寮生はプリンセスがお好き7章_47

そうして仕切り直し。

スタートの合図が鳴り響いて、一斉に駆けだす6人のプリンセス。

確かに早い。
圧倒的に早いフェリシアーノ。
短いスカートの裾を翻して風のように疾走して行く。

金虎のプリンセスはおそらく走りやすさを重視してピックアップしたのだろう。
今年はアラジンと魔法のランプに出てくる姫君のような衣装をまとっていて、長い脚をフルに生かした綺麗なフォームでそれに並ぶ。

銀虎と金竜はそれぞれ走るのに向かない裾の長い衣装で、早く走る事を放棄しているらしく、その代わりに綺麗な裾さばきで美しい走りを見せていた。

そして最後に金狼のアル。
こちらもあまりに衣装を気にせずに走るのはNGと香に散々言い含められたらしい。
裾が広がり過ぎないように手で抑えながら、仏頂面で後続組と一緒に走っている。

そんな他の5人の事など一切目に入れることなく、アーサーは視線をまっすぐギルベルトに向けてひた走る。

ヴェールをたなびかせ、息を切らして一心に…

これは他の走者なんて関係ない。
自分はあの腕の中に戻るために走るのだ。

近づいてくるその美しくも精悍な姿。

必死に走っていくと、その大きな手を広げて待っていてくれる。

ギル…ギル…ギル!!!

すぽん!とその腕の中に飛び込むと、第二走者の寮生は気を利かせてアーサーの手に握られたままのバトンを手に取って走っていった。

「お姫さん、お疲れさん!
一生懸命急いでくれたんだな。
汗いっぱいかいてる」

微笑みながらそう言って、ギルベルトはポケットからハンカチを出してアーサーの額にかいた汗を拭いてくれる。

「もう大丈夫。
あとは俺様が勝利者の座へご招待してやるからな」

と、軽々とだき上げられ、アーサーは安堵の息を吐きだして、その肩口に頭をあずけた。
ギルベルトはそれにも小さく微笑んで、今度はアンカーのバトン受け渡し地点へと足をむけた。

自分が何位だったのかとか、今何位なのかとか、そんな事は全く気にならない。
だって、今が何位だろうと、ギルがいれば絶対に優勝できるはずだ。



そうしてアンカーの待機場所で第三走者のルートが来るのを待つ。
今度はギルはアーサーを横だきにするので両手がふさがっているので、バトンを受け取るのはアーサーだ。

「軍曹、今からお姫ちゃんを抱っこかよ。
ほんと体力有り余ってんな」
と、プリンセスを横に笑う金虎寮のカイン。

「軍曹が体力あってプリンセスが軽い。
この両方が揃ってるからこそですね」
と言うのは、銀竜のルーク。
もちろんその隣には、そうだね、と、微笑むフェリシアーノ。

どうやらアーサーは3位だったのだろう。
他のプリンセス達はまだこちらに来ていない。

第二走者の位置まで迎えに来てスタンバっていたのはギルベルトだけらしく、他の寮長達はそれぞれ1人で手持無沙汰気味だ。

その中の1人、香はルークの言葉に大きく頷いた。

「ほんとに!!
ギルでもうちのゴリプリ抱えるなんて、絶対に無理的な?
俺無理すぎて背負って行きたい感じ?ルール改正して欲しい的な?」

「あはは、確かに金狼はカイザーよりプリンセスの方がウェイトありそうだよな」
と、笑う上級生組に

「笑い事じゃねっすよ。
アレ抱えて800とかマジ無理っす!
銀の姫ならその倍でも全力疾走おっけぃっすけど」
と、香はがっくり肩を落とす。

そんな話をしているうちに他のプリンセス達も到着。

バトンはトップグループが第二走者から第三走者へ。
少し遅れて銀狼もルートにバトンが渡った。

「頑張れ~!!ルートっ!!!」
思わずギルの腕の中から声援を送るアーサー。

「単独じゃなくても最低トップグループに入れよ~!!」
と、ギルベルトも叱咤激励する。

声はおそらく聞こえているのだろうが、そこで余分な事をせず、順位をあげる事に最善を尽くすのがルートである。

黙々と走り、300mほどでトップグループに追いつき、そのままペースをあげて追い抜いてトップに躍り出る。

「あ~、こりゃあ優勝は持って行かれるか~」
とそれを見て額に手をやり天を仰ぐ金虎のカイン。

「まあまあ。
これをトップ取ったとしても、銀狼がビリにでもならない限りは、どちらにしても点数的に銀狼は抜くの無理だから。
むしろ総合2位の金狼の上に行けば問題ないよ」
と、クスクス笑いながらその肩を叩く金虎の姫。

それに対して金狼の香は
「心配しないでも、無理っす。
俺ら下手すると断トツ最下位だから安心して欲しい的な?」
と、俯き加減にため息を付き、

「戦う前に諦めちゃだめなんだぞっ!」
と言うアルに

「本当にそれ思うなら、まずダイエット諦めないで欲しかった的な?」
と恨みがましい視線を送った。


そうしてトップで駆け抜けてくるルートに歓声をあげながら、アーサーがバトンを受け取った瞬間、まるでアーサーの重さなど感じてなどいないように、800mを風のように走りきるギルベルト。

もう2位との差などつきすぎて自寮からは歓声すらあがらない。
むしろ他寮のため息があがる中、堂々とゴールを駆け抜けた。



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