アリス視点
彼女が可愛いを諦めたわけ2
なにしろ性別差などほぼない幼少時は、双子ということもあって母親はアリスとアーサーにお揃いの服を着せるのが大好きで、たまにアーサーはアリスと一緒にドレスを着せられていたりしたのだが、お揃いだと余計に兄の方が可愛いのが目立っていた。
物ごころついた頃からアーサーは可愛かったから、アリスも慣れっこだった。
「男女の双子ちゃんなの?え?こっちが男の子??
お兄ちゃんの方が女の子みたいね」
などと心ない言葉をかけてくる大人はたくさんいたし、アリスだっていちいち傷ついてなど居られない。
だから容姿がそうだったのもあって、せめてお利口にして親の気を惹こうといつもいつもお行儀よく、賢く、きちんとするように努めていた。
可愛いはアーサーに取られてしまうなら、せめてアリスは賢い良い子ねと言われたかった。
それで確かに良い子ねと言われるようにはなったが、そのせいか、両親はすぐ目を潤ませるアーサーには甘かったが、アリスに対してはあまり甘やかしたりしなくなった。
──アリスは大丈夫よね?お利口だもんね。
いつもいつもそんな言葉で放置される。
それは自分で望んだ結果とはいえ、ずいぶんと寂しい気分になった。
そんなアリスを唯一アーサーに対するのと変わらずに心配してくれたのが、お隣に住む綺麗で優しい年上の幼馴染で、アリスがそんな相手に淡い思いを寄せたのは極々自然な事だったのである。
そう、アリスはフランシスに恋をした。
だが当たり前だがフランシスはその優しさ細やかさからアリスに同情はしてくれたものの、そんな素敵なフランシスがアリスに同じ思いを向けてくれる事はない。
彼はいつも友人や綺麗な女の子達に囲まれていたし、アリスと一緒に居る時にそんな知人達に会うと、決まって
──隣の家の子だよ。お兄さんの妹みたいな感じ。仲良くしてあげてね。
と、紹介する。
明らかにアリスは子どもで妹で、異性、女の子としては見られていなかった。
それでも唯一彼にだけは可愛い女の子と思われたくて、アリスは母が可愛いドレスを着せてくれるたび、彼に見せに走り続けた。
そのたび彼は
──素敵なドレスだね──と、口にした。
そのたび感じる違和感。
“素敵なドレス”と服装に言及しても、“素敵なアリス”とか、“アリスに似合って可愛いよ”とか、アリスに対して言及する事はなかった。
それに気づくと、それが彼の褒め方なのか、それとも意識して“服だけを”褒めているのかが気になった。
そしてある日のこと、答えを知ってしまったのである。
それは本当に偶然だった。
いつもドレスを着せられるとアーサーはさすがに恥ずかしがって家に籠っていたが、ある時たまたま庭に出て、その姿をたまたまフランシスが目撃したらしい。
フランシスはその姿に微笑んで、そして言ったのだ。
「坊ちゃんたら、すっごく可愛いじゃない。お兄さん好みだな~」
と。
その言葉でアリスの小さな“可愛い”の世界が崩れ落ちた。
やっぱり…あたしは可愛くない。
年齢や立場じゃない。
だってフランシスはアーサーには可愛い、好みだって言った。
優しいフランシスにとってすら、あたしは男の子のアーサーほどにも可愛くない女の子なんだ……
実はそれはフランシスにしてみたら、何故か自分には懐かない、自分に対しては生意気な事ばかり言うアーサーに対するからかいの言葉だったわけだが、幼いアリスにそんな事がわかるはずもない。
ただただ悲しくて切なくて…しかし可愛くない自分が悪いのだと、そこで思ってしまったのだ。
フランシスは悪くない。
だってフランシスは優しい。
そんな優しいフランシスが可愛いアーサーを好きだと言うのなら、大好きなフランシスが喜ぶように、アーサーが可愛いアーサーで居られるために、あたしが頑張るのだ。
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