アリス視点
残酷な優しさ1
約束の30分前。
さすがにまだフランシスは来ていない。
──ううん、今来たところだよ
そんな事を言いつつ、だいぶ減ったコーヒー。
随分と長く待ってくれていたのね…
などというやりとりを妄想しなかったわけではないが、相手も学校帰りなのだ。
サボって来るわけにもいかないし、先に来て待っていられなくても仕方ない。
不可抗力だ。
少しがっかりした気持ちをそんな風に切り替えながら、アリスはフランシスがみつけやすいように…と、窓際の席に座ってコーヒーを注文し…ウェイトレスが行ってしまってから、ハッと気づく。
──もうちょっと女の子らしく可愛い物を頼めば良かったーー!!!
別に特にコーヒーが好きなわけではない。
本当は甘いチョコレートパフェだって大好きだし、ジュースだって、フレーバーティだって大好きだ。
ただ、外では頼まない。
だって似合わないから……外で頼むのはコーヒー。
それもブラックで飲むと決めている。
でも…デートの時くらい…もうちょっと可愛げを見せてもいいんじゃない?あたし…
ガックリと肩を落として、運ばれてきたコーヒーのカップの縁をチン、と、指ではじく。
本当に嫌になる。
せっかくアーサーに可愛い髪型にしてもらったのに、所詮中身は可愛げのない自分のままだ。
アーサーならきっとここでパフェか…そうでなければミルクティを頼んで、ふわりと可愛らしい笑みを浮かべながらリスのように両手で持ったカップを口に運んでいると思う。
そしてほわほわと嬉しそうな顔で言うのだ。
──美味しい──と。
美味しい物を食べたり飲んだりしている時のアーサーは本当に幸せそうで文句なしに可愛い。
アリスだって美味しい物は美味しいと感じるし、食べる事は大好きだが、あんな風には笑えない。
──悪くはないわ
なんて可愛げのない言い方が身に付きすぎてしまって、母親にすら、
「アリスは本当に食べさせがいがないわ」
と、ため息をつかれている。
本当に…本当にため息しか出ない。
双子なのにどうしてこうも違ってしまったのだろう…
そんな事を考えているうちに随分と時間がたったらしい。
「ごめんっ!遅れてごめんね?
アリス怒ってるよね」
目の前に人影。
すっかり冷めてしまったコーヒーに向けていた視線をあげると、目の前には息を切らした想い人の姿。
本当に申し訳なさそうに眉尻をさげて顔の前で手を合わせるフランシス。
(もしかして…学校が遅くなって急いできてくれた?)
と、その様子に自然と笑みがこぼれた。
「大丈夫よ。そんなには待ってないから。
座って?」
と、正面の椅子を勧めると、フランシスは、ごめんね、ともう一度謝罪して、アリスの正面に腰を下ろした。
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