ツインズ!19章_4

アーサー視点

おとぎ話の終わり4


──冷たい空気吸わないようにな~
と、つけられるマスク。

アーサーが喘息持ちで冷たい風を吸い込むとよろしくないと言う事を知ってから、ギルはアーサーと会う時はいつもそうやってマスクを常備していてくれる。

そして、上着も着ずに家を出たためブラウス一枚で震えていた身体に当たり前に羽織らされるギルのコート。

それは直前まで着ていたギルの体温でとても温かくて思わずため息が出てしまうが、それをアーサーに渡してしまうと今度はギルが寒いのではないだろうか…


そう思って見あげると、ギルは

「俺様は下にセーター着てるし平気。
それともお姫さん、まだ寒いか?
セーターも貸してやろうか?」
などと気遣わしげに顔を覗き込んでこられる。


ここで頷こうものなら、ギルは本当に自分がシャツ一枚になっても貸してくれてしまうのは目に見えているので、アーサーが慌てて首を横に振って

「…あったかい…」
と、羽織ったコートごと自分を抱きしめるように言うと、

「そいつは良かった。行こう」
と、ギルは寒いだろうに嬉しそうに笑って、アーサーの背に手を回して大通りの方に歩きだした

そして大通りにつくと、タクシーを待つ。


その時にギルが言った

──かぼちゃの馬車は休業中だから、今日は悪いけど車な?

という言葉は普通にあり得ないと思うのだが、ここまでの展開があまりにあり得なさ過ぎて、休業中じゃなければ本当にかぼちゃの馬車で迎えにくるのかもしれない…などとアーサーは思ってしまう。

ギルはきっと本当にウサギの国の王子様なんだ…と、半分本気で思ってしまっている脳内を覗かれたなら、男だ女だ、騙している騙していないをおいておいても、頭のおかしなやつと思って見捨てられるんじゃないだろうか…

そんな事を考えながらも、そんな考えが捨てられない。

だってほら…わかるはずのない居場所を知られて迎えに来られて…休業中のかぼちゃの馬車の代わりにタクシーで連れてこられた“ウサギの王子様の家”は、本当に大きくて、お城みたいだったのだから。



──本当に…お城みたいだ…

と思わず呟いてしまったアーサーの言葉にギルが小さく笑ったのは、

『何を当たり前のことを…』という意味なのか、
『何をバカバカしい事を…』という意味なのか、

どちらの意味なのだろうとなんとなく思った。



「母方の叔父貴と弟と3人暮らしなんだけど、メインの建物の右側に俺様専用の離れがあるから、気ぃ使わないでいいからな」
と言いつつチェーンの中からクラシカルな鍵を手にして門を開けるギル。

そこでハッとした。

3人暮らしという事は…そこにはギルの家族がいて、この先もしアーサーの嘘がバレたとしたら、女装の男なんかと付き合っていたとか家族に知れて、ギルの立場が悪くなるのではないだろうか…。

「さ、入ってくれ。
………お姫さん?」

門を開けて手を差し伸べてくれるギル。
しかしその手を取れないアーサーに、不思議な顔をする。

「…無理……」
「へ??」

泣きながら首を横に振るアーサーにぽかんとギルは素っ頓狂な返事を返すが、アーサーがさらに

「…帰る…」
と、言うと、ギルは、あ~…と、何か思いついたように頭をかいた。

「確かに男所帯だけど変な事は絶対にしねえし、きまずかったら近所に住んでる女の従姉妹呼ぶけど?
もしくは…本当に帰りたいだけなら、今日は自宅まで送らせてくれ。
さすがに1人で帰すには遅すぎる時間だしな?」

優しいギル。
飽くまで優しい。

でも…家族がいて近居の従姉妹がいるということは、どんなに彼が優しくても、彼は本当はアーサーの都合の良い世界から来た“ウサギの国の王子様”ではないのだ…。

そんな当たり前のことを改めて思うと、見ないふりをしていた都合の悪い現実がドッと涙と共に押し寄せて来た。



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