アーサー視点
不安2
前回のアリスとの女装デートの時と違って週末なので、幸いにして電車は空いている。
なのでチカンなどの心配はなさそうだが、電車内を見渡せてしまうため、人目が痛い気がする。
男だとバレたらどうしよう…
と、そんな事を思いながら、アーサーはぎゅっと唇を噛みしめて身を固くして俯いた。
しかしながら実はそれは杞憂なのである。
実際に傍から見ると、まるでディスプレイの向こうから飛び出て来たような美少女が、非常にわかりやすく可愛らしい服を着ているので、ついつい目が行ってしまうだけなのだ。
が、当然ながら女装をしたアーサーの容姿について評価し、語ってくる相手など、女装である事を知っている妹のアリスしかいないのだから、そんな風に客観的に見て可愛らしい少女にしか見えない事など、アーサーは知る由もない。
だから注目を浴びている=どこか変に思われている(ある意味、ディスプレイの向こうではなくリアルにそのあたりにいる人間として可愛らしすぎるという意味では変なのだが、そういう意味の変ではない)と思い始めると、どんどん不安が募っていく。
通りすがりの人間の視線すらごまかせないようでは、約束の相手と1対1で対峙するなどできやしない。
どうしよう…バレたらどうしよう…
そして、ふぅ…とため息をつく。
何故こうなってしまったんだろう…。
そもそも…その気になっている相手になんと言って断れば良い?
断っても諦めてくれなかったら?
アーサー自身はあまりに双子の妹と一緒に居すぎたせいで、そう言えばあまり異性に興味を持つ事もなかったが、周りの級友の話を聞く限り、彼氏が欲しいと言う女の子よりも、彼女を欲しいという男の方が必死な気がする。
よく、女の子が言う「誰か彼氏が欲しい」という言葉は、自動販売機の前でどれにしようか選んでいるような状況で、男が言う「彼女が欲しい」と言うのは、砂漠で水を求めているような状況だと聞く。
まあ、フランをしておススメと言うだけあって、顔良し成績良し運動神経良しの男らしいので、女に飢えていると言う事はないだろうが、逆にモテルだけに振られるという事に抵抗があって、諦めてくれない可能性もあるかもしれない。
自分が本当の女の子なら、知人にでも頼んで彼氏のふりをしてもらうのも手かもしれないが、男である以上それも不可だ。
相手に速やかに諦めてもらえなければ、バレる可能性が増え、バレる可能性が増えれば、かなり人生が終わる気がするが、どう説得すればいいのか見当もつかない。
そんな事をグルグルと考えているうちに、約束の駅についてしまう。
これと言った対処も思いつかず、重い気持ちを引きずったまま、アーサーは仕方なく駅へと降り立った。
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