アーサー視点
逆さまツインズ
そもそもがアーサーとアリスの双子は容姿か性別、どちらかが逆だったなら平和だったのだと思う。
アリスはどこか儚さを感じさせるような色素の薄いアーサーの目であるとか、彼女よりは若干薄い色合いの髪だとか…それに丸く大きな目をとても可愛らしいと羨ましがっていたが、アーサーに言わせれば、しっかりした色合いの黄金色の髪や意志の強さをうかがわせるようなキリッとした切れ長のエメラルド色の瞳は、羨ましい限りである。
さらにこれはアーサー達に限らずだが、世間一般のイメージからすると反対かもしれないが、概して女児より男児の方が健康面でも弱い。
アーサーは特にこれが顕著で、同じ事をしてもアリスはピンピンしているのにアーサーはすぐ熱を出すし、双子のくせに自分だけ喘息持ちで寒さに弱かったりもするし、最初は2人ともをアウトドアに連れだしていた父親も、次第にアーサーの事を諦めてアリスだけ連れ歩くようになった。
キリッとシャープな顔立ちに抜群の運動神経と体力、勉強だって文系はアーサーの方が若干得意ではあるが、理系は圧倒的にアリスの方が出来る。
アリスがいつも自分がアーサーみたいだったら…と嘆くのと同様、アーサーだって秘かに自分がアリスのようだったら…とは思っていた。
アーサーが欲しかった全てを彼女は持っている。
彼女の悩みが重要でないとは言わないが、アーサーの不足の方がどうしようもなく、切実ではないだろうか…
だって容姿の美醜と言う主観的なものと違い、健康面ははっきりと不可能な事を告げてくる。
アリスは可愛くしたければリボンをつける事も出来れば、大人になれば化粧で多少顔立ちを柔らかくする事はできるだろうが、アーサーはアリスと同じ事をすれば熱が出て寝込む事になるし、寒い日や気圧が不安定な日は無理をすれば喘息が出る。
それは努力でどうなるものでもない。
だから諦めて今出来る範囲で生きていく術を模索した。
父親についていけないなら、母親から学ぶしかない。
刺繍、レース編み、パッチワークなどなど、アリスがやりたがらない自身の趣味を、母親は喜んで教えてくれた。
紅茶だって幼少時から母親に仕込まれたおかげで誰よりも美味しく淹れられるようになったし、ジャムやソース作りも得意だ。
料理全般、炒め物や揚げ物など、ある程度スピーディーに作らないとならない物は苦手だが、ゆっくりことこと煮込む系は母親と同じ美味しい味を出せるようになってきた。
ちなみにアリスはアーサーに出来ない事をたくさん出来る代わりに、ゆで卵を作ろうとして爆発させるレベルの料理音痴である。
それらの趣味は実はやってみれば意外に楽しかったが、家族以外に知られれば、からかわれかねない。
そう、アリスがいくら勉強やスポーツができてしっかりしていても別にほめられるだけだが、アーサーの場合はマイナスなことを言われかねないのだ。
かといって貧弱に生まれついた事を嘆いたところで、何もでてきやしない。
小さな頃には体調の事があってあまり外遊びができなかったし、女の子のような趣味については色々話したりもできなかったのもあって、同年齢の男の子達との距離感がつかめず、同性の友人もほぼいない。
もっとも…何でも出来るアリスなら同性の友人に恵まれるのかと言えばそういうわけでもなくて、双子でいつも一緒にいたので、単に自分達は互いに一緒に居すぎるのかもしれないが…。
しかし諦めるしかなかったアーサーと違ってアリスはまだ完全には捨てずに済んでいる。
諦めた、捨てたと言いつつ、ずっと敵わない初恋を引きずって、自分は可愛くないから…と言いつつ、可愛くなりたいとあがいている。
もっとも…表面上はそんな様子など毛ほども見せない鉄の女ではあるが…。
その日も可愛くなりたいとアーサーの所に来てねだって着飾って、フランシスに会いに行ったのだが、夕方になって背中まであった長い髪をばっさりと切って帰って来た。
淡々とおそらく嘘の理由を述べるアリス。
だけどアーサーにだけはわかる。
アリス的にすごくショックな事があって落ち込んで落ち込んで発作的に髪を切ってしまったのだろう。
アリスは“可愛い”を捨てたと言い始めた頃から、人前では泣かない。泣けない。
でも泣ける人間よりもよほど傷つくし落ち込むのだ。
まあ、そんなときのアリスはたいてい立ち直るためにアーサーを巻き込むのは困りものであるのだが…。
今回はなんとせっかく髪を切ったのだから、互いの制服を交換して出かけようとか言い出した。
本当に我が妹ながら頭が痛い。
一応拒否してみるが、アーサーが行きたがっていた店のパフェを奢るから…と食い下がる。
ちなみに…アリスは普段は金銭にはシビアな女だ。
お小遣いが入るとぬいぐるみに、手芸用品にと消えて行ってしまうアーサーと違って、しっかりと小遣い帳をつけ、必要な分以外は貯金をしている。
そんなアリスが奢るから…とまで言うということは、かなり参っているとみた。
仕方ない…と、そこでアーサーは諦めた。
しっかりしていても妹は妹で、やっぱり可愛いし、落ち込んでいたら元気づけてやりたいのだ。
そう、決してパフェに釣られたわけではない。
釣られたわけではないのである。
こうして…アーサーはめでたく久々に女装姿で外出するはめになった。
