ギルベルト視点
お姫さんの救出2
ちょうどきた電車に飛び乗って、ギルベルトはお姫さんの居場所について考えた。
逆に電車の音、アナウンスなどが聞こえないと言う事は駅ではない。
人の気配も感じなかったので人ごみではなく、誰もいない静かな外で、地味に体力のないお姫さんは座れる場所に居る気がする。
とすると…一番考えられるのは…
──公園…か?──
そう思いついた瞬間に、即フランの家の近辺の公園を検索する。
住宅地だから大小含めれば少なくはないそれ。
──思い出せ…考えろ…
しらみつぶしに探す気は満々だが、見つけるのが遅ければ遅いほど、この時間帯なので年頃の女の子が1人でいるのは危険だし、それがなくとも寒さに弱いお姫さんが風邪をひいたり喘息の発作を起こしたりしたら大変だ。
……聞こえたのは風の音だけ…
とすると、車の通りが多い大きな道路に面していたりはしない。
大きな公園も近くにはあるが、17時には門が閉まる。
それを乗り越えて入るほど行動的なタイプではないので、とりあえず小さな公園の可能性が高い。
近所に大手の塾などがあればこの時間に女子高生が1人で公園で泣いていたら塾帰りの生徒に見咎められて通報が入る可能性もあるので、塾から駅までの通路になっていない場所…。
…とりあえずここから行くかっ!
ギルベルトはフランの自宅から徒歩10分くらいの距離にある小さな公園に目星をつけて、フランの自宅の最寄り駅で降りると即、マップを見ながらその公園に急いだ。
静かな住宅街。
走っていると吸い込む空気が冷たくて痛いほどだ。
こんな中で自分の大切なお姫さんが1人で泣いているかと思うと、心が痛むどころではない。
早く…少しでも早く見つけてやらなければ…
そう思って白い息を吐き出しながらギルベルトは走った。
脳内では目的の公園に居なかった時に他の公園を順番に回るコースを組立てながらも、出来れば今向かっている公園に居てくれる事を祈る。
別に自分が走るのは構わないのだ。
毎朝ジョギングをしているし、体力には自信がある。
でもお姫さんが1人で心細く悲しい思いをしている時間は少しでも少なくしたい。
そんな事を考えながら辿りついた先…そこはおそらく午前中に親が幼児を連れて公園遊びをさせにくるような小さな公園。
小さな象の滑り台と砂場、そしてブランコしかない。
そのブランコに座って1人泣いている探し人を目にして、ギルベルトはハァ~っと安堵の息を吐きだした。
「お姫さん、お待たせ。
ウサギの国から王子様がお迎えに来たぜ?」
驚かせないようになるべくゆっくり穏やかな口調で…それでもかなりびっくりさせたらしい。
ギルベルトのお姫さんは泣くのも一瞬忘れてびっくりした様子で、大きな丸い目をまんまるく見開いてギルベルトを見あげた。
「…どう…して…」
呆然と呟く小さな唇に視線を向けたギルベルトは、その端が切れて血がにじんでいるのに気づくと少し眉を寄せ、ブランコに座るお姫さんの前に膝をついて、ポケットからハンカチを出して拭いてやる。
色々事情を聞きたい。
でもまずはお姫さんの心のフォローが先だ。
「ん~、俺はウサギの国の王子様だからな。
他人には見えねえもんが見えるんだよ。
今回はほら、俺様の小指とお姫さんの小指を繋いでる赤い糸をたどって?」
と、小指を立ててやると、ギルベルトのお姫さんは本当に可愛らしい事にそれがデタラメと思えなかったらしく、半信半疑といった様子で自分とギルベルトの小指に視線を走らせる。
(ここ…エリザとかだったら『あんた頭大丈夫?』とか返ってくるとこだよな。
やっぱり俺様のお姫さん、可愛い。最高可愛いぜ~!)
などと思いながら、ギルベルトが
「ということでな、お姫さんはなんにも心配しなくていいんだぜ?
今日はウサギさんの城にお姫さんをご招待だ!」
と、ギルベルトが促して立たせると、お姫さんは黙ってそれに従った。
「これな、つけてな?お姫さんは冷たい風を吸い込まない方がいいからな」
と、マスクをさせて、上着も着ていないお姫さんに自分の上着をはおらせて大通りまで出ると、
「かぼちゃの馬車は休業中だから、今日は悪いけど車な?」
と、普段は使う事のないタクシーを拾って自宅まで行ってくれるよう伝える。
そうして辿りつく自宅前。
それまでほぼ無言だったお姫様はそこで初めて
──本当に…お城みたいだ…
と言って目をまんまるくした。
0 件のコメント :
コメントを投稿