アーサー視点
おとぎ話の終わり7
…一緒に…いたかったから……
と、その言葉を口に出すのは、ひどく勇気が必要だった。
だって普通に考えれば女装した男が一緒に居たいと言ったって気味悪いと思われるか、滑稽だと笑われるかだろう。
「あんま噛みしめると、また血が出るぞ?
俺様、今でもお姫さんの唇に血がついていたの、地味にショックだったんだからな。
傷つけないでくれよ?」
降って来た声があまりに優しくて、アーサーは目を見開いた。
おそるおそる顔をあげてギルの紅い目に視線を向けると、それは優しい色合いを持ってアーサーを見下ろしていた。
「言いにくい事言わせてるみたいでごめんな?
なんか色々俺様も驚いたわけなんだけどな、とりあえず騙してると聞いても男だって聞いても、俺様の側はまあ、お姫さん可愛いなぁって言うのは変わんなかったのな?
女って性別の方が面倒はねえのかもだけど、俺様の周りの女どもって、もっと逞しくて強くてギラギラしててだな…
俺様の特殊な趣味を持ってる従姉妹がよく『こんな可愛い子が女の子のはずがない』とか言ってて、馬鹿なことほざいてとか思ってたんだけど、今納得したっつ~か…なるほどな、とか思ってたわけだ。
正直、そういう性格とかがお姫さんの本質だったら、俺様はこのままでも良いかなぁと思ったわけなんだけど、お姫さんが言う“騙していた”という中身が、性格だったり俺様に対する態度や気持ちだったりしたら、また話は変わってくるだろ?
俺様が好きなのは、ウェットで優しくて、手芸やヌイグルミ、可愛いもの、甘いお菓子が大好きで、俺様があれこれするのを負担に思わず受け入れてくれる、少し恥ずかしがり屋で不器用なお姫さんなわけだから」
ありえない…
本当にありえない…
やっぱりギルはアーサーの夢の中、ウサギの国からアーサーのためにやってきたウサギの国の王子様なんじゃないだろうか…。
怒りも嘲笑もなく、今もなお女の格好をしているアーサー相手に好きという言葉を使ってくれるなんて、どれだけ懐が深いんだ…
そう思いつつも信じられなくて、念を押すように
「でも…男だぞ?
男が女の格好して、刺繍して、ヌイグルミ並べて、ケーキ食べてるんだぞ?」
と言うと、ギルは
「似合うからいいんじゃね?
俺様の弟のルッツなんか、俺様よりガタイ良いくせに、ティディベアコレクターだぜ?
お姫さんが恥ずかしくて嫌だとか言うんなら仕方ねえけど、俺様はふわふわな格好してるお姫さんが好きなんだけど」
可愛くて人形みたいだぜ~!と、アーサーの額に口づけを落とした。
あまりに自分に都合が良すぎる展開に、現実な気がしてこない。
何度でも色々確認したくなってしまう。
「…でも…ギルが良くても…家族が嫌がるだろ……」
そう、そこだ。
アーサーだって同い年のアリスは楽しんで受け入れてくれても、父親はひどく嫌悪している。
ギルだって弟まではもしかしたら許容してくれるかもしれないが、叔父は嫌がるだろう。
そう思って言うと、ギルはそれも笑い飛ばした。
「あ~、これ秘密だけどなっ?
うちの叔父貴は実は女嫌いなんだ。
中学に入ってすぐにカミングアウトされた時には驚いたけどな。
俺様は別に女嫌いとか男が好きとかではねえけど…とりあえずお姫さんが好きだ。
男でも女でも関係ねえ。
何人かの女に告白されたことはあるけど、全部断ってた。
好きになったのも付き合いたいって思ったのもお姫さんだけだ」
ギルの告白に、アーサーは思った。
これはもしかしてあの公園で実は凍死しかけている自分が最後に見ている夢かもしれない…。
だってありえない。
アーサーがアーサーらしくいる事なんて、いつだって否定され、拒絶されるだけで、許容されることなんてあるわけがない。
ありえなさすぎて、不安で怖くてぽろぽろ泣くアーサーに、ギルは念押しするように
「今のままのお姫さんが好きだ。
お姫さんがお姫さんらしく居られるよう、全力で守ってやるから俺様の側にいてくれ。
お姫さんが飽くまで死にたいなんて事考えてて、お姫さんを神様に取られるくらいなら、俺様はお姫さんをここに拉致監禁する覚悟だぜ?」
と、抱きしめてくれた。
そのぬくもりに今度こそアーサーが安心しきって力を抜くと、
「とりあえず…話せるようなら、何故さっき公園にいたのか話してもらえるか?」
と、初めてそこで今日の事情を聞かれたので、アーサーはぽつりぽつりと、父親との確執や今日の出来事を話し始めた。
そうして全てを吐きだしてしまうとひどく体も心も軽くなった気がして、ギルにしっかりとしがみついたまま、いつのまにか寝落ちてしまったのである。
Before <<< >>> Next (9月25日0時公開)
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