アリス視点
彼女が可愛いを諦めたわけ3
一生懸命勉強をし、運動だって頑張って、言いにくい事は全てアーサーの代わりに自分が言うようにした。
そんな事をしているうちにそんな評価を得るようになったが、かまいやしない。
だって、可愛くもないのに“可愛い”を目指して否定されるくらいなら、しっかり者として信頼を得る方が良い。
勉強しすぎて悪くなった目には眼鏡をかけて、邪魔な髪はきっちりとみつあみをする。
母が好きな刺繍やヌイグルミ収集には心を惹かれたが、それはアーサーに。
自分は父親と一緒にフェンシングやジョギングにいそしんだ。
小等部では学級委員、中等部では風紀委員長、進学したばかりの高等部では、中等部の頃に風紀委員で一緒だった先輩に誘われて生徒会の会計に。
エスカレータ式の学校なので、それぞれ近い学年の生徒や先生達は知り合い。
怖いが頼れる鉄の女として、将来の生徒会長とまで言われるようになった。
そんな風に“可愛い”を捨てたはずなのに、別の学校に通う初恋の幼馴染が関わると、アリスはあの頃のまだ柔らかい心を持った少女に戻ってしまう。
メールをもらってから慌ててトイレに駆け込んで鏡に移してみる自分は、当然、年頃の同級生達のように可愛らしくない。
自分でも馬鹿だと思うし無駄だとわかっているのに、フランシスと会うと思うと少しでも可愛らしくなりたくて、駆け込んだ先は双子の兄アーサーの所だ。
「アーサーっ!放課後までに少し女子高生らしくなりたいのだけど…」
と、そんな言葉で彼には全てがわかってしまう。
アーサーはいつの頃からかフランシスに対して彼には珍しく悪態を付くようになっていたのだが、アリスが彼を好きだと言うのは知っているし、フランシスを否定してもアリスの気持ちは否定しない。
だから彼はため息をついて、ちゃんと夕飯の時間までには帰宅する事、と、まるで母親のような事を言いながら、きっちりと編みすぎたアリスの三つ編みを解いて、ふんわりと可愛らしく編み込みをしてくれた。
さらにいつも持ち歩いているソーイングセットから鋏を取り出し、もうアリスの事は諦めて、それでも自分の趣味はやめられない母親に半ば強引に持たされた小物に縫いつけられたリボンをいくつか丁寧に外すと、それをピンで編み込みの間に散りばめる。
そして最後に乾いたアリスの唇に
──本当は色つきの方がいいのかもしれないけど、さすがにそこまでは持ってないから…
と、リップクリームまで塗ってくれた。
もうアリスどころかそんじょそこらの同級生の女の子達よりも女子力が高くて感心してしまう。
“可愛い”を諦めたあの日から、双子の兄のアーサーはアリスにとっては自分が望んだ“可愛い”を自分の代わりに体現してくれる“可愛い”の塊で、コンプレックスではあるのだが、それ以上に癒しで、最愛の相手である。
「さすがあたしのアーサーっ!大好きよっ!」
と、だきしめて頬にキス。
そう、フランシスは“アリスの”フランシスではないが、アーサーは“アリスの”アーサーなのだ。
そんな自慢の可愛いアーサーに着飾ってもらって、アリスは放課後、大急ぎで学校を出る。
目指すは待ち合わせのカフェ。
向こうはそう思ってはいなかったとしても、フランシスのデートである。
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