ギルベルト視点
お姫さんの救出1
付き合い始めて日課となった21時半の確認コール。
もちろん無事変わりないとわかったから即切るとかではなく、そこから約１時間ほどはマイク＆オンフック状態でお姫さんの可愛いおしゃべりを聞きながらお仕事タイムである。
そうして10時半になったら名残惜しくても、お姫さんにきちんと十分な睡眠を取るようにと促して切って、そこからはつい先ほどまで聞いていたお姫さんの可愛らしい声を思い出しながらまた仕事。
すでにギルベルトの日常の一部になっていたその習慣。
それは思わぬ結果を導き出す事になった。
アラームが鳴るとギルベルトはコーヒーを淹れてPCの前に陣取る。
マイクをつけて連絡先からここのところ毎日かけている番号をタップする。
毎日のことなのでお姫さんの方も出る準備をしていてくれているのだろう。
だいたいコール音２回で繋がる………
（………？？）
…はずなのだが、出ない。
（…お姫さん？？！！！）
滅多にない事に、ギルベルトが即動けるようにPCの電源をスリープにして腰を浮かせかけたところでコール音がやんで電話がつながった。
「良かった。珍しくなかなかつながらないから何かあったのかと思っちまったぜ」
安堵の息を吐き出し、そう言いかけて次の瞬間、ギルベルトは無言のままのお姫さんの携帯の背後の音に違和感を覚えた。
若干強い風の音…
そしてなによりお姫さんが嗚咽を堪えている声…
一気に血の気が失せた。
それと同時に瞬時に脳が状況把握に向けて動き出した。
「…お姫さん…今、部屋の中じゃねえよな？外にいんのか？」
と出来る限り感情を抑えて聞いてみるが、返事がない。
それに益々不安が募った。
もう迎えに行く事はギルベルトの脳内では決定事項となって、ギルベルトは完全に立ち上がると上着を羽織って財布をジーンズのポケットに突っ込む。
「…こんな時間に危ねえし、迎えに行くから。
今どこだ？」
と言うが、恋人様はシャクリをあげながら
「…いら…ない……来な…で…いい…」
とだけ言って、電話を切ってしまった。
当然電話はかけ直したが、今度は出てもらえない。
そこで脳内ではもう警告音が響き渡っている。
何があったんだ？！
嫌な想像がグルグル回った。
とにかくこの時間だ。
人見知りで怖がりなお姫さんが１人で遠出するとは思えない。
幸いにして場所は把握しているフランの家から学校までの道のりを探せばみつかるかもしれない。
そう思って、ギルベルトはまずフランの家の近所まで行ってみる事にする。
そうして足早に部屋を出て玄関に向かう途中でちょうどリビングから出て来たルートと会った。
「兄さん、出かけるのか？今日中には戻るな？」
と、兄のただならぬ様子に、それでも必要最低限の質問だけに済ませてくれる聡明な弟に心の中で感謝しつつ、二つ目の質問に対しては自分でもよくわからないので、
「あ～、出来る限り早く戻りてえんだけど、時間はちょっとわからねえ。
でも客連れてくるのは確かだから、寒いし風呂に湯を張っておいてくれ。
あと、ほんっとに悪いんだけど、エリザに着替え一式用意してくれるよう頼んでくれ。
下着とかもコンビニで売ってんだろ。
あとで金は倍にして払うからって」
と、正直に言いつつ、いくつか頼んでおく。
客人と風呂と言う事についてはとにかくとして、エリザにうんぬんと言うあたりで、ルートは少し顔を赤くしたが、すぐ察したように
「ああ、客人は最近会っていた彼女なのだな」
と、頷いた。
「そそ。ただ、今はちょっと色々あるみてえだから、紹介は今度になると思うけどな。
ま、さっき言った事だけ頼むわ」
と、時間が惜しいのでルートを置いて、ギルベルトは家を飛び出した。
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