ツインズ!17章_1

ギルベルト視点

早く大人になれるよう


「服良し、財布良し、靴も良し。
スケジュールもたててあるし、行く予定の場所や店の連絡先もOK
さすが俺様、完璧だなっ!」

明日は愛しい恋人様とデートなので、万が一にでも不備がないよう、ギルベルトは前日の夜にはしっかりと準備をして指さし確認を行っている。

冬のまっさかり。
このところ出会った頃よりもさらに寒さが厳しくなっているので、喘息持ちのアリスに極力冷たい空気を吸わせないようにしなければ…

移動もなるべく暖かい状況で。
どうしても寒い所に出る時は、直接冷たい空気を吸わないで良いようにマスクも持って行く。


アリスと付き合うにあたって、ギルベルトは色々考えるようになった。

親…特に父親はアリスが丈夫でない事を快く思わず、どうやら彼女は兄以外の家族との折り合いがよろしくないらしい。

おそらくそのため、彼女は体調が悪くても滅多にそれを主張せず、むしろ隠そうとする。

だから出来れば彼女が安心して暮らせるように、早く生活基盤を築いて結婚したい。


実はギルベルト自身も家庭環境はなかなか複雑だ。

両親は早くに事故死。
当時6歳のギルベルトと一つ年下の弟のルートを引き取ってくれたのは、母親の弟のフリッツだった。

姉弟仲は非常によろしくて、姉の夫であるギルベルト達の父とも管弦楽部の先輩後輩だったのでやはり仲が良かったらしい。

だから両親が存命の頃からよく家に遊びに来ていたし、甥っこ達も可愛がってくれていた。

両親もよく何かあると子ども達をフリッツに預けたりしていてまるでもう一人の父親のようだったので、昔から実の父とは別に“フリッツの親父”と呼んでいたくらいである。

そんな彼が姉夫婦が亡くなったあと、可愛がっていた甥っこ達をひきとってくれたのは、まあ自然な流れだった。


だが叔父も当時はまだ24歳。

自宅を始めとして親の資産があったとはいえ、いきなり2人の子どもを1人で育てるには若くて大変な年齢である。

世間では多くが、学生時代とは違って自分で稼ぐようになって金銭が自由に出来るようになった社会人としての第二の青春を謳歌している年齢なのに、フリッツにはそんな時間はなかった。

仕事が終わればまっすぐスーパーによって食材を買って帰り、甥っこ達にきちんとバランスの良い食事を作って食べさせる。

それだけで最低限の義務は果たしていると思うのだが、彼はその上に、時には話を聞いてやり、時には勉強をみてやり、時には甥っこ達の父親との繋がりであったフルートを吹き、また教えてやる。


下手な親よりも真摯に子育てに向き合う叔父。

ギルベルトは両親が元々不在がちだったのもあって敏い子で、そんな叔父の献身に感謝はしたものの申し訳なくも思っていた。

だから日常の家事その他は自分で出来るから、少しは叔父の時間を叔父の好きに使って欲しいと申し出たりもしたのだが、その都度叔父は少し困ったように『私は可愛い甥っことすごすのが一番楽しいんだけどなぁ』と眉尻をさげた。

物腰はやんわりとしているものの、どうも自分を曲げない頑固者なところのある叔父に、ギルベルトはいい加減諦めつつも、やっぱり叔父が結婚どころか彼女の1人も作らないのは自分達のせいではないだろうか…という気持ちをどこかに残したまま、中学生に…。

中高一貫の進学校に受かったギルベルトが届いた真新しい制服に初めて袖を通した時、それを見て、うんうんと嬉しそうに頷いた叔父は、

「そろそろギルも大人と子どもの間くらいにはなったのかな。
お前は敏い子だしね、ルートが塾から帰る前に話しておいてやった方がいいのかもね」

と、ルートには内緒だよ、と、手招きをした。



そうして2人でソファでコーヒーを飲みながらの衝撃の告白。

「お前は自分達を引き取ったせいで私が彼女も結婚も出来ないと負い目に感じているみたいだけどね、実は逆なんだ」

との切りだしに、さすがのギルベルトも意味がわからず首をかしげる。

いつでもまっすぐ話している相手の目を見て会話をする甥の視線を、普段なら柔らかく受け止める叔父は、この時は珍しく少し気まずそうに視線をコーヒーに落として曖昧に笑って続けた。

「私はね、昔から苦手なんだよ」
「…苦手?」

「そう、男性は平気なんだけど、女性はすごく苦手。
だから仕事では仕方ないけど、プライベートでは極力接点を持ちたくないし、結婚なんて絶対にしたくないんだよ」

ええーーー??!!!



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