寮生はプリンセスがお好き7章_39

シャマシュークの障害物競争は、ある意味チャレンジ競技だ。
全種目中で一番過酷な競技だけあって、ゴールするだけでかなりの得点が入る。

参加者はほぼ体力や運動能力に自信のある高校生。
それでも実際毎年のようにリタイアする選手が続出している。
にもかかわらず、中1組が2人とも完走というのは驚くべき快挙である。

しかしながら…その驚異の1年生組は競技終了後、そろってうなだれていた。


「…すまん…1位になれなかった……」
大きな身体を小さく縮ませるようにして、しょぼんとうなだれるルート。

え?ええ??

あれ、完走しただけであり得ないレベルですごい事だし、ましてや並みいる体力自慢の高校生を向こうに回して堂々の2位って、とんでもなくすごいことじゃないのか??

と、わたわたと動揺するアーサー。

まあ、そうだな、と、苦笑するギルベルト。


それでも…

──1位じゃなかった…。兄さんなら1位になれたのに……

と言うルートだが、その自分よりもはるかにガタイの良い大男の頭をアーサーはぎゅっと引き寄せてだきしめた。


「俺は…俺の大事な盾が折れずに傷一つ付かずにちゃんと手元に戻ってきてくれて嬉しいぞ?
ましてや完走だけでも点数がたくさん入るのに、参加者は2人除いて全員体力自慢の高校生なんて中で2位なんてすごい成績とってきてくれたおかげで、ギルの分と合わせて銀狼寮は圧倒的にトップだ。
頑張ってくれてありがとう、ルート」

飽くまで柔らかくそう言うアーサーの言葉を、ギルが補足する。

「ま、そう言う事だな。
俺様と香が同じ点を獲得していて、もう1人の選手、ルッツが2位、アルフレッドが5位だから、この競技の獲得点数は圧倒的にうちがトップだ。
vs銀の勝負でも、銀竜が2人ともリタイアした分を差し引いても、3位に銀虎が入ってるから、銀の勝ちだ。
例え最下位だったとしても完走の点数自体が高い競技ではあるけど、3位までと4位以下は加点が圧倒的に違うからな。
1位の香の点数は俺様と相殺として、2,3位を銀で独占できたのは大きい。

あとは…まあ、香がいきなり自分でこの競技出てくるとは俺様も思わなかったから。
寮長ってのもあるけど、寮長の中でもあいつは、身体能力は高校生レベルじゃねえ。
あいつは学生やりに来てねえから。
本人も言ってたけどな、王が自分の養い子を守るためにプロを送りこんでる、いわば雇われ寮長だ。
俺様だって中一の時にあのレベルのプロの上級生がいたら、たぶん負けてる。
だからあいつは気にしないで良い。
実質飽くまで学生というくくりの中なら、お前がトップだ」

兄がそこまで言うなら、それに勝とうと言うのが無謀だったのだろう。
確かに…兄ですらしない、3mの壁からの飛び降りを当たり前にこなす男だ。

それでも…来年度以降を目指して少しでも近づけるように鍛えねばならないが…今はこれで良しとしよう。

と、とりあえずルートは納得した。


そして同じ頃……

「悔しいんだぞっ!!」
と泣くのは金狼寮のプリンセス。

それを金狼寮の寮長である香は内心苦笑しながら眺めている。

割合と過酷な競技の多いシャマシュークの体育祭の中でも抜きんでてクリアが難しい障害物競技。

出たがるだろうと思ったので、プリンセスの衣装の中ではスリットがあるため比較的動きやすいチャイナドレスをピックアップしておいたのだが、それでもジャージ姿の一般生徒よりは動きは制限される。

なのに、彼はそれでもトップを取る気満々でいたらしく、完走しただけでたいしたものだと言うのに、こうして悔し泣きをしている。

「あのねぇ…全参加者11人中、ゴールしたのは6名。
順位的には上の方ではないっちゃないけど、その服装によるハンデを考えればたいしたもん的な?
特に壁、ウォールね、アレまじリスペクトだからっ!
ウェイト落とすの失敗した今のファットな状態の体格で、手だけであれ登るってマジあり得ねえって感じ。
握力勝負なら、あんた間違いなくトップだから?」

色々と…なぐさめているのか、フォローになっているのかなっていないのか、よくわからない言葉ではあるが、トップと言う一言が、ナンバーワン大好きのお子様の心に突き刺さったらしい。

「…すごい?」
「すごい、すごいっ!」

「ナンバーワン?」
「…握力なら、間違いなく?」

「そっかっ!そうだよねっ!!」
「…へ??」

いきなり立ち直るアルフレッドに、香の方はぽか~んとする。

「そうだよ、俺はナンバーワンなんだよっ!
まあ今回はこの動きにくい格好のせいで順位落としたけど…来年からはこの格好でもトップになれるように頑張るぞ~!!」

お~~!!と雄たけびをあげるアルフレッド。

(え~っと…何か表現間違った的な?
俺、競技でナンバーワンって言ってない感じなんだけど……
それに…来年も同じ衣装取れるかっつ~問題もある的な……)

色々突っ込みどころは満載で、実際に口にしようかどうか迷ったのだが、香は結局口をつぐんだ。

理由は…めんどくせ~し?!!

そう、来年の事は来年の自分に任せればいいのだ。

こうして波乱の体育祭も終盤へ。

あと2,3の競技が終わったら、最後のリレー。
プリンセスを抱えて走るリレー。

この巨体を持ち上げて走らなければいけない。

そんな問題を目前に控え、来年の事なんて考えてなんか居られない金狼寮の寮長なのであった。



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