アリス視点
双子の約束
背中のあたりまであった髪をバッサリと切って、顎の線で揃えたボブにして帰宅。
「どうしたの?その髪」
と、聞いてきたが
「ん~勉強の邪魔じゃない?
髪洗って乾かしたりとか手入れの時間がなければ、1時間近く多く勉強できるし。
トップキープして来年度は生徒会長目指したいのよ」
と、淡々とそう言えば、
「せっかく可愛い制服の学校入れたのに、全然女の子らしくしてくれないんだから…」
と、残念そうではあるが、ため息と共に諦めたようだ。
そう、口ではあんなことを言っているが、母はどうせアリスの容姿なんて気にしてはいないと思う。
可愛い格好をさせたければアーサーにさせれば良いと思っている節すら見受けられる。
過度の保護もない代わりに過度の干渉もない。
それがアリスと両親との距離感だ。
だから母親にはそう納得させると普通にリビングを抜けて、アリスは2階の自分の私室へと戻った。
が、そこにはフランと会うアリスを心配したのだろう。
アーサーが待っている。
男女の双子…と言っても、互いに男っぽさ女っぽさがやや欠ける傾向のある2人は、普通に互いの部屋を行き来しているし、アリスの方がアーサーが不在の時にアーサーの部屋に居たりする事もなくはないので、それに関してはたいして気にはならない。
だが、アリスの髪を見て血相を変えて
「アリスっ!!髪っ!!!
どうしたんだっ?!フランに何か言われたのかっ?!!」
などと言うアーサーには正直困った。
アリスがアーサーを愛しているように、アーサーもアリスを愛している。
これがフランに振られたためだなんて知れた日には、大騒ぎだ。
「ん~、実はね、フランと分かれたあと、街歩いてたら後ろから声かけられてね。
制服可愛くて髪長かったから大人しい感じの子だと思ったみたいなんだけど、振り向いたらやっぱ良いって言われてすご~く腹立ったのよ。
だからそう見えないように切っちゃえって。
前も休みにでかけてて、そんな失礼なことあったし…。
制服で繁華街うろつく事なんて早々ないし、髪切っちゃえば私服の時はからまれないかな~とか思ってね」
つらつらとフランとは無関係を装いながら兄の様子を秘かに伺う。
いつもポーカーフェイスが得意なアリスと違って、アーサーは目が口ほどにモノを言うタイプなので、すぐわかる。
納得していない。
それなら…と、アリスは、突発事項に弱いアーサーの性格を突く事にして、自分の勉強机の椅子に座っているアーサーに駆け寄ると、その両腕を取って身を乗り出した。
「ね、せっかく髪切ったんだし、制服交換して出かけない?!
明日は開校記念日で休みだし、街で制服デートしよっ?!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてそう言う妹に、アーサーはぎょっとした顔で拒絶する。
「じょ、冗談っ!!
いくらアリスの頼みだからって、さすがにスカート履いて街中出る勇気はないぞっ!!
アリスが俺の服着るのは良いけど、逆はただの変態じゃないかっ!!」
と、このあたりでアーサーの脳内からはフランの事が消えている。
しめしめ…と、内心ほくそ笑みながら、アリスはさらにたたみかけた。
「大丈夫よぉ~!顔立ちはアーサーの方が可愛いし、以前アーサーの髪の色が羨ましくて買ったロングのウィッグあるから、それ被って眉毛隠せば、もう完璧♪」
そんな話を始めれば、アリスもだんだんそれが楽しい気分になってくる。
だって、アーサーに自分の制服を着させたら絶対に可愛いっ。
そうだ、例のフランの級友の話もアーサーに代わりに行ってもらったらどうだろう?
自分が会うと絶対に嫌な断り方をしてしまうし、そうしたらフランの顔を潰す事になる。
その点アーサーなら可愛いし、自分よりはマシな断り方をしてくれるだろう。
そうだ!そうしようっ!!
それなら…話は持って行きやすい。
「あのね、アーティ―?
もし、明日制服デートしてくれるなら、あたし、今日のフランの話の内容教えてあげてもいいわ?」
アーサーにとっては悪魔の囁き。
ピクリ…と、アーサーの視線がアリスのそれと絡まる。
あと一息だ。
「そうね…アーサーが行きたがってた評判のカフェでパフェおごるわ。
開店前から並ぶからちょっと早めに起きて…学校行くくらいの時間に家でなきゃだけど…」
「起きるっ!!」
と、そこで甘い物に目がない兄はあっさり落ちた。
「じゃ、約束ねっ」
と、アーサーが色々と面倒な事に気づかないうちにと指切りをして、アリスは
「そういうことで。
もうすぐ晩御飯だし、着替えるから帰ってね」
と、話を打ち切った。
素直にそれに従って自室に戻る兄。
(…本当に…アーサーったら可愛い。
あたし達、男女逆だったらすごく上手く行ってたと思うのに……)
こうして兄を見送った自室。
ごまかし切った上に、今後の計画も立てられてホっとすると同時に色々がこみあげてくる。
そしてここでようやく1人きりになれた事に気づいて、アリスはやっと思い切り涙を流したのだ。
大丈夫、全ては今更、今更なんだ…と、自分で自分に言い聞かせながら…。
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