アーサー視点
おとぎ話の終わり1
子どもの頃は暗闇が怖かった。
寝かせるためにと親が電気を消してしまった部屋にいるのが怖くて、よくこっそり隣のアリスの部屋に行って一緒に寝てもらった。
アリスは頼りない兄を守ろうとしてくれて、
『あたしが退屈だったからアーサーを呼んでお話を聞かせてもらってたのよ』
と、それでも怖がる自分を守る兄という図はあまりに現実性がないと思ったのだろう、そう言ってかばってくれたが、父はもちろんそれを全面的に信じてはいない。
疑いの目を一瞬アーサーに向けて、しかしアリスの手前嘘だろうとも詰め寄れず、結局諦めて、いつもにもましてアーサーを視界に入れないようにアリスや母と会話をする。
ぎすぎすした空気。
色々分別の付く年になった今にして思えば、幽霊よりも父の方が怖かったんじゃないだろうか。
そう、いつだって幽霊よりも人間は怖い。
今こうして暗い公園に1人でいて害される可能性があるとしたら、どう考えたって害して来る相手は幽霊よりも人間だ。
アーサーが生まれて今まで15年間、あれほど怖がっていた幽霊はアーサーを害するどころか姿を見た事すらない。
今アーサーがこうして暗くて寒い公園で震えている原因は紛れもなく人間である父親で、頬の痛みだって幽霊ではなく父親にもたらされたものだ。
体の痛みも心の痛みも、全ては幽霊ではなく他の人間からもたらされるものなのだ。
このままここにいて次に来るモノは何だろう…。
夜の公園に可愛い服を着た高校生が1人…とくれば、よくあるのは暴行されるとか?
でもそんな目的で近づいてきた男がいたとして、アーサーは脱げば男だとわかるわけなので、気持ち悪がって逃げるだろう。
せいぜい金目の物を奪っていくくらいか…。
でも学校はアルバイト禁止だし、学生でカードなんて持っていないし、今あるのはせいぜい現金5000円くらいが入った財布と携帯くらいなものだ…。
そう思った瞬間…
…携帯は…困るな……
と、アーサーはそっと携帯が入っているバッグに触れた。
別に機器としての携帯にそれほど執着はしてはいないが、そこにはウサギ王子の電話番号が入っている。
アリスとの時間を除けばアーサーの唯一の楽しみ、幸せ、その全てを占めているそれ…。
ああ、本当に今更だが、“アリス”としてではなく“アーサー”として彼に出会っていれば、今のように至れり尽くせりの恋人としてではないにしても、普通の友人としてずっと彼といられたんじゃないだろうか…。
最近は辛い時悲しい時に思い浮かぶのは彼の顔で、ほとんど精神的に依存しきっている彼と縁が切れるのは辛い。
辛すぎて死んでしまうんじゃないかと思うくらい辛い。
そんな事を考えていると鳴る携帯。
間違いようもなく彼からの電話を告げる着信音。
ふと顔をあげて公園にある時計に向ければ21時を指している。
毎日その時間に電話がかかってくるのが半ば習慣になっていたのだが、今日はこんな状態ですっかり忘れていた。
寒さでかじかんだ手でバッグを探り、ようやく携帯を手にしたが、上手く動いてくれない手の中から携帯が転がり出て、地面へと落ちた。
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