アーサー視点
おとぎ話の終わり2
ああ…せっかくギルからの電話なのに切れてしまう…
寒くて暗くて痛み以外何もなくて…そんな中で今電話が切れてしまったら自分は死んでしまうんじゃないだろうか…
そんな思いで泣きながら電話を拾って慌ててタップする。
『良かった。珍しくなかなかつながらないから何かあったのかと思っちまったぜ』
と、電話の向こうからは安心したような声。
取るのが遅れた事は怒ってはいないようだ。
むしろ心配してくれている。
まだ嫌われていない……
その事実にほっとする。
しかしすぐ、でも…と思った。
ギルベルトだってアーサーが女装している少年だと知ったらわからない。
父親のように、気持ち悪いと嫌悪の目を向けてくるかもしれない。
あの優しかった顔が嫌悪に歪み、優しかった声で罵倒されたら、きっと立ち直れない。
…怖い……
幽霊よりも、父親よりも、自分を嫌ったギルベルトと対峙するのが何より怖い。
だから…
──…こんな時間に危ねえし、迎えに行くから。今どこだ?
と、言ってくれた事はすごく…すごく、すごく、涙が出るほどに嬉しかったのだが、
──…いら…ない……来な…で…いい…
とだけ言って通話を切って、声の聞こえなくなったスマホを抱きしめてアーサーは泣いた。
嫌われるくらいなら、好意を持っていてくれた思い出を胸に離れた方が良い…。
このまま死にたい…。
普通に薬は飲んでいたが、気圧が不安定な時やひどい風邪をひいたりした時はたまに出る喘息発作。
いつもは体調を崩すと父が不機嫌になるので極力崩さないように細心の注意を払っていたが、今はただただ崩したい。
そうしてここで悪化して死んでしまえば良い…そう、どうせ誰にも望まれず、皆に嫌われるだけの人生だ。
寒さが辛くないと言えば嘘になるが、そう思えばその寒ささえ好ましい。
死んでしまえば父にこれ以上疎まれる事もなければ、ギルに嫌われるのを見る事もない。
辛いだけの人生を手放してしまえる…。
かといって…能動的に死ぬような度胸さえないアーサーには、持病は優しい救いだった。
寒い…寂しい…悲しい…
死んでしまえるというのは幸せなはずなのに、寒い公園で一人ぼっちで人生を終える事について、そんな風に思ってしまう自分は贅沢なのだ。
…と、何も持たず行く場所もなく、寒い寒い公園のベンチで優しかった相手のぬくもりを思い出して、何度か鳴ったが放置しているうちに鳴らなくなったスマホを抱きしめてアーサーは泣いた。
風の音と自分の嗚咽。
それだけしか音のない公園。
静かで悲しい空間……
そこで誰にも看取られることなく、最期の時を誰に知られる事もなく、自分はたった1人で死んでいくのだ…。
そう思っていつもいつも自分を否定してきた現実を、自分の方が否定するように瞼を閉じた瞬間である。
そこに一陣の暖かい風が吹いた気がした。
──お姫さん、お待たせ。ウサギの国から王子様がお迎えに来たぜ?
…?
……??
………???!!!
降ってくる声…ありえないはずのその声に、アーサーは思わず顔をあげて絶句した。
0 件のコメント :
コメントを投稿