アーサー視点
待ち人はウサギ王子1
前回のアリスとのデートでは早く駅につけば良いと思っていたが、今回は逆に着きたくなかった。
前回は電車内は満員でアーサーの容姿にさほど注目をされる余裕もなく、その満員電車から駅に降り立った時には隣には銀色の髪に紅い目の、名前もきけないままだったのでアーサーが秘かに “ウサギ王子”と命名した、目の覚めるような美形がいて、おそらくそちらの美麗さに全ての通行人の視線は行っていただろうから、
──大げさではなく確かにそんなレベルの美形だった──
誰にも注目される事なくアリスと合流できたわけだが、今回は周りの人間達の視線が痛い。
痛すぎて泣きそうだ。
別にアーサーに用があるわけでもない通りがかりの人間の目ですらこれだけ痛いのに、一対一で対峙して誰かと話すなんて、本当に怖すぎて死にそうだ。
そもそもアーサー自身、あまり人づきあいが得意な方ではない。
アリスは自分は当たり障りのない言い方が出来ないから…という理由でアーサーに振ったわけだが、今にして思えば、
“すっかり付き合う気になっている相手との交際を断る”
という時点で、当たり障りのない展開を求めるのが間違っている。
そこはもう修羅場を覚悟して、いかにきっぱりはっきり突き放すかなんじゃないだろうか…。
そう言うことなら、むしろアーサーよりアリスの得意分野だ。
…と、思ったところで全てはあとのまつりだ。
もう約束の時間の10分前なのだから……
前回はウサギ王子の腕につかまって、どこか守られながら歩いた改札までの道のりを、今日は無遠慮な人の目と恐怖に晒されながら、1人でたどる。
震える手…力の入らない足…
まるで貧血を起こした時のように、まるで水の中でも歩いているように、何か見えない力に邪魔されるように、身体が重い。
もういっそ倒れてしまおうか…そうしたら行かないですむ…
そんな事も思ってはみるが、考えてみれば倒れて介抱でもされた日には、女装がばれてしまう。
その方が恥ずかしい。
もう気合いと根性で、意地でも女装とバレないように頑張るしかない。
アーサーは蒼褪めながらも唇を噛みしめて、ぎゅっと手を握り締めて、力の入らない足で床を踏みしめて…まるで戦地に赴く特攻兵のような心境で改札に辿りついて、ピっとSuicaをかざして改札を通りすぎた。
…と、その時である。
「ちょ、今日は1人なのか?」
と、どこかで聞いたことのある声が耳に届いて、力が抜けすぎて今にも倒れそうになったのは…
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