──言ったら嫌われるのが目に見えていたから…
のあとに小さな小さな声で付けくわえられた
──…一緒に…いたかったから……──
の言葉…。
ギルベルト的にはもうそれで十分だった。
可愛い、抱え込みたい。
本当に一生腕の中に閉じ込めて愛でて過ごしたいくらい愛おしい。
怖くて不安で、でも逃げられない…
そんな追い詰められた時にいつもするように、お姫さんはぎゅっとスカートを握り締めて目を固くつぶり、唇を噛みしめる。
ふるふると小さく震える肩。
あまりにショックを与えたら死んでしまいそうなその様子に、庇護欲が溢れ出てきた。
大丈夫、お姫さんは悪くない。
むしろ聞きにくい事を聞いてごめんな?
そんな風になだめながら、自分の思いを伝えて、さらにお姫さんの側の話を聞く。
そうして年齢的に無理なのは承知で、もっと早くお姫さんを抱え込まなかったのを後悔する。
大切な大切なお姫さんがこんなにボロボロになるまで追い詰められてあまつさえ殴られまでして、死のうとまで思いつめてしまうような環境に放置していたなんて、知らなかったとはいえ自分の不甲斐なさに腹がたった。
その後…全てを話し終えて今、お姫さんはコトンと糸が切れたようにギルベルトの腕の中で眠ってしまった。
そう、心底安心しきったように眠ってしまったのだ。
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