寮生はプリンセスがお好き7章_37

──よ~い…スタートっ!!!

パンッ!!というピストルの音に一斉に走り出す選手達。

ズタ袋までは皆ほぼ同時に到着したものの、それを抱えて100mの時点で、一部の選手が早々にトップ争いから脱落する。

金狼寮の2人とルートは荷物を抱えていても、全くスピードを落とすことなくトップで全力疾走。

銀竜、金狼、銀狼の1人は、これに備えて腕力のある寮生を人選したのだろう。
抱える事には問題なさそうだが、元々の足自体は速くないようで、それに若干遅れて続く。

「今年の中1組はすごいっ!
トップの3人のうちの2人は中学1年生だっ!

まあ1人は軍曹の実弟だから、それもありなん!

ダークホースは金狼のプリンセスっ!
チャイナ服でズタ袋っ!!

視覚的にはすごい図だが、速いっ!!

その中で唯一の高校生は金狼の寮長、香っ!
高校生の面目躍如かっ?!!

それを追う高校生5人組っ!!
くす玉割りで追いつけるかっ?!」

まるで競馬かプロレスの解説のように実況していく司会。
ハイテンションのそれに思わず手に汗を握ってしまう。

トップ3人は100mを走りきり、ズタ袋を放り出して平均台へ。
3人ともそこは危なげなく渡り、次のくす玉割りへ辿りついた。


そこで、

「ルートっ!!頑張れぇぇ~~!!!!!」

とアーサーも立ち上がって応援する。

あちこちからあがる歓声に紛れてしまいそうなその声だが、くす玉割りの位置が比較的銀狼寮のテントに近いので、トップ3人にはしっかり届いて、

「うむっ!アルトのために勝利を勝ち取ろう!」
と、答えるルートと、

「俺の事もちゃんと応援してくれよっ!」
と膨れるアル。

それに
「自寮応援するのは仕方ない的な?」
と苦笑する香。

そしてルートは冷静に狙って2発目でくす玉を割り、香は一発で当ててトップで次へ。

アルは感情の揺れのせいか、なかなか当たらず、高校生5人組が追いついてきたあたりでようやくくす玉を割って3番手でうんていへ辿りつく。

しかしアルがうんていに辿りついた頃には、トップ2人は壁登りだ。

これはルートが遅いわけではないが、ウェイトの差だろうか…
驚くほど身軽に登る香が圧倒的な差をつけて登り切り、さらにギルと違って壁のてっぺんからクルクルと猫のように器用に回転しながら飛び降りた。

もちろんその後のハードルも独走状態。

トップでゴールテープを切った。


一方で、目の前で香が一気に飛び降りる様を見たルートは壁の頂上で一瞬悩む。
このままでは差をつけられて終わる…

その一念で自分も同様に…と、飛び降りようとする。

ル~ッツ!!!そいつはダメだぞっ!!!香は特別だっ!!
地道に行けっ!!!

それを察知し、焦って立ち上がって叫ぶギルベルトの声も耳に入らない。

追いつかなくては…との思いだけが脳内をしめていて、高さへの不安を押し込めるように軽く眼を閉じた時、聞こえて来た高い声。

「ル~トッ!!無茶はダメだっ!!
お前が怪我したら、誰が俺を守ってくれるんだっ!!!
この競技で全てが終了するわけじゃないっ!!!」

それはまだ声変わり前の高い声だけに、ギルベルトの声よりもよく響いた。
そして、それを耳にして、ルートは平静を取り戻す。

…ああ、そうだ。大前提として自分はプリンセスを守れる状態で居なければならない…

そう、だからこんなところで怪我をするわけにはいかないのだ…
と言うところに落ち着けば、おのずから答えは出て来た。

どちらにしても香と同様の事をしても前を行く香との差が縮まる事はない。
むしろここで怪我をすれば、順位を落とすどころか、下手をすれば完走できなくなる。

──いかんっ!!

グラリと飛び降りるために前傾姿勢になった身体を腕力で支え、ルートは兄がやったのに倣って、3分の2までは壁を伝い、そこから飛び降りた。

これで香との差は決定的になったわけだが、どちらにしても単純な足の速さでは香に敵いそうもない以上、例え今追いついていたとしても残りのハードルで身の軽い香に引き離されていただろうから、これが最善だと理解する。

そうして結果、無事2位でゴールした。



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