アーサー視点
待ち人はウサギ王子2
それは本当に全身から力が抜けてしまいそうになるくらい、ホッとする声だった。
──まさか…まさか…まさか??!!
黒のジャケットの下には白のシャツ。
そして黒のジーンズ。
シンプルでいて、でも地味さはない。
前回の制服姿もカッコ良かったが、今日の私服はクールな印象の容姿の彼によく似合っている。
そう、彼は一見、顔立ちが完璧に整い過ぎていてとっつきにくそうだ。
なのに、意識的にか無意識にか、目が合うとニコリと微笑みかけてくれて、それがとても温かく感じる。
誰かと違い、いつでも誰にでもヘラヘラ笑っているわけではなく、相手の姿を認め、笑みを浮かべるまでにある一瞬の間が、確かに自分と認識して特別に笑いかけてくれている感があって、なんとなくその善意や好意を信用出来る気がした。
しかもこのタイミングだっ!
この絶体絶命のピンチなタイミングで駆けつけてくるなんて……
──王子様ならぬ勇者様かよっ!!!
いやいや、別にアーサーを助けるため駈けつけてきたわけではないだろうが、思わず叫びそうになった。
だって、なんかホッとする。
別に偶然再会しただけなわけだが、なんかこう…救ってもらえる感がひしひしとしてしまう。
物語だったら絶対にそんな流れだ。
存在自体がどことなく頼もしい。
そして実際に優しいという点に関しては思い込みではない。
「…え…ウサギ王子………」
と、口に出てしまったのは安心しすぎたことによる無意識のことだった。
が、言ってからハッとする。
男が“ウサギ”とか称されるのはあまり好ましい事ではないのではないだろうか。
そもそも、それが紅い目、つまり本人が元々持つ容姿に起因するとなれば余計にだ。
慌てて口を押さえるアーサー。
だが、その言葉はしっかりと彼に届いていて、
「へ?なんだ、それ?
ウサギ王子って…まさか俺様のこと??」
と、目を丸くする青年。
それに対して
「ご、ごめんなさいっ!!名前、聞いてなかったからっ!!」
と、言い訳にもならない言い訳をして、アーサーは思わずぎゅっと目を閉じて縮こまった。
ああ、もうダメだ…嫌われる……
せっかく優しい人だったのに…また会えてうれしかったのに…
悲しくて悲しくて、目からじわりと涙が溢れかけたが、意外な事に聞こえて来たのは嫌悪の声ではなく、楽しげな笑い声だった。
「ああ、そうだったよな。
俺はギルベルト。ギルでいい。
お姫さんは…アリスって兄貴が呼んでたよな?」
と言う柔らかな声と、
「ここ、通行の邪魔になるから、ちょっと寄ろうな?」
と、背にそっと温かな手が触れて、往来の邪魔にならない壁際に優しく誘導される。
まるで小さな子どもにでも接する大人のような、圧倒的な保護者、お兄さんオーラーに、安堵感が広がっていく。
ああ…本当にこんな兄がいたなら…
きっと今回の諸々だって兄とは言え妹にすら諸々負けている双子の兄の自分と違って、全て余裕で対応してくれるだろうに……
そんな事を考えて、少々凝視しすぎたらしい。
視線に気づいた彼、ギルは、お?というように瞬き一回。
それからわずかに身をかがめてアーサーに視線を合わせると、
「……?どうした?
何か俺様で出来る事があるか?お姫さん?」
と聞いてきてくれた。
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