ツインズ!6章_3

アーサー視点

満員電車は危険がいっぱい3


開くドア。

「…ありがとうございました…私はここで……」
と、名残惜しく思いながらもアーサーがそう言ってお辞儀をして降りようとすると彼は一瞬考えて、

「1人で大丈夫か?」
と、声をかけてくれる。



ただ助けるだけじゃなく、アフターフォローもばっちりか。
本当に至れり尽くせりだなと、その気遣いに思わず笑みがこぼれ落ちた。

そして

「はい。…い…兄と駅のホームで待ち合わせているので…」

と、一瞬、妹と口からでかかったのを慌てて飲み込んで、兄と、と言い直しつつもそう伝えると、彼はそれまでは降りる様子もなかったのに、迷わず自分も電車から降りて、アーサーに並んだ。

そして
「……?」
と首をかしげるアーサーに言った言葉が、

「兄貴と合流できるまでは付き合う。
さっきの痴漢野郎とか別の変な奴とか来たら怖いだろ」
で………

王子様かあぁぁーーー!!!!

アーサーは心の中で叫び声をあげた。

いや、少しおこがましいが、この場合はむしろ自分が姫で彼が騎士様なのか?


こうして並んで歩き始める二人。
はぐれてしまうのが怖くて彼が見えるように1歩後ろを歩いていたが、人混みですぐはぐれそうになる。

時折離れすぎないように慌てて人混みをかきわけていると、彼はぴたりと歩を止め、

「あのさ…もしかして人見知りだったりするか?
兄貴いるって事は、男ダメとか言う事もないだろうし…」
と聞いてきた。

ああ、なんか横について歩くこともできない面倒な人間だと思われた?
こんなに優しい相手にそう思われたかもと思うともう泣きそうで、

「ご、ごめんなさいっ…」
と、謝ると、彼はちょっと考えてフッと笑みを向けてくれる。
綺麗で温かい笑み。

どうやらそういう意味合いで言ったわけではなかったらしい。

なんと
「ああ、別に不快とかじゃなくてな。
人多いしあんまり離れて歩いてるとはぐれたら困るだろ?
だから、ほら、どうぞ?
お姫さんの方から掴まるだけだったら、嫌になったらすぐ放して距離とれるから」

と、腕を差し出してくれた。

そこまでアーサーが負担にならないような距離感というのを考えてくれていたのかと思うと、もう驚くのを通り越して感動ものだ。


こうやって女の子に気遣うのに慣れているくらいに周りにエスコートする女の子が溢れているんだろうなと、少しチクンと痛む胸。

いやいや、おかしいだろ。
別にたまたま親切に助けてくれた相手に彼女がいようといまいと、自分には関係ないはずだ。
そもそも同性だし

そう心の中で慌てて否定しながら、アーサーは

「…ありがとう…ございます…」
と、そこは遠慮せず腕を貸してもらうことにした。



その後…無事アリスと合流すると、彼は

「あのな、妹ちゃん電車でちかんにあって泣きそうだったから保護して、ちかん自体は逃げちまったから、ここまで来るまでにまた粘着されたりしたら危ないし、送って来たんだ。
俺様、これから学校だから、もう行くな?
じゃ、2人とも気をつけてな~」

と、アリスに簡単に説明をしてくれて、本当に名も告げずにヒラヒラと手を振って元来た道を走っていった。


そこでアーサーも気づいた。

そうだ。彼はちかんから助けてくれただけじゃなく、通学途中にわざわざ降りる予定もない駅でアーサーのために降りてくれたのだ

「最初はアーティが赤い目をして知らない男に連れられてきたから何事かと思ったけどいい人だったね。学校間に合うといいね」
と、他人にシビアなアリスも言うくらい良い人だった。

ああ、本当に。
名前の一つでも聞いてお礼すべきだったか

でもお礼なんて良いからと言われそうな気もする。
かっこよかった、優しかった。

通学の電車は一緒だからまた会えたりしないかな
でもその時は自分は自分の制服きてるから無理か……

そんな風に少しがっかりしながらも、アーサーはアリスに連れられるまま、開店前のカフェに並ぶのだった。



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