アーサー視点
おとぎ話の終わり3
何故?!
本当に…本当にありえるはずがない!
──お姫さん、お待たせ。ウサギの国から王子様がお迎えに来たぜ?
と言って目の前まで駆け寄って来たのは、さきほど電話をしたギルベルトだ。
電話をした時はギルは自宅の自室にいたはずだ。
あれから30分もたっていない。
少し息を切らしているから走って来たのはわかるが、しらみつぶしに探したにしては早すぎる。
まっすぐここに向かったくらいの時間しかたっていない気がする。
驚きのあまり適切な言葉なんて当然出てくるはずもなく、かろうじて
「…どう…して…」
と、口から疑問が転がり出ると、ジッとアーサーを確認するように見ていたギルは、おそらく切った拍子に血が付いていたのであろう口元に視線を止めると痛ましげに眉を寄せ、アーサーの前に膝をついてそっとハンカチでその血をぬぐってくれる。
そして優しく笑いかけながら答える。
「ん~、俺はウサギの国の王子様だからな。
他人には見えねえもんが見えるんだよ。
今回はほら、俺様の小指とお姫さんの小指を繋いでる赤い糸をたどって?」
そう言って揺らすギルの小指には当然糸なんて見えないし、念のため…と見てみた自分の小指にもやっぱり赤い糸が結ばれているのなんて見えない。
でも…それが全くのデタラメだとは思えなかった。
だって、誰にも言ってない、アーサーがいるなんて誰にもわかるはずのないこの公園にギルはまっすぐ迎えに来てくれたのだ。
彼は本当にウサギの国の王子様なのかもしれない…
アーサーを助けに来てくれたおとぎの国の住人なのかもしれない…
アーサーを助けるためにこの世界に来たのだから、アーサーを嫌ったり見捨てたりしないのかもしれない……
普通に高校生にもなった人間が考えるにはあまりに馬鹿げたそんなことも思ってしまうくらいにはアーサーは疲れていたし弱っていたし、なによりそう信じてしまいたかった。
どちらにしてもここにこのまま1人で居たところで、明日あたりは死体になっているかもしれないのだし、万が一世間体を気にして探しに来た親に連れ戻されれば、またひどい事を言われるかもしれない。
それならまだギルについていったほうがいい。
嫌われたら…見捨てられたら、その時に今度こそ死ねば良いだけじゃないか。
「ということでな、お姫さんはなんにも心配しなくていいんだぜ?
今日はウサギさんの城にお姫さんをご招待だ!」
と言うギルに促されて支えられるように立ち上がって、アーサーはなんの抵抗もなくそのままギルに連れられて行った。
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