アーサー視点
ウサギ王子の恋人1
相手がその気だと言うのはフランシスの嘘だったらしい。
連れて来られたオシャレなカフェでギルにそう聞かされた。
本当に腹がたつ。
が、彼の方もとんだ迷惑だったのだろうが、ギルは、それでも飽くまで紳士だった。
本人いわくすぐ帰るつもりだったのでその後の予定をたてていなかったらしいのに、とりあえずアーサーが疲れないようにと座れる場所まで移動。
そこでアーサーをきちんと座って休ませてくれた上で即移動するのによさげなカフェを調べ、連れて行ってくれた。
そして席に着くとメニューをまずアーサーに渡してくれる。
カフェの雰囲気にぴったりの、どこか可愛らしいメニュー。
内容も豊富で、特にケーキはとても種類があって少し心惹かれるものがあったが、今は一応デートと言っても差し支えない状況だ。
そして自分は女の子と言う事になっているし、相手は年上の男性である。
もちろん自分で払う気は満々だが、万が一相手が出すと言ってくれた場合に、あまりに頑なに固辞すると角が立つだろう。
だから、そうなってしまった時に相手に負担をかけないように…と、美味しそうなケーキの数々は今度アリスと一緒に来て食べようと、アーサーがミルクティを選んでメニューをギルに返すと、ギルはそれを見る事なく元の場所へ。
メニューを見ているアーサーには、ゆっくりどうぞ?と言っていたのに、自分の方は一切待たせることなく呼び鈴を押してウェイトレスを呼び、来るまでの時間に一言。
「アリス、甘いもんて苦手か?」
と、声をかけてくるので、アーサーが深く考える事なく首を横に振って
「大好きっ!
この前も兄がパフェをごちそうしてくれるって話で待ち合わせしてたんです」
そう答えると、やってきたウェイトレスに、自分用にコーヒーを、アーサーにミルクティ。
そして、もう一つ
「ここで何かオススメのケーキがあればそれを一つ」
とケーキを一つ注文して、運ばれてきた可愛らしいフルーツたっぷりのケーキを当たり前にアーサーの前へ。
「ノープランで待たせたお詫びな?」
と勧めてくれる。
…優しい。
本当に優しい。
そこはアーサーのために注文してくれたものを遠慮しても仕方ないので、お礼を言ってありがたく頂いた。
ブルーベリーにラズベリー、ストロベリーにキウィにピーチ。
見た目が可愛らしくて見て楽しく、口に運べばカスタードクリームの甘さとフルーツの酸味のハーモニーが絶品で、思わず顔がほころんでしまう。
こんな風に無条件に甘やかされたのは初めてだ。
自宅だとアーサーがケーキなどの甘い菓子類が好きなのを父があまり良くはおもっていないので、食べる機会があってもどこか気不味いものがあるのだが、ギルはそうやってケーキをつつくアーサーに楽しげな視線を向けてくれるから、安心して堪能できる。
あまつさえ
「俺様も兄貴だけど弟が甘やかさせてくれねえから、日々こんな可愛い妹甘やかせるなんて、アリスの兄貴羨ましいぜ」
なんて事まで言ってくれるのだ。
そこで少し…ほんの少しだけひっかかる。
「…弟…だったら、甘やかせないんです?」
と、おそるおそる、その紅い目をみあげつつ聞いてみた。
そう言えば今女の子の格好をしているから…。
父だってアーサーが女の子だったら、おそらくあんな風に嫌そうな顔はしないのだろうと思う。
もしかして、ギルも…と思って口にした疑問に、ギルは全く躊躇することなく、
「いや?男でも女でも自立できるように躾けるのは親の務めだしな?
兄貴としてはそう言う意味では責任ねえし、下の兄弟は弟でも妹でも可愛がり倒してえけど、本気でうちの弟しっかりしすぎて甘やかすどころか苦言呈してこられるから。
おまけにでかいし。
俺様よりでかくてムキムキなんだぜ?
ま、そんな風にでかくなろうと弟は弟だ。
可愛くて無理矢理でもあたまぐりぐり撫でまわすから、たまにキレられる。
それでもお兄様としちゃあ可愛がり倒すし、頭も撫でるけどなっ」
と、明るく笑う。
ああ…なんて羨ましい。
こんな兄が欲しかった…。
成績が良くて顔も体格も運動神経もなにもかも良くて、しっかりしていて強い兄。
そんな完璧な兄がいれば父親にはまた兄はあんなにしっかりしていて男らしいのに…と言われるだろうが、アリスとも比べられまくってるのでそんなの今さらだ。
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