ツインズ!6章_1

アーサー視点

満員電車は危険がいっぱい1


アーサー達の学校は今日は開校記念日で休みだが他の学校や会社員には当然ながら全く関係ないので駅は通学や通勤の人でごった返していた。

そんな人混みに揉まれながら、普段学校へ行くときはアリスと二人でくぐる改札を今日は一人でくぐる。


ラッシュの人混みでアーサーにことさら注目する人もいない。
それが女装していることを周りに気づかれるのが怖いアーサーをホッとさせた。


それでも早くアリスと合流したくて駆け足で階段をあがり、ホームに来た電車に飛び乗ると、ぎゅうぎゅうと人の波に押されて、奥へと詰め込まれる。

相変わらずの満員電車。
慣れたそれにどこか心細さを感じるのは、普段は隣にいる片割れがいないこと以上に、今の格好に起因している気がする。

可愛い服を着るのが楽しかったのは確かだが、外に出るのはやっぱり怖い。
男だとバレたなら本当にただの変態扱いだ。

女の子なら男の格好をしていても許されるのに逆は引かれるのは不条理だ。
そう思うものの、それを主張する勇気はとてもではないがない。

まあ、それでもここまで人が多いとアーサーのことを気にする相手もいないだろう。

…と、思ったのは甘かった。


最初は気のせいかと思った…
揺れた瞬間、後ろから誰かが密着してきた気がしたが、何しろ満員電車でのことだ。
わざととは限らない。

ところが…次の揺れで後ろから抱きつくように回される手。
尻に何かがあたる感触…
押し付けられているものは同性だからこそわかる。

はぁはぁと荒い息。

…え?…まさか…ちかん??!!!

普段あきらかに男の格好をしていてもしばしば遭うのだが、こんな女装をしているときにまで…と、アーサーは青くなる。

パッドを入れた胸元をケープの上から掴まれた程度だが、これ…いくらパッドを入れていてもブラウスごしに触られたりとか、下半身に手がいったりしたら、さすがにバレるんじゃないだろうか……。

…そう…女装していることがバレたら……

ちかん自体よりもそれが恐ろしくてアーサーは青くなった。

そもそも普段はちかんがいてもアリスが注意してくれていたので、どうして良いのかもわからない。

どうしよう…どうしよう…どうしよう……

下手に注意して逆上させて掴みかかられた拍子に女装がバレてなんて事になったら目も当てられない。

とりあえず次が降りる駅なので、そこまでなんとかやり過ごせば良い…。

そう思ってうつむいて唇を噛み締めてときがすぎるのを待っていたが、そんな時に限ってとんでもない事が起こるものである。

ガタン!と大きく揺れる列車内。
止まる電車。

そして無情に響き渡るアナウンス。

『ただいま線路内で不審物を発見。確認のため列車をしばらく停止いたします。
皆様お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけします』


目眩がした。
もうダメだ……

いつ復旧するかわからないような状況で、このまま触られてたら絶対に男だとバレる。

しかもそれを言いふらされても、この状況では逃げることもできないのだ…。

そう思うと恥ずかしさと情けなさで涙が出てきた。
死にたい…と思う。

そもそもが母親はアーサーが可愛らしい趣味を持ったり可愛らしい物が好きだったりするのに理解があったが、父親にはいつも気持ち悪そうな目で見られていた。

なさけない、覇気がないと言われるのは日常で、最後は

──妹のアリスはこんなにハキハキしてて何でもできる子なのに!

で締められるのが日常だ。

体調を崩すたび面倒な子供だと言われ、父親にそういう目で見られること嫌さに体調不良を隠して悪化して入院すると、怒られた。

今回だってこんな格好をしていてちかんに遭ったなんて知られた日には、また父親に気持ち悪いと罵られるのが目に見えている。

もう好かれたいなどというのはとっくに諦めたが、気持ち悪いものを見る目で見られるのは避けたい。

だけど…だけど、もう無理だ…。

色々でいっぱいいっぱいになって、ただ迫る未来に震えていると、そこで急にアーサーの胸を触っている手や尻に押し付けられていたブツが離れていった。


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