寮生はプリンセスがお好き7章_48

「お姫さんっ、一等賞だぜぇ~!!」

鳴り響くゴールのピストルの音。
銀狼寮のみんなの歓声。

…そして、ギルベルトの満面の笑み。

もう、終わってしまった…なのか、やっと終わった…なのか、そのあたりはもう自分でもどう思っているのかわからなくなってきたが、色々がいっぱいいっぱいになって、アーサーは弱いと自覚している涙腺が決壊してぽろぽろ泣きだした。

「…お姫さん、お疲れさん。いっぱい頑張ったよな」

優しい声音でそう言って、アーサーを横だきに抱えたまま、ギルベルトが頬にキスしてくれる。
それにアーサーは泣きながらうんうんと首を縦にふった。

とにかくホッとした。
これで本当に終わりだ…と、アーサーはぎゅうっとギルベルトの首にだきついた。


トップでゴールした銀狼組がそんなやりとりを交わしている間も、まだリレーは続いている。

二番手でゴールしてきたのは金虎。
次いで、金竜。

さらに銀虎が4位でゴール。

それからかなり遅れて、ヨタヨタとフェリシアーノを抱えた銀竜のルークがゴールする。

そして…その時点でまだ半周以上残っている最後の一組……


「…まるで大荷物抱えた山登りみたいな感じだな…」
と、2番手でゴールしたため、もうすっかり落ちついた金虎のカイン。

「だな。もはや走ってねえ。というか、走れねえ」
「あれ…どう見ても香よりもプリンセスの方が遥かに重いよな…」
「持ちあげて進めるだけすごいですよ…。俺には無理。うち軽いフェリで良かった~」
と、他の寮長達も口を揃えてそんな事を話しながら、香に同情の視線を送る。

「頑張れ~!!」
「あとちょっとだっ!ファイトっ!1年坊主!!」
と、会場からも寮を問わず飛ぶ声援。

そんな中、自分よりも遥かに重いプリンセスを横だきにした腕をプルプルと震わせながら、それでも足取りはしっかりと着実にゴールを目指す香。

5位の銀竜のルークから遥か遅れてゴールすると、アルを早々に降ろし、

あ・り・え・ねええーーーー!!!!
と、地面に膝をついて天に向かって叫んだ。

そして、

「うんうん、お前マジ頑張ったなっ!!」
「本当に1年のくせに根性ありすぎだろっ!」
「…うちのヘタレなロディより遥かにすごいな。金竜の寮長にスカウトしたいくらいだ。
褒めてやっても良い」
「ホント、俺だったらもうゴールする以前に持ちあがらなくてスタート出来なかったと思う!」
などなど、上級生達からかわるがわる頭をくしゃくしゃと撫でられる。

「無理っ!これあと2年間とかマジ無理っすっ!!
もう労わる気あるなら、来年からはリタイアOKか、せめて横だきじゃなく背負うのオッケ~にして欲しい的な?!」

と叫ぶ香に、寮長達も教師陣も

「あ~…横だき出来ないレベルのプリンセスが選出されるって前代未聞だからなぁ」
と苦い笑み。

「背負うんだと視覚的になぁ…。
これは寮長がプリンセスを大切にお連れするのを視覚的に楽しむって事に意義がある競技だから…
背負って良いならその方が楽だしなぁ…皆が背負い始めると、あまり見ていて楽しいモノじゃなくなる気がするんだけどな」

「…そうまで言うならYou達がうちのゴリプリ抱えて走ればいい的な?」

と睨まれて、皆が視線を反らす。

「あ~じゃあな、」
と、そこでギルベルトが見かねて口を挟んだ。

「どうしても無理な場合は、ハンデ有りで背負うのOKって事でどうよ?
例えば…背負った時点でもう横だきの面々より順位が下って事で?
そうしたら寮長だって寮の点数稼ぎてえから、極力背負うのは避けるだろ?
自分の寮の寮生達の手前、軽々しく背負う選択できねえだろうしな。
でも、寮生も認めるレベルでこれはもうそうしても仕方ねえなって思えるような状況なら、色々諦めて背負うって事で」

「あ~、うん、まあ、そうだな。
色々検討はしてみよう」

realy?!マジほんっきで考えてほしい的なっ!!」
と意気込む香にアルが

「論外だねっ!例えそういうルールが出来たとしても、ヒーローの寮が全力を尽くさないで勝利を諦めるなんてありえないよっ!」
と言うが、それにすかさず

「じゃ、まずあんたが20キロほどウェイト落とすところから全力尽くす感じでお~けぃ?」
と返す香に、アルはNo~~!!と青くなって

「仕方ないねっ!まあ来年はラストで点が取れなくても他で総合1位になれば良いんだしねっ!」
と、速攻前言を撤回した。

そんな金狼のやりとりを生温かい目で見守る一同…

ともあれ、こうして中1にとっては初めての寮対抗の行事、体育祭の全競技が終了した。

残るは閉会式と結果発表である。



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