ツインズ!13章_3

アーサー視点

待ち人はウサギ王子3


倒れるかと思った…。

本当に…本当に追い詰められていたアーサーには、それは喉から手が出るほど欲しい言葉だった。

でも…いくらなんでもたまたま出会って二回目。
今日初めて名前を知った相手にそんな個人的な事を頼むなんて、あまりに図々しいんじゃないだろうか…

そんな常識が脳裏を横切る。

頼りたい…でも……

グルグルと色々が葛藤して、どうして良いかわからなくなったそんな気持ちが涙となって溢れていった。

すると彼は少し苦笑して、前回と同様、ハンカチを出すとアーサーの涙を拭いてくれる。
そしてやっぱり優しい口調で、

「あ~、なんか困ってる事があるなら、遠慮せずに言ってみ?
俺様で出来る事なら助けてやるから」
なんてアーサーが何より欲しい言葉を与えてくれるのだ。

それでも拒めるなんて心の強さはアーサーは持ち合わせてはいなかった。

「…っ…ご…ごめんなさ……でもっ…い…ですか……?」
と、みっともなく泣きながら訴える様子は、高校生にもなった人間がやるには見苦しく映っただろう。

でもギルベルトは嫌な顔一つせずに
「良くなかったら、自分から言わねえよ。
ほら、俺様に何が出来る?言ってみろよ?」
と、本当に子どもにするように頭を撫でながら、優しく促してくれた。

正直驚いた。

だって年上の男性と言う存在は父親を筆頭にアーサーにとって決して優しい人種ではなかった。

いつだって彼らはアーサーに“男らしく”他人に頼らず自分の足だけで立つようにうながしてきたし、“双子の妹のアリスはあんなにしっかりしているのに”とか、彼女のようになるべきだ、と、言われ続けて来た。

アーサーがアーサーらしくある事は、彼らには好ましいことではないらしい。
だからアーサーは“彼らが形成する世界”の住人としてふさわしい自分であろうと日々あがき続けては失敗を繰り返している。

“上手く適応できない自分”をなるべく見せないようにするため、他人…特に年上の同性と近い距離に居る事を自然に避けるようになった。
常にコンプレックスを抱えているため人づきあいも苦手で、パーソナルスペースがとてつもなく広い。

だから本来ならほぼ見知らぬと言っていい相手に助力を願うなど、とんでもない事なのだ。
なのに、そんなアーサーが思わず縋ってしまいたくなるほどに、ギルは善意と頼もしさに満ちていた。

もちろん全てを口にするわけにはいかないので、自分がアリスの身がわりと言う事は避けて、ただ、恋人を作らない事を心配する幼馴染に強引に男性を紹介されてしまったのだが断りたいのだ…とだけ言うと、ギルは目を丸くした。

そして改めてアーサーをチェックするように上から下までサっと視線を走らせて…

出て来た言葉は、

──特徴は…金髪ロングヘア、背は165cm、白いコートに白いワンピース、足元は白いフェークファーのショートブーツ…で、お姫さん、中学では風紀委員長、高校では生徒会会計を務めている学年トップで、名字はもしかしてカークランドだったりするか?──

で、今度はアーサーがポカンと呆けた。

アリスのとは言え、何故か知られている個人情報。

つまり…つまり???

え?ええっ?!王子様が…ギルバート・バイルシュミットさん…?

そう言っておそるおそる見あげると、ギルは彼自身も少し困惑したように眉尻をさげて笑いかけて来た。

「あ~、ギルバートじゃなくてギルベルト、な。ドイツ系だから」

なるほど。
相手の情報を知ったのはフランからアリスに送られてきたメールだったので、当たり前にギルバートだと思っていた。

まあ、そんな瑣末な事はどうでも良いのだ。

重要なのは

腐れ縁の幼馴染に無理やり約束をさせられたデートの相手が、先日助けてくれた憧れの相手だった!!

ということである。


さきほどまでの憂鬱すぎるくらい憂鬱で泣きたいような気持は一転して、幸せすぎて泣きそうな気分へと変わった。

本当に…本当に、今回ばかりはフランに感謝してやらないでもないと、アリスの事もありフランには色々思うところのあるアーサーが珍しくそんな事を思った。

アーサーが感動にグルグルとしている間も話は進んでいく。

「あ~…とりあえず、お互いに待ち人が来たわけだし、場所変えるか。
緊張して立ちっぱで、お姫さん疲れただろ?」
と、事態を把握したギルはそう言って、前回のように腕を差し出してくれた。

こうしてアーサーは前回と同じくギルに守られるように、休日の駅の雑踏へと足を踏み入れたのである。



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