ギルベルト視点
早く大人になれるよう3
それでも叔父は自身は恋愛をしていたのかどうかはわからないが、少なくとも甥っこ達が高校生になっていい加減2人だけで留守を預かっても問題ない年になっても外泊をしたりする事もなく、自宅に誰かを連れてくる事もなかったので、まあ男所帯ではあるが静かで穏やかな家族だった。
だが、ギルベルトはそんな叔父が築いてくれた叔父と甥っこというマイノリティの家庭がそれに劣るとは微塵も思っていなかったし、プライベートでは女性を必要としないという叔父が、女性と家庭を築いている多くの男性と比べてなんら劣っているとも思ってはいない。
今住んでいる大きすぎる家はもともとは母方の祖父の資産で、叔父と母の共同名義になっていたが、母が亡くなった今では叔父とギルベルト、弟のルートの資産となっている。
メインの建物の左右にそれぞれ一家族くらいは悠々住める離れがあって、元々は左側を叔父が、右側を母が使っていたらしいが、母が家を出てからは管理の問題もあるしと、叔父は真ん中のメインの建物に移り住んだらしい。
今では左右の離れは
「ギルとルッツが大人になって家庭を持ったら、嫌でなければそこに住むと良い」
と叔父が月に1度ほど業者に掃除をさせて維持してくれていた。
ギルベルト的には叔父に恋人でも出来たらそちらに移り住もうと思っているわけなのだが、どうやら自分の方にそういう相手が出来て結婚する方が先な気がしてきている。
アリスと付き合い始めてから、ギルは再来年には大学生になるから準備をと、右手の離れを少しずつ自分用に整え始めた。
メインの生活の場は中央でだが、多くなりすぎた趣味関係の本やら様々な資料やらは大きな本棚を置いてそちらに保管して、書斎代りに使っている
ベッドや食器はもちろん、バス、トイレ、キッチンも全て揃っているので、こちらで生活をできなくはないのだが、今の時点では家族がいるのにわざわざ1人で暮らす必要性は感じないので、メインの生活は中央でしていた。
でも、そういうわけなので、いつかアリスと暮らす事を考えると、住居を探すと言う手間は省ける。
必要なのは食費と光熱費くらいか……
そのくらいなら、大学に行きながら稼げる気がする。
今は叔父の紹介でシステム系のバイトをしているが、ほぼ趣味関係の書籍その他と貯金に費やしているそれだけでも新入社員の初任給くらいにはなっているので、学生と仕事、それを両立するため、日勤の勤め人のように夕方から夜にかけての時間を相手に費やしてはやれないというデメリットに目をつむれば、物理的には可能である。
ただ、女の子が夢見るような豪華な式とか新婚旅行とかまでは手が回らないし、身体が強くないアリスが大病を患ったりすれば、今はそれぞれに作った口座に半分ずつ放り込んだままの親の遺産に手をつけることになるのも考えられる。
ギルベルト自身はそれ自体は構わないのだが、社会人と違って学生のバイトで暮らしていくと言う事は、なかなか不安定な生活になるのは間違いない。
それでも両親を早くに亡くしたことで、家庭と言うものを持ったら数十年もそれが維持されるとは限らないと、そんな思いもあって、一緒にいたいと思ってしまえば一刻も早く、少しでも長く生活を共にしたいと思ってしまう。
例えば…自分もアリスも80年生きるなら、5,6年後に大学を卒業するのを待って社会人になってから結婚しても58年一緒に居られるので1割減るくらいなのだが、──まあ1割でも大きいと思えば大きいが──ギルベルトの両親は亡くなった時に共に29歳だった。
つまり結婚生活は7年ほど。
そんな事になればその6年間はほぼ結婚生活と同じくらいの時間になってしまうのだ。
それどころか、何かでもっと早く亡くなれば、その待った時間よりも結婚生活の方が短いなどということもありうる。
特にアリスは丈夫ではないので、普通より万が一という可能性も高いだろう。
そう思えば少しでも早く…と焦るのは当然のことだ。
そんな事を考えていると、夜9時20分。
毎日かけているアラームが鳴る。
毎晩アリスの無事の確認をするために9時半に電話をかけるためのアラームだ。
バカバカしい…そう思いながらも止められないのは、もし彼女に何かあったとしても、家族でもなく、周りにそれに準ずる関係だと認知されていない今の状態では、絶対に自分のところに連絡がこないだろうからだ。
悲しいかな、付き合っていると言っても法的には本当にアカの他人。
いきなり彼女が亡くなってしまえば、2人の思い出も関係も全て、ギルベルト自身の脳内にしか残らない、そんな心もとない絆なのだ。
大切な相手を亡くす…それは両親のことでコリゴリなのに、どうしてまた普通よりもそんな可能性の高い相手を選んでしまうのか…
本当に恋は理性でするものではなく、本能で落ちるもの
まったく不可解で道理に合っていなくて合理性の欠片もないどうしようもないものだ。
なのに止められない。
止めたくない。
抱え込んでいると幸せなのだから、しょうもない。
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