アーサー視点
満員電車は危険がいっぱい2
…え??
驚いて顔をあげると、後方で誰か…──おそらくちかんだろう──、が離れていく気配と、左方向から誰かが近づいてくる気配。
そして…横方向から来たのは…
…うあ…ぁ……すっごい美形だ……
と、思わず見とれてしまうほどの美青年。
背はアーサーより頭半分ほど高く、気遣わしげに見下ろしてくるきりりと切れ長の目は、まるでうさぎみたいに美しい赤い目だ。
その姿は涼やかで…一瞬、満員電車に揉まれている不快感も忘れて見とれてしまった。
しかしその青年に
(…あいつ…もしかして、ちかんか?)
と小声で聞かれたことで、我に返る。
見られてた…こんなにカッコいい人に、女装姿でちかんにあったなんてみっともないところをみられてた…
そう思うと、一応その質問にうなずきながらも、恥ずかしくてまた涙が溢れてくる。
しかし青年は少し困った顔をしたものの、父親のように嫌悪感を見せるわけでもなく、
「これ…使えよ」
と、ポケットからハンカチを出して涙を拭いてくれた。
いや、それだけじゃない。
アーサーの体を腕の中に引き寄せてかばいながら、
「ちょっとすみません。通して下さい。
気分悪くなった人間いるので」
と、周りに声をかけつつドアのところへ移動。
「ごめんな。本当は座席譲ってもらえたら良いんだけど、この状況では難しそうだからな。
でもこうやってたら変な奴はこねえから。
もう少し辛抱できるか?」
そう言うと、アーサーをドアを背に立たせて、両側に手をついてスペースを作ってくれた。
なんだ?一体なんなんだ?
見知らぬ相手にここまでしてくれるって…どんだけ紳士なんだ!!
もしかして王子かっ?!うさぎの国の王子様かっ?!!
カッコいい。
容姿だけじゃなく、性格までカッコいい!
幸いなのかあいにくというべきなのか、列車はすぐ復旧して動き出したが、駅につくまでの時間は本当に至福だった。
彼はあくまで通りがかりの人助けの域を超えることなく、アーサーの名も聞かず、自分の名も言わず、ただ時折、アーサーが沈黙に気まずくならない程度に
「ほんと、事故もこんなラッシュ時に起きなくてもいいのにな」
とか、
「この時間は反対方向の電車は空いてて羨ましくなるよな」
とか、あたりさわりのない話題をふってくれる。
そのたび相槌を打ちつつ見上げる顔は、どのくらい見ていても飽きないくらいに端正で、しかも精悍さに溢れていた。
自分が本当に女の子だったなら…こんな恋人がいれば幸せだな…と思う。
漠然と自分が女の子ならと思った事は何度もあるが、それがすごく残念に思えたのはこのときが初めてだった。
そうしているうちにさきほどまでの心細さなんて霧散してしまって、あっという間に駅についてしまう。
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