騎馬の足に当たる寮生達は目立たぬように黒や茶の単色で固めた寮も、金や銀などで装飾した寮もあるが、その騎馬達の上に立つ寮長達はいずれも趣向を凝らしたきらびやかな衣装で固めていて、それが６騎並び立つと、なかなか壮観だ。
と笑う金虎のカインに、
「それは阻止…うちも優勝欲しいところですが、まず邪魔者排除するまでは協力しますよ？先輩」
と、にやりと笑みを浮かべて視線を送る金竜のロディ。
金側の最後の１人、金狼の香はその２人の言う事を肯定も否定もせず、我関せずと言った風に口笛をふいている。
一方の銀側は
「俺も最後なんだけどなぁ。
うちの側の後輩達は忖度する気全くなさそうだし、孤軍奮闘？」
と、ぼりぼりと頭を掻く銀虎のユーシスに、
「勝負の世界では年功序列はなし！
俺様はお姫さんのために優勝しねえとだし？」
と言う１年生銀狼のギルベルト、
「俺が忖度してもあまり意味がないというか…俺は次にフェリ抱えて走るために早々に戦線離脱する予定ですから」
と、はっきりやる気のなさをアピールしてみせる２年生銀竜のルークに、
「後輩達、これだよ」
と、ユーシスは肩をすくめて見せた。
（まあ…最終的に騎馬戦の勝利はうちで頂きだな）
金虎のカインは鼻歌交じりに開戦の笛の音を待つ。
まず状況を軽く整理すると、銀狼のギルベルトは参加者共通の敵である。
アレと１対１になれば、悔しいが本人の言う通り学園一なので勝ち目はない。
みんなそれはわかっているだろうから、一斉に潰しに行く事に意義はないはずだ。
あるとすれば…せいぜい次の競技への影響を考えて、この競技を完全に捨てても怪我を避けたい銀竜のルークくらいか…。
しかし彼の場合はギルベルトの擁護に回ると言うよりは、自分だけ離れてゆるゆると騎馬を降りるくらいだろう。
あとは…金狼がどう出るのか…。
香の行動は正直読めない。
が、上手くすれば彼も勝利には頓着していないようにも見えるので、適当に勝負を投げるかもしれない。
そうじゃなかったとしても、銀竜が降りて、銀狼を潰した後は、とりあえず金のチーム点を確実にするために予め意思の疎通が出来ている金竜と共に銀虎を潰し、その後は動きが読めない金狼をやはり２対１で潰して、最後は２年の金竜と１対１の対決。
ここは勝っても負けても恨みっこなしということで、力技になるが、最悪ここで負けても２位だ。
しかしカイン的には金竜のロディにはぎりぎり勝てると踏んでいる。
まあロディもロディで、カインと同じく負けても２位だからという計算はしているだろう。
そんな事をつらつらと考えていると、笛の音が鳴る。
計画通り銀竜は下がり、金狼は様子見をするかのように動かず…他は一斉に銀狼の方へ。
まあ他に任せても良いのだが、銀狼を仕留める役はどうせなら自分がやりたい。
そう思ってカインは騎馬に前に出るように言う。
自分の右側には金竜のロディ。
そのやや後方には静観モードの金狼の香が控えていて、ロディの正面には銀虎のユーシスがいる。
ギルベルトからすると正面から自分、斜め前からはロディ、そして左手からユーシスに攻めて来られる事になるのだから、さすがに乗りきれまい。
早くしないと他に手柄を持って行かれる…と、確認もせず急がせたのがおそらく敗因だ…と、それからすぐカインは悟った。
本来ならギルベルトに向かうはずの銀虎の矛…それがいきなり隣の金竜、ロディに向かった。
（……えっ？？）
と思ったのはカインだけではない。
隣の金竜のロディも焦った顔をしている。
「ちょっ！！俺に来ちゃう？！」
慌てて向かってくる剣を受けて言う相手は銀虎のユーシス。
その後輩の驚きの声に、銀の虎は
「当然でしょ。俺、“銀”だしね？」
と、にっこりと微笑んだ。
「軍曹やられたら、ルークは早々に降りるし次狙われるの俺なのに、何故、そこでそれを指くわえて見てると思うかなぁ」
との言葉には、対峙しているロディのみならず、カインも焦る。
３対１なら急がないと手柄を取られると思ったから一気に攻勢に出たのだ。
１対１になるならもう少し慎重に出る。
いや、１対１どころか、ここでロディがユーシスに負けたら、２対１だ。
そんな事を瞬時に悟り、突進してくるギルベルトを見て
──まずいっ！！
と、騎馬達に少し下がるように命じるも、騎馬が動かない。
「どうしたっ？！！」
と叱咤するカインだが、すぐ気付く。
長い長い槍。
どう見ても小回りの効かないそんな武器をチョイスしてどうするんだと思っていたが、即リタイアすると思っていた銀竜のルークは、それで後ろから騎馬の１人の足を器用に捉えていた。
「ルークっ！ダンケっ！！」
と、バランスを崩した騎馬の上で傾くカインを騎馬からたたき落とし、その勢いでユーシスの加勢に入って金竜のロディを落とす。
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