寮生はプリンセスがお好き7章_42

「どうしたよ、お姫さん。何かあったか?」

と、ギルベルトが駆け寄ってくると、アーサーは転がるようにステップを駆けおりてポスン!と受け止めるギルベルトの腕の中におさまった。

そうしてぎゅうっとだきついたままのプリンセスからは状況を聞きだすのは難しいと判断したギルベルトは、自然とアーサーを任せてあった実弟へと視線を向ける。

そこで
「…実は……」
と、ルートから事情を聞くと、ギルベルトはほんの一瞬考えて、次に笑ってアーサーをだきしめた。

「お姫さんにそこまで思われてる俺様って、すっげえ幸せもんだな~」
などと、嬉しそうな声で言われて、アーサーはグスン、と、鼻をすすりながら、涙でいっぱいの目でギルベルトを見あげる。

ギルベルトはその真っ赤になった鼻先にちゅっと口づけを落とすと、
「だ~いじょうぶ!安心しな、お姫さん」
と、微笑みかけた。

「怪我すんのは俺様じゃなくて、他の5人の方だからな?
自慢じゃねえが、俺様、歩くより早く棒っきれ握らされて、よちよちの頃から武術仕込まれてるから、たぶんこの学校の誰より強い自信あるし?
もし万が一落ちたところで受け身くらいは取れるから、怪我する事はねえよ」

「…ほんと…に?」
「本当に」
「…ぜったい?」
「おうっ!絶対だ!
だからお姫さんは英雄譚のドラマでも見る感覚で、世界一カッコいい俺様の雄姿を楽しんで見ていてくれな?」

そう言ってもう一度ぎゅっとアーサーをだきしめると、ギルベルトは
「じゃ、今度こそ行って来るな。
ルッツ、お姫さん頼むぞ」
と、アーサーをルートに預けて走っていく。

おお~と会場中から聞こえる声に、ハッとして自分を見あげるアーサーに、ルートは

「うむ…。おそらく…競技中に状況がわかるように寮長達には小型のマイクを装着しているからな。
今のやりとりはおそらくみんなに聞こえているな」
と、苦笑した。

うあああ~~!!!!
と、頭を抱えるアーサー。


だが、当のギルベルトは
「うちのお姫さん、世界で一番可愛いぜ~!」
と得意げに言って、上級生組に

「確かにお前んとこのお姫ちゃんは可愛いけど…お前は爆発しろっ!」
「俺なんてうちのお姫さんに『銀虎として恥ずかしくない成績が取れないようなら落ちて他の騎馬に踏みつぶされて死んでこいっ!』とか言われたのに…」
「爆ぜろ!」
「確かに銀狼のプリンセスも可愛いけど、世界で一番可愛いのはうちのフェリです」
「あ~もううちのと取り替えてほしい的な?」

など、突きまわされて笑っている。



そんな寮長達のやりとりを聞きつつ、

「まあ…寮長はこれが最後の競技じゃないからな。
次の競技が最重要競技だから、ここで怪我するような愚行を犯す寮長はそうそういないから大丈夫だ」
と、ルートはアーサーの肩をポンポンと叩いて、座席に戻るように促した。

こうして最後から二番目、寮長そろい踏みのシャマシューク風騎馬戦の戦いの火ぶたが切って落とされる。



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