寮生はプリンセスがお好き7章_44

そこでいったん全員止まる。

その後まず動いたのはルークだった。

「じゃ、これで銀のチーム点は確保できたから、俺は降りるよ。
次があるから怪我したくないしね」
と、槍を今度は杖代わりにしながら、ゆっくり騎馬から降りる。

「ん。お疲れ、ルーク。
ということで…どうする?2人であれやるかい?
まあ例え香が1位取っても他の2寮が5,6だから、団体戦としては銀の勝ちだし、あとは寮個人の問題だからな。
俺と確実に1対1の勝負してみたいなら、2人で香潰せばいいし、どちらでも良いなら俺は香とやってくるから、決着つくのをそこで見てれば?」
と、ユーシスはルークをねぎらったあと、ギルベルトにそう提案してくる。

その言葉にギルベルトは迷うことなく答える。

「俺様は絶対に負けねえし、どっちでも一緒だな。
ま、ここからはガチ勝負、正々堂々と行こうか」

「りょ~うかいっ!
ってわけで、どっちとやりあっても良いけど、俺は勝率が少しでも高い方とやりたいんで、香行きたいんだけど、香、お前はどうよ?」

ユーシスがそう呼びかけると、それまで所在なさげに手の中で刀をくるくると回していた香は

「おっけ~っすよ?
一応うちのゴリプリが大人数で1人とか卑怯臭い真似はヒ~ロ~()の寮としてはNG的な事言ってたんで待ってたんすけど、そういうことなら、ユーシス先輩とガチ勝負な感じっすね」
と言うと、刀をパシッとしっかりと握り直した。



ここでようやくきちんとした試合っぽいものが初めて見られた。

普段は金のカインの影に隠れるように目立たないが、ユーシスはきちんと基本に忠実に綺麗に剣を使う。
香はどちらかというと独特でトリッキーな型だが、どちらもなかなか崩れない。

打ち合い、受け流し、また打ち合い、かわして、また打ち合う。
周りはそれを固唾をのんで見守っていた。

そうして数分も打ち合っていただろうか…。
いきなり香の騎馬がバランスを崩して倒れかかった。

ああっ!!!
と、会場からあがる声。

勝ったっ!!
と、ユーシスは一瞬息を吐きだす…が、そこで香の身体が宙に浮いた。

そして気づけばユーシスの騎馬の上。
剣を投げ捨て、素手と素足でユーシスを騎馬の下に突き落とした。

ええええっ??!!!!

銀竜寮の騎馬の上でピースサインを掲げる香に、驚く一同。

「別に自分の騎馬の上にいないとってルールはなかった的な?」
と、にかっと笑う。

「…確かにな。
でも相手の騎馬の上に飛び乗るって、さすがの俺様も驚いたわ」
と、まだ目を丸くしたまま、ギルベルトが言いつつも、そろそろ出番かと剣を構えようとすると、なんと香はあっさりとそこからクルクルっと回転しながら地面に飛び降りた。

「あ~、俺もここでリタイアな感じ?
次あるし、そもそもがこの作戦、ホントは対ギル用の隠し技だったから、勝ち狙うには手の打ち見せ過ぎた的な?」
と、笑って肩をすくめる。

「え~、マジかよっ!俺様全然見せ場ねえじゃん」
「金寮2,3年伸しただけで十分じゃね?」
「最後のお前のアレに全部持ってかれた気がすんだけど…」

と、ギルベルトは口を尖らせるものの、降りてしまったものはもう仕方ない。

最終的には不戦勝と、今ひとつ不完全燃焼気味に、寮長対抗騎馬戦は銀狼寮の優勝で幕を閉じたのだった。

さあ、いよいよ最後はシャマシューク風スウェーデンリレーだ。



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