アリスはどこか儚さを感じさせるような色素の薄いアーサーの目であるとか、彼女よりは若干薄い色合いの髪だとか…それに丸く大きな目をとても可愛らしいと羨ましがっていたが、アーサーに言わせれば、しっかりした色合いの黄金色の髪や意志の強さをうかがわせるようなキリッとした切れ長のエメラルド色の瞳は、羨ましい限りである。
さらにこれはアーサー達に限らずだが、世間一般のイメージからすると反対かもしれないが、概して女児より男児の方が健康面でも弱い。
アーサーは特にこれが顕著で、同じ事をしてもアリスはピンピンしているのにアーサーはすぐ熱を出すし、双子のくせに自分だけ喘息持ちで寒さに弱かったりもするし、最初は2人ともをアウトドアに連れだしていた父親も、次第にアーサーの事を諦めてアリスだけ連れ歩くようになった。
キリッとシャープな顔立ちに抜群の運動神経と体力、勉強だって文系はアーサーの方が若干得意ではあるが、理系は圧倒的にアリスの方が出来る。
アリスがいつも自分がアーサーみたいだったら…と嘆くのと同様、アーサーだって秘かに自分がアリスのようだったら…とは思っていた。
アーサーが欲しかった全てを彼女は持っている。
彼女の悩みが重要でないとは言わないが、アーサーの不足の方がどうしようもなく、切実ではないだろうか…
だって容姿の美醜と言う主観的なものと違い、健康面ははっきりと不可能な事を告げてくる。
アリスは可愛くしたければリボンをつける事も出来れば、大人になれば化粧で多少顔立ちを柔らかくする事はできるだろうが、アーサーはアリスと同じ事をすれば熱が出て寝込む事になるし、寒い日や気圧が不安定な日は無理をすれば喘息が出る。
それは努力でどうなるものでもない。
だから諦めて今出来る範囲で生きていく術を模索した。
父親についていけないなら、母親から学ぶしかない。
刺繍、レース編み、パッチワークなどなど、アリスがやりたがらない自身の趣味を、母親は喜んで教えてくれた。
紅茶だって幼少時から母親に仕込まれたおかげで誰よりも美味しく淹れられるようになったし、ジャムやソース作りも得意だ。
料理全般、炒め物や揚げ物など、ある程度スピーディーに作らないとならない物は苦手だが、ゆっくりことこと煮込む系は母親と同じ美味しい味を出せるようになってきた。
ちなみにアリスはアーサーに出来ない事をたくさん出来る代わりに、ゆで卵を作ろうとして爆発させるレベルの料理音痴である。
それらの趣味は実はやってみれば意外に楽しかったが、家族以外に知られれば、からかわれかねない。
そう、アリスがいくら勉強やスポーツができてしっかりしていても別にほめられるだけだが、アーサーの場合はマイナスなことを言われかねないのだ。
かといって貧弱に生まれついた事を嘆いたところで、何もでてきやしない。
小さな頃には体調の事があってあまり外遊びができなかったし、女の子のような趣味については色々話したりもできなかったのもあって、同年齢の男の子達との距離感がつかめず、同性の友人もほぼいない。
もっとも…何でも出来るアリスなら同性の友人に恵まれるのかと言えばそういうわけでもなくて、双子でいつも一緒にいたので、単に自分達は互いに一緒に居すぎるのかもしれないが…。
しかし諦めるしかなかったアーサーと違ってアリスはまだ完全には捨てずに済んでいる。
諦めた、捨てたと言いつつ、ずっと敵わない初恋を引きずって、自分は可愛くないから…と言いつつ、可愛くなりたいとあがいている。
もっとも…表面上はそんな様子など毛ほども見せない鉄の女ではあるが…。
その日も可愛くなりたいとアーサーの所に来てねだって着飾って、フランシスに会いに行ったのだが、夕方になって背中まであった長い髪をばっさりと切って帰って来た。
淡々とおそらく嘘の理由を述べるアリス。
だけどアーサーにだけはわかる。
アリス的にすごくショックな事があって落ち込んで落ち込んで発作的に髪を切ってしまったのだろう。
アリスは“可愛い”を捨てたと言い始めた頃から、人前では泣かない。泣けない。
でも泣ける人間よりもよほど傷つくし落ち込むのだ。
まあ、そんなときのアリスはたいてい立ち直るためにアーサーを巻き込むのは困りものであるのだが…。
今回はなんとせっかく髪を切ったのだから、互いの制服を交換して出かけようとか言い出した。
本当に我が妹ながら頭が痛い。
一応拒否してみるが、アーサーが行きたがっていた店のパフェを奢るから…と食い下がる。
ちなみに…アリスは普段は金銭にはシビアな女だ。
お小遣いが入るとぬいぐるみに、手芸用品にと消えて行ってしまうアーサーと違って、しっかりと小遣い帳をつけ、必要な分以外は貯金をしている。
そんなアリスが奢るから…とまで言うということは、かなり参っているとみた。
仕方ない…と、そこでアーサーは諦めた。
しっかりしていても妹は妹で、やっぱり可愛いし、落ち込んでいたら元気づけてやりたいのだ。
そう、決してパフェに釣られたわけではない。
釣られたわけではないのである。
こうして…アーサーはめでたく久々に女装姿で外出するはめになった。
Before <<< >>> Next (8月21日0時公開)
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