寮生はプリンセスがお好き7章_35

まずは競技説明がてらのデモンストレーション。

「あ、始まるよっ!」
と、それまで互いに向かって笑みを浮かべながらアーサーと談笑していたフェリシアーノがトラックを指差した。


「というわけで、中1の諸君以外はお馴染みだろう!
毎年この競技に出場しては圧倒的な差をつけて優勝してしまうので、今回から出禁になった今年の銀狼寮の寮長、ギルベルト・バイルシュミット!!」

と、紹介を受けてスタート位置にスタンバイするギルベルト。


司会のその説明にアーサーが思わず隣のフェリシアーノに視線を向けると、

「うん。それは本当らしいよ?
圧倒的すぎて皆やる気なくなっちゃうから、1位と同等の点数を自動的に加算するのを条件に、今回は出場しないようにって事になったみたい」

と、フェリシアーノは頷いて見せる。


すごい人間だとはわかっていたが、そこまでだったのか…と、アーサーが今度は学園中の生徒の歓声を受けるギルベルトに視線を移すと、ギルベルトはそれにすぐ気付いて、こちらに向かって笑顔で手を振ってくれた。

アーサーは本当に自分なんかがそのすごい人間と並び立つのは不似合いだと思いつつもそれに向かって手を振り返す。

それでもなんだかギルベルトが遠く感じて、寂しいような悲しいような心細いような気持に駆られていると、なんとあんなに遠くにいてもそれを感じとったようだ。

ギルベルトは司会からマイクを取りあげた。

そして、
「お姫さん、俺様は自分がお姫さん守れる力があるって事を証明するためだけに、今回これやってるからな?
見ててくれよ?」

と、またにこやかにこちらに向かって手を振る。


本当に何から何まで完璧に分かってこなしてしまうギルベルトには、本当に敵わない…と、呆れすぎて出かけていた涙すらひっこんでしまって、アーサーは小さく笑った。

それにホッとしたような笑みを浮かべるギルベルトの顔が見える。

申し訳ないとか釣り合わないとか、そんな事を考えるよりは、そんな気遣いが嬉しいと、一緒に居られて幸せだと言うのが正解なんだろうなと思いつつ、でもまた何かあったら自分はそんな風に落ち込んで、それに気付いたギルベルトに慰められるんだろうな…と、アーサーは内心ため息をついた。


こうしてスタートの合図と共に走りだすギルベルト。

「まず最初は重荷を背負っての100m走」
と、司会が説明する。

スタート地点から3mほどの場所に置いてあるズタ袋をまるで重さなど何もないような物のように軽々と肩に担ぎ、何事もなくトラックを駆けて行くギルベルトに、司会が苦笑。

「軍曹が持ってると軽そうに見えますが、これ、50キロあります。
たぶん銀狼や銀竜のプリンセス達より重いです」

という解説にグランド内から起こる笑い。

そして次に100m地点。
それを投げおろすと、クルリとこれも軽々逆立ちで平均台を渡りきり、その後、砲丸を手にすると、クルリとトラックの内側を向いて、トラック中央に並ぶくす玉に向かって投げる。

一応危なくないようにくす玉の後方にはネットが張ってあるが、それは正確に一番端のくす玉に当たって、くす玉を割った。

その間にも入る司会の解説。

「これも軽々投げてますが、重さ6キロの砲丸です。
高校生の正式競技で使用されるもので、それを一発で普通に正確にくす玉にあてられる時点で、何かがおかしいです。
ここで、かなりの生徒が脱落します」

そんな司会の言葉を尻目に、外れることなく当たるのが前提なのだろう。

ギルベルトは砲丸を投げた次の瞬間にはうんていに向かって走り出していた。

もちろんそれにも解説が入る。

「うんていは高低差があるので、地味にきついです。
特にその前に50キロの荷物担いで平均台を逆立ちで渡り、さらに6キロの砲丸投げてますから、普通の人間は腕がダルダルです」

と、そんな司会の言葉もどこ吹く風。

ギルベルトは最初は低く進むに従って高くなっていくうんていを驚くべき速さで渡りきり、そこから数m先にある積み上げた丸太で出来た3mの壁も危なげなく登っていく。

「これも、軍曹が登ってると馬鹿みたいに簡単に見えますが、登るためには丸太をとてつもない握力で握って体重を支えなければならないので、普通の人間は登れません。
毎年スポーツ推薦で入ったような猛者達がチャレンジするこの競技ですが、くす玉割りとここが一番の脱落ポイントです」

そんな解説の間に、ギルベルトは下りは途中まで登るときよりも注意深く壁を伝い、残り3分の2くらいのところで、飛び降りた。

そうしてその最後の障害を超えれば、普通にハードル。

これもそれまでありえない難関を超えて来た疲れなど全く見せる様子もなく、軽々と走りぬけてゴール。

周りからは、おお~という感嘆の声と共に拍手喝さい。

確かにこれだけ障害など何もないような様子で走りぬけられたら、誰も敵う気などしないだろう。


司会は苦笑交じりに

「一応どんな競技かを説明するために軍曹に回ってもらいましたが、これがスタンダードだと思わないように。
はっきりいって色々が異常なレベルです。
小学生の運動会に軍隊の特殊部隊の隊員が紛れこんだようなものです。
他の参加者がヘタレなわけではない…と、彼らの名誉のためにあらかじめ言っておきます。
これを超えられたとしたら、その生徒は超高校級です。
テントに戻ったら思い切り褒め称えてあげて下さい」

と、まずフォローから入る。

それにあがる笑い声。

その間にギルベルトは呼吸を乱す事もなく当たり前にクールダウンストレッチを終えて、一旦本部側の席についた。

そこで司会の声が宣言する。

「ということで、シャマシューク学園体育祭1の難関競技、障害物競争を始めますっ!!」




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