寮生はプリンセスがお好き7章_40

こうしてもっとも過酷な競技と聞いていた障害物競争が終了。

その後の棒倒しは、高校生組はとにかくとして、中学生は1年生と3年生では体格差が如何ともしがたく、圧倒的に3年の虎寮達の勝利に終わった。

ここからは騎馬戦、その後はスウェーデンリレーと、寮長の強制参加競技が続くので、寮長は体力的に苛酷になっていく。



「さあて、行って来るか…。
ルッツ、お姫さんの護衛頼むぞ」

すでに勝敗は見えている棒倒しも中盤に差し掛かった頃、ギルベルトがそう言って立ち上がると、左右からささっと寮生が来て、仁王立ちするカイザーにサポーターをつけて行く。

まずは胸部。
胸全体を覆う、いわゆる胸甲というやつで、なんだか中世の騎士物語に出てくるような物のように見える凝った細工のものだ。

頭にはヘルメット…ではなく、どう見ても兜。
それもなんだかファンタジー系のゲームに出て来そうな、左右に尖った銀色の獣の耳のような形の飾りがついているものである。

え?え?え?
俺が知ってる騎馬戦と違う???

まるで戦争に行く中世の騎士みたいな格好のギルベルトに、アーサーはポカンと呆ける。

その驚いた様子に気づいたギルベルトはどこかいたずらっぽいような…得意げな子どものような、そんな顔でにやりとアーサーを見下ろした。

「ああ、お姫さんはうちの学園の騎馬戦は初めて見るもんな。
これはそんじょそこらの騎馬戦じゃねえぞ。
各寮の寮長達の晴れ舞台だ。
しっかり見といてくれよ」

訳が分からないまま、それでもまんまるの目を見開いてギルベルトを見あげたままコクコクと頷くアーサーの頭をくしゃりと撫でると、ギルベルトは視線でルートに何か促したようだ。

「俺が説明しよう」
と、ルートがそれを受けて頷いた。

「シャマシュークの騎馬戦は寮長6人がそれぞれ騎馬の上になっての直接対決だ。
だから騎馬は6騎のみ。
ルールは単純で、寮長が地面に触れたら負け。
最後の1人が決まるまでやる。
点数は1位から6位までの寮別とは別に金銀のグループ点がある。

武器は先が尖っていない物で先端に布を巻きつけた木製の物を一振りまで。
直系が2cm以下は尖っているとみなされる。
武器自体の長さは問われない。
だから騎馬の馬役は皆完全防備。
寮長も心臓などの急所はサポーター装着を義務付けられている。

あとはそれなりの高さから不安定な体勢で落ちる事を想定して頭を保護するものの装着も義務だ。

サポータの形状は問わないし見た目の評価点などはないが、ある意味寮長の晴れ舞台だけあって、各寮装飾にもそれなりに気合いが入っている」

そこで少し言葉を切ってチラリと兄の方に眼をむけるルートの視線にならってアーサーもほぼサポーターの装着を終えたギルベルトに視線を戻した。

──…かっこい…い……


まるでファンタジーの中の騎士のような格好をしたギルベルトがそこに立っている。
寮のイメージで作ったのだろうか…
全体的に銀色で、シルエットがシャープな感じだ。

手に持つのはやはり銀色に輝くエストックのような細身の剣。
もちろんルールにのっとって細い部分も2cmで、先端には布のカバーがついている。

鎧と兜にもところどころ、それはギルベルトの目をイメージしたのであろう真紅のラインストーンがちりばめられていたが、この剣も柄の部分にしっかりと紅いラインストーンが埋め込まれていた。

こうして全てを身につけた状態で最後に寮生が恭しくその肩に羽織らせたマントはやはり銀色で止め具は真紅の石。

それをひらりと翻して、

「じゃあ、行って来る。
我が銀狼寮とプリンセスのために勝利を捧げるためになっ」

と、言うと、ギルベルトは少し身を屈めてアーサーの額にキスを落とす。

そして騎馬役の寮生の高校生達3人を従えて、参加者の待機場所へと移動して行った。



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